パッチワーク
作 : 揚巻
(♂1:♀2 不問3) 被り(♂1:♀2:不問1)
♀サヤ:双子の姉
♀マヤ:双子の妹
♂ユウイチ:サヤの彼氏
♂♀医者:
♂♀看護師:
♂♀救命士&N:
※被り(♂1 : ♀2 : 不問1)場合は以下のようにお願いします。
♀サヤ:
♀マヤ・看護師:
♂ユウイチ・医者:
♂♀救命士&N:
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<声劇メモ>
サヤとユウイチは叫びがあります。マヤにも叫びありますが、なくても成立します。
シンジも登場しますが台詞はありません。
不問の場合は男性も女性も、要所要所の言い回しや語尾を変えても大丈夫です。
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N :深夜の林道。木々の隙間を車のヘッドライトが蛇行しながら流れていく。
ユウイチが運転する隣りで、サヤが少し怯えながら身を寄せている。
後部座席のシンジとマヤは眠り込んでいる。
サヤ:ねえ、もう帰ろうよ
ユウイチ:なんで?
サヤ:だって、こんな山の奥まで…
ユウイチ:大丈夫だよ。峠を越したら町に出るからさ
サヤ:…その峠が心霊スポットなんでしょ
ユウイチ:ドライブしたいって言ったのサヤとシンジだからな?
サヤ:だって私知らなかったもん、シンジくんが肝試ししたいなんて言ってさ…
ユウイチ:単に事故が多いってだけで、心霊がどうとかは後付けだろ
サヤ:その事故が、幽霊のせいかもしれないでしょ…何か出たらどうするの?
ユウイチ:なんもないって。下りたらガソリンスタンドもあるしさ。
…あ、でかいゲーセンあったよな、寄ってこうぜ、な?
サヤ:…やだなあ
ユウイチ:単なる噂だよ。…なんなら降りて写真でも撮るか~?
サヤ:冗談やめてよ!もう…
ユウイチ:ごめんって。でも、通り抜けるだけだし、なんか出ても気づく暇ねえよ
サヤ:安全運転してよね
ユウイチ:はいはい
サヤ:(溜息)…マヤとシンジくんは気楽でいいなあ、全然起きないし
ユウイチ:飯食ったら爆睡だもんな。峠に着いたらシンジ起して運転交代しようかなあ
サヤ:だから!オバケ出るところで車停めるとか絶対やめてよ!!
ユウイチ:そんなに怖い?
サヤ:…こわい
ユウイチ:もう~かわいいな~サヤ、ほらほら~もうすぐ峠だよ~~
サヤ:ユウイチ!やめてって…!(サヤ、何かを見つけて)……………えっ……何、あれ……
ユウイチ:は?何?
サヤ:あの…カーブのところ…だ、誰か…立って……
ユウイチ:あ?…(ユウイチも人の姿を確認する)…!?…っ、マジかよ!!!
サヤ:あ、あれ、ゆ、ゆうれ……
ユウイチ:飛ばすぞ!捕まってろ!サヤ!!!!
サヤ:飛ばすって…?!
ユウイチ:ついてきたらどーすんだよ!!!!
サヤ:ちょ!……ユウイチ………!
N :4人を乗せた車はカーブを猛スピードで曲がろうとしたが遅かった。
ブレーキ音を響かせながら、そのままガードレールを突き破り、
車体は山道の下へと転がり落ちていった。
どれくらいの時が経っただろうか。サヤは薄暗い部屋で目を覚ました。
白衣姿の二人がサヤを見下ろしていた。
サヤ:……ん
医者:…目が覚めたのかい?
サヤ:……あ…
医者:私の声が、聞こえるかい?
サヤ:…は、はい…
医者:…驚いたな
看護師:ええ…
サヤ:あの…ここは…
N :医者と看護師は一瞬見つめ合った。
看護師:病院です
サヤ:びょういん…
医者:君の名前はわかるかな?
サヤ:…結城…マヤ…です…
医者:君は、結城マヤさん?
サヤ:あ、いいえ、…結城サヤです
医者:結城サヤさん。…マヤさんは君の双子の妹だね?
サヤ:…はい……すみま、せん……頭が、ぼんやり、して……
医者:いいんですよ。治療が終わったばかりですからね。
…君は、峠道で事故に遭って、怪我をしたんですよ。覚えていますか?
サヤ:…峠道……事故………
医者:ええ。お友達とドライブ中に…
サヤ:……友達…………はっ!みんなはっ!……っ!痛っ………!!!
看護師:安静になさってください。まだ縫合を終えたばかりですから
サヤ:…はぁ…はぁ………あの、みんなは…無事、なんですか……っ!
医者:ええ。無事ですよ。あなたと運転手の方はここに入院しています
サヤ:ユウイチの怪我は…?
医者:足を少し…。ですが大丈夫ですよ、軽傷です。
あなたは頭部に外傷がありましたが、そちらも問題ありません。
検査も兼ねて数日入院が必要です。多少頭痛があると思いますが、問題ないでしょう
…今も痛みますか?
サヤ:はい…ガンガンします…
医者:…鎮静剤を
看護師:はい
サヤ:マヤとシンジくんは…
医者:無事ですよ。先程までここにいらっしゃったが、お二人は警察に事情を説明しに行かれました。
事故の衝撃で車外へ飛ばされていましたが奇跡的に軽い怪我で何よりでした。
サヤ:…良かった……みんな…無事で…
医者:さぁ、もうしばらくゆっくり休むといい。薬を入れたから…安心して…
サヤ:…あ、りがとうござい……ま……
間。
医者:…眠ったようだね
看護師:あの男の合成はいつなさるんですか?
医者:なーんか、この子で満足した感じ、かな?
看護師:あれほど検体を欲しがっておられたのに
医者:だってさ、まさか目を覚ますと思ってなかったからねえ。これからの経過が楽しみだ
看護師:今後の処置は
医者:男の方は…モルヒネ適当に打っておいて。死んだら死んだでいいから。…この子は、上の部屋に
看護師:…わかりました
N :サヤは夢を見た。目の前にマヤがいる。手を伸ばしたいが、体が全く動かない。
マヤ:(サヤ…)
サヤ:(マヤ!)
マヤ:(サヤ……どこ…?)
サヤ:(マヤ…?私はここよ!目の前にいる!)
マヤ:(違う…)
サヤ:(え?)
マヤ:(どこ…どこなの……)
サヤ:(マヤ!ここだよ!こっちを見て!)
マヤ:(サヤ…教えて…)
サヤ:(なあに、マヤ…)
マヤ:(ワタシノカラダハドコニアルノ?)
サヤ:はぁっ!!!…はっ、はぁっ……夢………うっ!痛っ……!
N :飛び起きた衝動で激しく痛む頭を抱え、ゆっくりと病室を見回すサヤ。
簡素な白い部屋に、ベッドはひとつきり、脇には点滴スタンドがある。
小さなテーブルには自分の持ち物が揃えて置かれている。
サヤは頭を刺激しないように、ゆっくりベッドから降り、ふらふらとテーブルまで歩いていった。
サヤ:携帯……あれ…充電切れてる…?
看護師:…どうされました?
サヤ:…!!…あ、看護師さん、すみません、突然で驚いてしまって…
看護師:携帯ですか?
サヤ:あ、はい。…マヤに連絡とりたくて。あの、充電器貸して頂けませんか?
看護師:充電しても使えませんよ。ここら一帯は圏外なので。
サヤ:そうですか……あの、ユウイチに会うことはできますか?
看護師:足の傷が痛んでいたようですが、先ほどようやく眠りました。
今はゆっくり休ませてあげたほうが良いかと思いますが。
サヤ:わかりました…、じゃあ、あの、電話をお借りしてもいいですか?家族にこのことを…
看護師:あなたの妹さんが連絡されていたので不要かと思います
サヤ:あ…、そうですね、すみません……
看護師:あまり起きていらしゃると傷が開きますよ。頭痛もひどくなりますし、入院が長引きます。
今は横になって体を休めるようにして下さい。
サヤ:はい…
N :看護師に支えられ、ベッドに戻るサヤ。横になった途端に痛みを増す頭痛に思わず顔をしかめた。
看護師:鎮痛剤を入れておきます。ゆっくりお休みください。
サヤ:あ………はい……
N :看護師は点滴のチューブに注射器を刺し、薬剤を投与した。サヤは瞬く間に眠りに落ちる。
看護師:あーあ、めんどくさい…
N :サヤは再び夢を見た。やはり目の前にマヤがいる。マヤはじっとサヤを見つめている
サヤ:(マヤ…)
マヤ:(…)
サヤ:(マヤ…ねえ、何か言ってよ…)
マヤ:(…)
サヤ:(マヤ…どこにいるの?早く帰ってきて…)
マヤ:(違う…)
サヤ:(違う?)
マヤ:(ねぇ…サヤ……どこにあるの?)
サヤ:(どこに?)
マヤ:(…私のからだ)
サヤ:(マヤの、体?)
マヤ:(そうだよ…これは私の体じゃない、ねぇ、サヤ、私の体をかえして……)
サヤ:(マヤ!マヤの言ってる意味がわからないよ!ねえ帰ってきて、私の傍にいてよ…)
マヤ:(そばにいるよ…)
サヤ:(どこに…!)
マヤ:(…チカ)
サヤ:(ちか?)
マヤ:(地下に…いるよ…、ユウイチも…シンジも…サヤも……)
サヤ:(え?私…?)
マヤ:(…)
サヤ:(ねえマヤ、それってどういう…)
マヤ:(…私の体…私のからだ…わたしのからだ…
…カラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダ……)
サヤ:…!マヤ……!ハァッ…ハァッ…
N :サヤは目を覚ました。ゆっくりと身を起こす。激しかった頭痛は薬のおかげでおさまっていた。
サヤ:変な夢…マヤは地下にいるって…みんなも、私も…?
なんなの…あれから何時間経ったの…?それとも何日…?
マヤは警察に行ったんじゃないの?!…私の頭、おかしくなっちゃったのかな…
混乱してるだけ?マヤのあれは、やっぱりただの夢だよね…
マヤ:チガウヨ
サヤ:…!えっ、今、私、自分で何を言って…
マヤ:チ…カ……
サヤ:ぐっ!!
N :サヤは反射的に口をおさえた。
意図していなかった言葉を、自らの口が発したことに動揺していた。
おさえても尚、口は動き続けた。声こそ発しなかったものの、口の形はチカ、チカ、と繰り返す。
吐き気をこらえるようにサヤは口を押さえ続けた。そしてそれは、やがて止まった。
サヤ:地下…地下に何があるの…。もうやだ…ユウイチ…ユウイチに会いたい…
N :それから数分後、サヤは素足のまま、壁伝いに病院の廊下を歩いていた。
今まで混乱だと思っていた思考は、病室の外に出ると確信に変わった。
誰もいない。病室らしき部屋はあれど、患者も、看護師も医師も、誰もいなかった。
サヤ:ここ…本当に病院…?
これじゃあ、ユウイチがどこにいるのかわからない…
N :その時、どこからか呻き声が響いた。
サヤ:ひっ…!
N :呻き声は続く、そして、その声を聞くうちに、サヤはその声の主が誰であるか気が付いた。
サヤ:ユウイチ…?!
N :声のする方へと、歩みを進めていく、
やがてその声は、地下へ続く階段から響いているのだとわかった。
サヤ:地下…マヤが言ってた通り…
N :ゆっくり、一段ずつ、サヤは階段を降りていった。徐々に蛍光灯の灯りが届かなくなる。
そしてとうとう暗闇になった。階段がどこまで続いているのかわからなくなる。
しかし声は確実に、はっきり、大きくなっていった。
ようやく地下に着くと、サヤは手を伸ばし、再び壁に体を寄せた。
意を決し、暗闇に向かって声を絞り出す。
サヤ:誰か、いるの!?
N :その声に、呻き声がぴたりとやんだ。そしてすぐ、
ユウイチ:サヤ!サヤか?!俺だ!ここだ!!!!!!!!
サヤ:ユウイチ!
N :ユウイチの声が響いた。暗闇の中、かすかな光がもれている。
サヤは光に向かって駆け出した。そして注意深くドアを開けた。
そこは実験室のようだった。切れかかって薄暗く光る蛍光灯の下、
ベッドに横たわってこちらを見るユウイチの姿があった。
ユウイチ:サヤ!!!
サヤ:ユウイチ!!
ユウイチ:サヤ、無事で良かった…ずっと心配で…
サヤ:ユウイチ、怪我は?先生は大丈夫だって言ってたけど…どうしてこんなところにいるの…?
ユウイチ:事故った後目が覚めて…俺も、そうきいた、心配いらないって…
足を縫ったから、安静にしてろって…それから薬打たれて…寝ちまって…
気が付いたらこんなところにいた…動けねーし、痛てーし…くそっ…
サヤ:私も同じように聞いてる…みんな大丈夫だって、マヤもシンジくんも…
ユウイチ:あいつら、車から投げ出されて無事だって言ってたけ…ど……あ…?
サヤ:ユウイチ?
ユウイチ:なんで…外に投げ出されてるんだよ…あいつら後部座席にいたのに…おかしくないか…
サヤ:…二人が、ドアを開けた…ってこと?
ユウイチ:寝てたんだぞ!?どうやってあの一瞬でドアなんて開けられるんだよ…
あの医者の言ってることはおかしい…
なんなんだよ、ここ…本当に病院なのか?!
サヤ:私もわからない…!!二人はどこにいるの…!?ねえ、一緒に二人を探そう!?
ユウイチ:ああ…
サヤ:ユウイチ?どうしたの?
ユウイチ:サヤ…俺の足を見てくれないか…
サヤ:足?
ユウイチ:…変なんだ…腰から下が動かない。軽く縫っただけだろ?なのに、動かない…おかしいんだ…!
なんかで固定されてるならはずしてくれ!…ここは…やばい!
あいつらの話も、やることもおかしい!このままここにいたら殺される!
二人を探して逃げよう、サヤ…!
サヤ:…わかった
N :サヤは意を決し、ユウイチに掛けられたシーツを持ち上げた。
サヤ:…ひっ………!!
N :ユウイチの、大腿部から下はなかった。厳重に巻かれた包帯に鮮血がにじんでいた。
ユウイチ:サヤ、どうしたんだよ!…俺の足、どうなってるんだ?!
サヤ:ユウイチ…
ユウイチ:教えてくれ!!サヤ!!
サヤ:ひどい…どうして…
看護師:ここで何をされてるんですか…
サヤ:…きゃあっ!
N :部屋の入口に看護師が立っていた、その後ろに医者の姿も見える。
ユウイチ:おい!オマエ!俺の足に何しやがった!なんで動かねえんだ!
看護師:……
サヤ:これ…どういうことなんですか!なんでユウイチが…どうしてこんな地下に…何を企んでるんですか!?
看護師:はぁ、めんどくさい………教授、どうします?
医者:だから強いヤツ打っておけって言ったでしょう?
看護師:そのせいで死体が増えたじゃないですか。
わざわざ足を切り落としたっていうのに…
ユウイチ:足を…切り落とした…?まさか俺の…?…サヤ…俺の足…ないのか?
サヤ:ユウイチ…!あなたたち…なんでこんなひどいこと…!
看護師:足を切り落としたのは、お友達の方です
サヤ:お友達…?シンジくんの…?
医者:そうだよ。君の彼氏は車体に挟まれててねえ、すでに足が潰れてたんだ。
だから、お友達の足を代わりに使おうと思ったんだよ。
…君だって、大好きな彼の足が蘇ると嬉しいだろう?
看護師:お友達は内臓破裂で瀕死でした
医師:だったら、無傷の足をもらって、彼にくっつければとても合理的でしょう
サヤ:シンジくんの足をくっつける…?ユウイチに…?何を言ってるんですか…
ユウイチ:…まだ生きてたシンジから足を切り落としたっていうのか…
看護師:瀕死ですよ?死んでるのと同じですよ。…まあ、妹さんは死んでましたけど
サヤ:マヤが…死んだ…?
医者:残念だったね…即死だったんだよ
サヤ:嘘よ!そんなの信じない!だってマヤは…!
マヤ:ココニイルモノ
サヤ:ぐっ…!
医者:ほほう…
サヤ:なに、なんなの、また…私、どうして、
マヤ:ワタシノカラダ
サヤ:…!
ユウイチ:…サヤ?お前、どうした…
マヤ:ワタシノカラダヲカエシテ!!!!!!
N :サヤは思わず口を覆った。
が、覆った手の平の中でサヤの意志とは関係なく口は動き続ける。
サヤは泣きながら必死に口を押さえつけた。
医者:これは…!大変興味深い!!!
脳の合成という大手術の後にすぐ目を覚ましたのも驚きましたが…
私は…人格をも合成したのですね!素晴らしい!これは神の所業だと思わないかね!!
君は、私にとって最高傑作の生きた標本だ。すばらしいい!!!!
ユウイチ:サヤ…逃げろ…こいつらイカレてる…お前ひとりだけでも…逃げろ…
サヤ:…私ひとりで逃げるなんてできない!
ユウイチ:…俺は逃げられない…こんな体じゃ…無理だ…
サヤ:…ユウイチ、そんなこと言わないで、一緒に…いて…!
ユウイチ:守ってやれなくてごめん…だけど、頼む、逃げてくれ…頼むから…!
サヤ:いや!…こんなの正気じゃない…!!嘘よ!!全部!全部!!嘘よ!!!
N :サヤは部屋にあるものを片っ端から掴み、二人に向かって投げた。
しかしその殆どは力なく床に叩きつけられるばかりだった。
そんなサヤの姿を、医者と看護師は薄笑いを浮かべ見つめていた。
やがてサヤが、部屋の奥にかかっていたカーテンに手をかけ、引き破る。
…その先に、壁にもたれ床に座る、シンジとマヤの姿があった。
シンジは上半身がところどころ欠損し、切り落とされた足からは、どす黒い血が流れている。
そしてマヤは全身判別できないほど無残な状態で、…膝には、半分になった自身の頭をのせていた。
サヤ:いやぁぁぁ!!!
ユウイチ:なんだよこれ…嘘だろ…そん…な…
サヤ:マヤ…!マヤぁ…!!!
看護師:それ、アンタだよ
サヤ:え…
看護師:妹にお礼、言わなきゃね。カラダをくれて、ありがとうって…
サヤ:どういうこと…
看護師:アンタはね、頭こそ綺麗だったけど見てのとおり体がグチャグチャで。
ところがアンタの妹はその逆で、体こそ無傷だったけど頭を殆ど持ってかれてて…
医者:だから、妹の体に君の頭の大半をくっつけたわけだ。
…私は、痕(あと)が残らないように体を縫合するのが趣味でねえ…
だが、体はまだしも、顔だとみんなバラバラだからそう簡単にはいかない…
でも君たちは双子だ。…よく似てるねえ…なかなか楽しかったよ…?
…でも、まさか意識を取り戻すとはねぇ!
元々一つの卵だった君たちは、母親の胎内で神によって二つに分けられ、
再び、私という神の手によってひとつになった…!これが感動せずにいられるかい!?
サヤ:嘘よ…!でたらめよ!!私は…
マヤ:マ ヤ
サヤ:ううっ…!
医者:ふふふふ…いいねえ…妹の脳はさほど残ってないはずなんだが…愉快だ…
これから君をゆっくり観察していこう…いつの日か、妹の自我が君より勝る日がくるかもしれない…
いや、そもそも君の脳が妹の体を乗っ取ったのだから、逆かな…実に楽しみだ…
サヤ:こんなの…違う…!ユウイチ!ここから逃げよう!!…ユウイチ?ユウイチ!!
N :ユウイチは宙を見たまま事切れていた
サヤ:ユウイチ…
看護師:…やはりもちませんでしたね。また廃棄が増えました
医師:ま、仕方あるまい。さあ、上へ戻ろう…彼女に鎮静剤を
看護師:はい
サヤ:いや!やめて!ここから出して!お願い!いや………っ!
医者:…打て
間。
救命士:……大丈夫ですか?意識はありますか!おい!しっかり!!!
サヤ:あ…
救命士:大丈夫ですか?私が見えますか?
サヤ:お願い…ここから、出して…
救命士:大丈夫ですよ。ここは救急車の中です。もうすぐ病院につきますからね
サヤ:いや!あそこには戻りたくない!!
救命士:しっかりしてください!落ち着いて!この先にある総合病院へ向かっています。
山を下りたらすぐですからね。ご両親にも連絡入れてありますから、もう大丈夫ですよ。
サヤ:あ…私は…
救命士:車で事故に遭われたんです。発見が遅れ2日経っていましたがあなたは助かったんですよ
サヤ:あ…
救命士:そうです。もう大丈夫です。ご両親にも会えますからね。だから安心して下さい
サヤ:みんなは…?ユウイチは?シンジくんは?…マヤは!?
救命士:……
サヤ:お願いします!本当のことを教えて下さい!
救命士:残念ですが…
サヤ:…そんな
救命士:あなたは滑落の際に車から放り出されたんです。植込みがクッションになって運良く軽傷でした。
あとの皆さんは、車に乗ったまま下まで…
サヤ:…そう、ですか…ううっ…
救命士:どうか今は、助かったという奇跡を大事にして下さい。
病院までまだ時間があります。ゆっくり、休んで…。
サヤ:ユウイチ…シンジくん……マヤ…ッ……あぁぁぁ……!
N :サヤを乗せた救急車がふもとへの道をゆっくりと蛇行し、降りていく。
救急車のサイレンが、山に遠くこだましていた。
間。
看護師:…教授、生きた標本を手放して…良かったんですか?
医者:ヒステリー起こす女は苦手でね…なぁに、また作ればいい
看護師:…運んだり、戻したり、今回は疲れました
医者:…今までは体を繋ぎ合わせるのが楽しみだったが、
しばらくは脳みそで遊ぶのがブームになりそうだよ。ふふふふ…
看護師:更に悪趣味になりましたね。合成するだけして、後始末する方の身にもなって下さいよ
医者:さぁ、そうと決まったら検体集めだ!
またいつものように頼むよ。君があそこに立ってるだけで、
馬鹿な奴等が勝手に崖から落ちてくる!楽しいね!実に楽しい!!
くっくっくっ…アッハッハハハハハ!
N :数時間後、サヤは病院を後にした。入院するよう言われたが、
あの悪夢を思い出しそうで、無理を言って帰ることにした。
検査や警察の事情聴取は後日ということになった。
みんなが口々に「良かった」と言ってくれたがサヤの心が晴れることはなかった。
恋人と友人、そして妹を亡くした悲しみがサヤに深い傷跡を残していた。
サヤ:何もかも、夢だったら良かったのに。あの変な病院だけじゃなくて、事故そのものが…みんな…
N :誰かがサヤを呼んだ。顔を上げると、小走りでこちらへ向かう、父と母の姿があった。
遠くから心配そうに、何度もサヤの名を呼ぶ。サヤは、嬉しさと安堵で両親の元へ駆け寄った。
サヤ:お父さん!お母さん…!
マヤ:タ ダ イ マ
著作権は揚巻にあります。
ネット上での上演に関しましては規約を守った上でご自由にお使いください。