においたつ
作 : 揚巻
(♂0 : ♀2 )
♀アキ:
♀リエ:
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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。
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(ロッカールームで制服に着替えながら仕事の準備をしているアキとリエ)
リエ:「アキ…何かにおうよ」
アキ:「え?」
リエ:「におう、からだ」
アキ:「ん?…ああ、生理前だからな」
リエ:「なにそれ」
アキ:「生理前になるとちょっとにおうみたい。耳の後ろ。
いつもより気を付けて洗ってるんだけど…今月きついのかな」
リエ:「…ふうん」
アキ:「仕事前に言ってもらって良かったわ。えーっと汗ふきシート…は……あれぇ?」
リエ:「ないの?」
アキ:「うーん、ロッカーに入れといたはずなんだけど…」
(リエ、バッグからデオドラントシートを取り出す)
リエ:「はい」
アキ:「あ、ありがと」
(アキ、リエのデオドラントシートで耳の後ろを念入りに拭いている
リエ、何かに気付いてバッグの中をごそごそとしている)
リエ:「ん…?…あれ?鍵…」
アキ:「…よし、リエ、ありがと」
(アキ、リエにシートを返す)
リエ:「あ…うん」
アキ:「どう?とれた?」
リエ:「うん」
アキ:「良かった」
リエ:「みんなにおうものなの?」
アキ:「え?」
リエ:「生理前」
アキ:「んーどうかな」
リエ:「私もにおう?」
アキ:「ううん、リエからはにおったことないよ」
リエ:「そう…」
アキ:「でもさ、これって不思議なことに男はいい匂いだって言うのよね。フェロモンかしら」
リエ:「フェロモン…」
アキ:「あは、冗談よ」
リエ:「ねえ、アキ…」
アキ:「なに?」
リエ:「一昨日の夜、何してた?」
アキ:「なによ、突然」
リエ:「教えて」
アキ:「えーっと…ああ、映画観てたよ。レイトショー」
リエ:「何の映画?」
アキ:「オータム・イン・ニューヨーク。ほら、駅前の映画館ってアンコール上演やるでしょ?
これ、前から観たかったんだけどチャンスなくて。そしたら上演するって聞いたから行ってきたの」
リエ:「誰と行ったの?」
アキ:「ひとりよ」
リエ:「誰に聞いたの、その映画のこと」
アキ:「…どしたのよ」
リエ:「なにが」
アキ:「いや、なんかアリバイ聞いてる刑事みたい」
リエ:「そうよ」
アキ:「え?」
リエ:「聞いてるの、アリバイ」
アキ:「なんで?」
リエ:「知りたいから」
アキ:「へんなの」
リエ:「ねえ、誰に聞いたの」
アキ:「…店長。そんなに疑うなら直接聞いたら?」
リエ:「そうする」
アキ:「(溜息)」
リエ:「どんな映画?」
アキ:「え?」
リエ:「その、ナントカニューヨークって」
アキ:「オータム・イン・ニューヨーク。まあザックリ言うと中年男と若い女の恋愛映画」
リエ:「…」
アキ:「…」
リエ:「ホントに…」
アキ:「ホントに行ったの?って言いたいんでしょ。はいはい、わかりました。
(財布の中を探しながら)…ほら、半券あるから見たらいいわ。どうぞ!」
(アキ、リエの目の前に映画の半券を置く。リエ、それを手に取って見る)
リエ:「…」
アキ:「…まったく、一体なんなのよ、意味なく突っかかるの止めてくれる?」
リエ:「意味あるわ」
アキ:「どんな意味よ」
リエ:「あの人と観に行ったんでしょ?」
アキ:「誰と」
リエ:「彼と」
アキ:「リエの彼氏がどこの誰かも知らないんだけど?」
リエ:「ひっかかった」
アキ:「は?」
リエ:「私『彼と』って言っただけで私の彼とは言ってない」
アキ:「…あのさ、私は今フリーだし、私とリエの間で『彼』なんて呼び方する人、他にいたっけ?」
リエ:「…」
アキ:「何でもこじつけないでよ」
リエ:「だって…」
アキ:「なに」
リエ:「におう」
アキ:「は?何が?」
リエ:「まず、映画」
アキ:「オータム・イン・ニューヨーク?」
リエ:「中年男と若い女の恋愛映画だって」
アキ:「なに、リエの彼氏って中年男なの?」
リエ:「そういう言い方しないでよ」
アキ:「はいはい。年上の男性ね。っていうか、たったそれだけで浮気を疑われるとはね」
リエ:「それと、映画の時間」
アキ:「それがどうしたの?」
リエ:「彼の携帯が繋がらなかった」
アキ:「単なる偶然でしょ」
リエ:「上演時間中ずっと携帯が繋がらなかったの!」
アキ:「え、その間ずっと鳴らしてたの?」
リエ:「…」
アキ:「すごい執念」
リエ:「ほっといて!私は真剣なの、結婚だって考えてる!」
アキ:「…ふうん」
リエ:「…」
アキ:「にしてもかわいそ」
リエ:「浮気してるんでしょ」
アキ:「してないって。どこの誰かも知らないんだから」
リエ:「うそつき」
アキ:「…ねぇ、ちょっと冷静に考えて。
一昨日の夜たまたまタイミング合わなくて携帯が繋がらなかったってだけでしょ。
たったそれだけで浮気を疑われる身にもなってくれる?ひどい言いがかりよ」
リエ:「それだけじゃない」
アキ:「なに?私がリエの彼氏とベッドインしてる写真でもあるの?」
リエ:「そんなのない」
アキ:「ま、あるわけないし。
(溜息)もうやめようよ、仕事前にこんな気分になったらさお客さんの前で笑えないわ」
リエ:「…」
アキ:「ほらほら、リエも笑ってよ。…そうだ、仕事終わったらさ、何か美味しいもの食べに行こう、ね」
リエ:「…」
アキ:「…まだなんか気になることでもあるの?」
リエ:「…」
アキ:「じゃあいいわ。こうなったらリエの不安を全部解消しましょう。私は後ろめたいことないし、
何聞かれても大丈夫だから、言って」
リエ:「…」
アキ:「リエ」
リエ:「彼が言ったの、一昨日」
アキ:「一昨日って、連絡つかなかったんじゃないの?」
リエ:「そのあと来たの。着信履歴見て、驚いたんだと思う」
アキ:「だろうね。で、なんて言ったの?」
リエ:「…私を後ろから抱きしめて『君はにおわないんだね』って」
アキ:「どういう意味?」
リエ:「だから聞いたの『誰と比べてるの?』って」
アキ:「そしたら?」
リエ:「『誰と比べてるとかじゃなくて、
今日電車で香水のきつい女性がいて、女性は皆ああなのかなと思って』って」
アキ:「じゃあそういう意味なんでしょ」
リエ:「だって、私たち付き合って数か月は経ってるのよ。
私が香水つけないって彼は知ってるのに、なんであの夜、わざわざそんなこと言ったの?」
アキ:「知らないわよ。そう思ったからそう言っただけでしょ」
リエ:「…」
アキ:「まさか、それで私を疑ってるの?」
リエ:「フェロモンのにおいなんでしょ、それ」
アキ:「あはは」
リエ:「雌が雄を誘う…」
アキ:「…誘う、ね」
リエ:「違うの?」
アキ:「…嫌悪ってのもあるけど」
リエ:「嫌悪…?」
アキ:「まあいいわ、なるほどねぇ…」
リエ:「本当のことを言って」
アキ:「確かに、そういう偶然が一致すると必然に感じるかもしれないけど、
私はリエの彼氏と浮気なんてしてません」
リエ:「だって…」
アキ:「もう、しょうがないなあ。じゃあタクミに聞いてみる?」
リエ:「え?」
アキ:「弟のタクミよ。覚えてない?前に一緒にご飯食べたじゃない。夜遅くなったから、
リエのこと送らせたでしょ?」
リエ:「あ、ええ…覚えてる…」
アキ:「一昨日はタクミとご飯食べてから映画観たのよ。
観終わった後、タクミから連絡がきてまた合流したの。
だから私が一人だったって証明になるはずよ」
リエ:「…」
アキ:「ちょっと待ってね、かけるから…(携帯をいじる)」
リエ:「いいよ!」
アキ:「…いいって、それでリエが安心するならさ」
リエ:「わかった!信じるから!いいよ!」
アキ:「…そう?」
リエ:「…うん」
アキ:「まったく、リエは心配性ねぇ」
リエ:「ごめん」
アキ:「いいって、誤解が解けたなら何より」
リエ:「うん」
アキ:「さて、仕事仕事…(携帯が鳴る)…っと、あ、ごめんちょっと電話」
リエ:「あ、うん」
アキ:「…もしもし?母さん?うん、今病院?…うん、そうね。
また後でかけるからね。うん、大丈夫よ。後でね」
リエ:「お母さん?」
アキ:「うん」
リエ:「病院って、どこか悪いの?」
アキ:「うん、頭おかしくなってんの」
リエ:「あ、…ごめん」
アキ:「いいって。そのうち治るから」
リエ:「お大事にね」
アキ:「ありがとう」
リエ:「じゃあ私もそろそろ…」
アキ:「(再び携帯が鳴る)…もう母さんは何度も…あれ?タクミ?さっき間違って押しちゃったかな」
リエ:「…え」
アキ:「もしもし?あ、ごめん、間違ってかけちゃった……あ、違うんだ?どうしたの?
…うん、…うん、わかった、じゃあね」
リエ:「…」
アキ:「ごめんね、話の途中に…、…あー、話終わってたか」
リエ:「うん」
アキ:「じゃ、準備に戻ろ」
リエ:「アキ」
アキ:「ん?」
リエ:「タクミくん、元気?」
アキ:「…うん、元気よ?」
リエ:「そっか」
アキ:「うん」
リエ:「電話、なんて?」
アキ:「え?」
リエ:「あ、いや…」
アキ:「…今日、彼女んちに行くって言ってただけだよ」
リエ:「彼女?」
アキ:「なんか最近熱入れてる人がいるみたい、軽いあの子にしちゃ珍しい」
リエ:「軽いの?」
アキ:「だって見た目そうじゃなかった?」
リエ:「軽いっていうより、明るいってイメージだった。アキによく似てる」
アキ:「そう?あんまり似てるって言われたことないんだよね」
リエ:「姉弟なのに?」
アキ:「父さんが違うからね。根本的にアイツとは似てない」
リエ:「そうなんだ…」
アキ:「まあ、タクミのことはいいよ。姉は仕事頑張ってるってのに、
自分はデートとかわざわざ報告すんなってね」
リエ:「どんな人?」
アキ:「ん?」
リエ:「その、タクミくんの彼女」
アキ:「どうしたのリエ、タクミのこと心配してるの?」
リエ:「あ、うん、一度会ってるし…」
アキ:「そうねえ…どんな……ああ、リエに雰囲気が似てるって言ってたよ」
リエ:「え?」
アキ:「確か、そんな風に言ってた気がする」
リエ:「…」
アキ:「紹介しろって言ってるんだけど渋っててさ。結構本気なのかもねー。どんな人なんだろ」
リエ:「…」
アキ:「で、彼女んちの合鍵持ってるらしいから、今から行くんだってさ、全く昼間っから…」
リエ:「…鍵?……!」
アキ:「どしたの…?」
リエ:「…」
アキ:「リエ?顔色悪いよ?…彼氏のことはさ、誤解とけたでしょ、考えすぎないでよ」
リエ:「…私、帰る」
アキ:「え?」
リエ:「…体調悪くて」
アキ:「…そっか、なんかごめん」
リエ:「ううん、違うの、ごめん、アキ…」
アキ:「いいよ、店長には言っておくからさ」
リエ:「ごめん、ごめんね…」
(リエ、慌てて控室から出て行く)
アキ:「…」
(アキ、携帯をかける)
アキ:「もしもし、タクミ?リエ、帰った。アンタも急いで。どうせ父さん、リエの家にいるんだろうから。
いい?とにかく別れさせるのよ。私のこと愛人だって思わせてもいいから。
…まあ、父さんが私を娘だとか言ったとしても、白々しい嘘にしか聞こえないでしょ。
…後のこと?リエもアンタのことまんざらじゃないんでしょ?好きにしていいわよ、じゃあね」
(携帯を切る)
アキ:「…悪いわね、リエ。別に私はアンタに恨みなんてないけどさ、あの男…、
次から次に女変えた挙句、娘と同い年の女にまで手を出すクソ野郎なんかを、
母さんは10年経っても待ってて…心が壊れるくらい愛してるのよ…。
戻ってくるまで終わらせてやる。…何度でもね」
(再び携帯が鳴る)
アキ:「もしもし?母さん?どうしたの?……うん、うん、わかった。
今日病院で体拭いてあげるから。…え?大丈夫よ、
父さんそんなこと気にしないから、におうなんて言ったら…私がブチのめしてあげる。
ああ、冗談よ、私がそんなことするわけないじゃない。
…いい、母さん?私は母さんが大切なの。大好きなの。
だからね、母さんの為ならなんだってするわ。
…親友はいくらでも作れるけど、母さんは私のたったひとりの母さんなんだから…」
(劇終)
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