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ふっかつのじゅもん

作 : 揚巻

 

(♂1 : ♀1 )

♀宮本恵理 :
♂松本孝雄 :

※(子)は子供の頃の恵理と孝雄です

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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

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【恵理、部屋の掃除をしている。押入れから重い箱を取り出す】


恵理 : これ、何入れてたっけ…


【なんだかんだ言いながらがさごそと漁る】


恵理 : あ…


【ふと、一冊のノートを手にしてパラパラ捲る】


恵理 : …これ……


【恵理、ノートを見つめたまま、懐かしそうな、寂しいようなため息をつく】
【間】
【孝雄、1階の部屋で仕事の書類を作るためパソコンに向かってキーを打っている。】


孝雄 : えっと…(画面を凝視している)…おいおい、長谷川のやつここ修正してねえな…


【窓の向こうから、おどおどした子供の声がかすかに響く】


恵理(子):…たーかちゃん…あーそーぼ……

孝雄 : …ん?


【孝雄、手を止め、耳を澄ませる】
【間】


孝雄 : …気のせいか


【突然、部屋の窓がいきおいよく開く】


恵理 : わーーーーーーーーーーーーーーーーー!

孝雄 : わあああああああああっ!!!


【孝雄、驚いて体をのけ反らせる。窓の向こうに立つ恵理】


恵理 : よう

孝雄 : …え?は?

恵理 : 一昨年の、同窓会ぶり

孝雄 : …宮本?

恵理 : そうよ

孝雄 : …

恵理 : なによ

孝雄 : …あ、ああ、久しぶり……あ、さっきさ、外で何か言った?

恵理 : なんにも

孝雄 : …そうか

恵理 : っていうか、この1階にまだいるのね

孝雄 : お、おう…

恵理 : ねえ、ここの窓ってさ、こんな低かったっけ

孝雄 : はあ?

恵理 : 前は引っ張ってくれなきゃ中に入れなかった

孝雄 : …お前がでかくなったからだろ

恵理 : あーそっか、私、30センチ伸びたし

孝雄 : …それにここ物置だったから、元々窓は低く作ってんだよ

恵理 : ふーん、で、その『元物置』にまだいるんだ、あ、もしかしてニート?

孝雄 : 違うに決まってんだろ!今も!仕事してました!

    それに同窓会でも言っただろ『今は東京だけど、地元に戻るかもしれません』って!

恵理 : 憶えてない

孝雄 : (溜息)去年からこっちで仕事してんの、家賃節約したいから実家にいるんだよ

恵理 : ま、それは別にいいや

孝雄 : いいやって…


【恵理、孝雄の様子を気にすることなく、窓をまたいで中に入ろうとする】


孝雄 : え!ちょっと!

恵理 : なに?

孝雄 : いやいやいやいや、…っていうか突然なに!

恵理 : は?いつも突然だったでしょ

孝雄 : しかも窓から!

恵理 : いつも窓からだったでしょ

孝雄 : それは小5の話!

恵理 : だからなによ、今はダメなわけ?

孝雄 : いや、ダメってわけじゃないけどさ……ホント、突然なんなの…

恵理 : とりあえず中入っていいでしょ。なに?オンナいるの?

孝雄 : いないけど…

恵理 : おじゃましまーす

孝雄 : 土足やめろよ!靴脱げよ?

恵理 : あーもう、脱いでるでしょ、ほら


【恵理、靴下の足を孝雄に見えるように上げる】


恵理 : ほらほらほら

孝雄 : わ、わかった…わかったから

恵理 : よいしょっと……ちょっと、手ぇ貸してくんないの

孝雄 : はいはい…


【孝雄、恵理の手を取って部屋に引き入れる。恵理、部屋に入ると孝雄に向かい合うように正座する】


恵理 : ふうー

孝雄 : …で、なに?

恵理 : 遊びに来たの

孝雄 : え?

恵理 : ねえ、ファミコンどこ?

孝雄 : は?

恵理 : ファミコン

孝雄 : …もうないけど

恵理 : なんで?

孝雄 : いや、普通ないだろ

恵理 : 一生大事にするって言ってたくせに

孝雄 : はあ?

恵理 : 新品のファミコンとゲームソフト、私に見せびらかしてさ!

    あああ!俺すっごい幸せ!死にそうぴょん!こいつら一生大事にするんだじょー!って

孝雄 : 語尾がいろいろおかしいんだけど…

恵理 : そんな感じのこと言ってたじゃないの。とにかく一生大事にするって

孝雄 : ああ、まあ…確かに、すっごい嬉しかったのは覚えてるよ

恵理 : まさか捨てたの?一生大事にするって約束したのに、あっさり捨てたの?ねえ!

孝雄 : 待って待って、なんか違う意味で責められてる気分

恵理 : 違う意味って?

孝雄 : あ…いや、なんでもない

恵理 : 松本のくせになまいき

孝雄 : …なんだよ、…とにかくファミコンないから!

    そんなもんが今も現役だったら逆に怖いだろ

恵理 : 一緒に遊んだのに

孝雄 : 確かに遊んだけどさ……ん?宮本がここに来るのっていつぶりだ…?

恵理 : 19年と11ヶ月ぶり

孝雄 : は?

恵理 : 19年と!11ヶ月ぶり!

孝雄 : え、なに、覚えてるの?

恵理 : そうよ。屈辱だったから

孝雄 : 屈辱?なんだよそれ

恵理 : まあ、それはいいわ。今日私が来たのは他でもない。

    これが見つかったからよ


【恵理、一冊の古びたノートを孝雄の前に出す】


孝雄 : …ノート?

恵理 : そう。ほら、見覚えあるでしょ

孝雄 : …いや、

恵理 : はあああ!?

孝雄 : …!あ!あります!あります!

恵理 : ホントに?


【孝雄、気まずそうに唸る、が、】


孝雄 : …あ?これ、宮本がいつも持ってた…

恵理 : そうよ、ほら


【恵理、孝雄にノートを渡す。孝雄、ノートをパラパラめくり、顔をほころばせる】


孝雄 : おー!懐かしいな!復活の呪文ノート!あー!これこれ!おおー!


【嬉しそうな孝雄に対して、恵理は固い表情】


恵理 : ゲームが進むごとに記録したやつよ。松本がじゅもんを読み上げて、私が書いた

孝雄 : そうそう!覚えてる覚えてる!呪文がだんだん長くなっていくんだよな


【恵理、嬉しそうにしている孝雄の手からノートを取り上げる】


孝雄 : ちょっ…!なんだよ見てたのに…って、いや、だからそれがなんなんだよ

恵理 : 確かめに来たの。さいごの呪文

孝雄 : 確かめる?

恵理 : そう、さいごの呪文で復活できるか、確かめに来たのよ!

孝雄 : …はあ

恵理 : ファミコン出して

孝雄 : はあ?

恵理 : いいから!ファミコン出してよ!物置とかにあるでしょ!

孝雄 : あ、あるかなあ…

恵理 : 売ったの?

孝雄 : いや、それはないはず…

恵理 : じゃあやっぱり捨てたの!?

孝雄 : 俺は捨ててないけど、お袋が捨てたかも…

恵理 : 探して

孝雄 : だからなんでいまごろ…

恵理 : (凄まじい怒気)探して!早く!!!

孝雄 : わ、わかった!わかったから…!


【孝雄、恵理の怒気に押され慌てて部屋を出ていく。孝雄の部屋に残った恵理、鼻息荒くしていたが、】


恵理 : (溜息)たかちゃんのばか…


【間】


孝雄 : いやあ、あるもんだな…


【孝雄、呟きながらファミコンを手に戻ってくる】


孝雄 : ほらよ!お望みのファミコンだよ!ゲームソフトも!ほら!


【孝雄、恵理の隣に座る】


恵理 : つないで

孝雄 : …なあ、マジでファミコンやるの?

恵理 : 言ったでしょ!確かめるの!

孝雄 : ハァ…ああ、もうわかったよ、気のすむまで付き合うよ、はいはい…


【孝雄、テレビにファミコンをつなぐため作業をはじめる】


孝雄 : …あのねえ、ファミコンを最近のテレビにつなぐとか、普通無理なんだからねえ、

     俺が運よく、こういうのに詳しい仕事してて、運よくケーブルとか持ってたから良かったけどねえ、

     普通はできないんですからねえ、…わかってますかねえ

恵理 : ふふっ

孝雄 : あ?

恵理 : 思い出した

孝雄 : なにを?


【恵理、嬉しそうな笑顔で、】


恵理 : たかちゃん、初めて一緒に遊んだ時、同じこと言ってたの。

     ファミコンはねえ、大大大人気だからクラスの中でも俺と小林君くらいしか持ってないんですからねえ、

     えりちゃんは、スーパーミラクルラッキーなんですからねえ、って

孝雄 : …

恵理 : ま!クラスで大大大人気の私と遊べたんだから、どっちかっていうと、たか…

    …松本の方がスーパースーパーミラクルラッキーだったんだけどね!

孝雄 : はいはい

恵理 : つながった?

孝雄 : もうちょっと…

恵理 : はやくね

孝雄 : あのさあ…

恵理 : なに

孝雄 : …もしさ、ファミコンもソフトも売ったり捨てたりしててここになかったら、どうする気だったの?

恵理 : 買いに行く

孝雄 : どこに?

恵理 : 新幹線乗って、東京行って、ゲームのお店探して、買う

孝雄 : (笑う)冗談きついな?

恵理 : なにが?

孝雄 : いや、東京まで買いにいくとか…


【恵理、真顔でポケットから駅の時刻表を取り出し】


恵理 : ほらこれ、時刻表


【間】


孝雄 : (こえぇ…)

恵理 : なんか言った?

孝雄 : あ、いいえー!ファミコン、見つかってよかったなあって…!

恵理 : できる男は、口より手足を動かすのよ

孝雄 : 手だけでいいですかね

恵理 : いそいで

孝雄 : …宮本って、そんな感じだったっけ?

恵理 : そんな感じって?

孝雄 : まあ、その…、上からっていうか…

恵理 : 時は人を変えるわ。そうやって歴史も動いていくのよ

孝雄 : …前はそんなんじゃなかった気が…確か、もっとこうかわい…

恵理 : 手足を動かせ!

孝雄 : 動いてます!…ほら!ほら!できた!


【ファミコンが接続される】


恵理 : よし

孝雄 : (溜息)あとは電源が入るか…そしてソフトが起動するかだな…


【孝雄、カセットをファミコンにはめ、】


孝雄 : どう…だ!?


【孝雄、電源を入れる】


孝雄 : …映らない、あれ?なんで…

恵理 : よし、駅行くか、今なら…のぼりの新幹線が…

孝雄 : もう一度チャンスをください!


【孝雄、カセットを取り出し、端末に息を吹きかけ、カセットをはめ直す】


孝雄 : なにとぞ…!ファミコンの神様お願いします…!


【孝雄、祈るように電源を入れる。一拍置いて、画面にゲーム画面が映し出される】


孝雄 : きたあああ!!!!ついたあああああ!!!


【孝雄、感動を全身で表現する。恵理、それをしばし眺めているが、孝雄、ふと我に返る】


孝雄 : 何やってんだ、おれ…

恵理 : さあ、やるわよ

孝雄 : あ、ああ…じゅもんを確かめるんだっけ?

恵理 : 私の言う通りに入力して

孝雄 : おう、わかった。…いいぞ


【恵理、ノートの呪文を読み上げる、孝雄、復唱して確かめながら入力していく】


恵理 : ぼそま、ぺほぎ、りらよも、もけへ、うまく、たかあも、じこべ、ぷだつ、みふうけ…

孝雄 : …入力したぞ、これでいいか?

恵理 : うん

孝雄 : よし、…決定っと


【しかし画面には「じゅもんがちがいます」の文字】


孝雄 : じゅもんがちがう?

恵理 : (溜息)

孝雄 : ぼそま、ぺほぎ、りらよも、だよな?

恵理 : …うん

孝雄 : んー?どこが違うんだ?

恵理 : やっぱりだめか

孝雄 : あ?

恵理 : この呪文では復活できなかったの

孝雄 : …そうだったのか?

恵理 : うん

孝雄 : そっかあ…じゃあ、仕方ないよな

恵理 : …

孝雄 : 間違えることはあるさ、お互い様だろ?

恵理 : …あの時の松本は、そんな風に言わなかったの

孝雄 : え?

恵理 : 『せっかくここまでやったのに、もう、なんだよー、ちゃんと書いてっていったじゃん』

孝雄 : あー…

恵理 : 覚えてる?

孝雄 : …いや、ごめん

恵理 : この呪文はね、魔王の城に攻め込む直前のものだったの、それが終われば…エンディング…

孝雄 : そっか…

恵理 : …すっごく楽しみだった。一緒にゲームスタートして、レベル上げて…

     難しくてクリアできなかったところも、何度も何度も、何日も何日も挑戦して…

孝雄 : ああ…ちょっと、思い出した

恵理 : 1年近くかけて、ちょっとずつ頑張ったからさあ、

     松本の気持ちもわかるんだ…そう言いたくなる気持ち。

     だから私、何も言えなかった

孝雄 : …

恵理 : そのまま6年生になって、クラス別々になって、前みたいに遊べなくなってたし、それに…

孝雄 : それに?

恵理 : べ、…つ…の…

孝雄 : ん?

恵理 : べ、べつ…の…

孝雄 : おいおいはっきり言えよ、なんでも聞いてやるぞよ


【孝雄の言葉に恵理、一気にキレる】


恵理 : 別の女の子と浮気してたでしょ!!!

孝雄 : はああ!?うっ、うわき??

恵理 : 忘れたとは言わせないわよ!あの日!呪文間違って!気まずくなって!何日もここに来れなくて!

     でもまた一緒に遊びたかったから!遊べると思ったから!ここの窓そっと開けたら!

     他の女の子と遊んでた!

孝雄 : え?え!?あ、うわきってそういう…

恵理 : 覚えてるでしょ!謝りにきたのに!また一緒に遊びたかったから来たのに!

孝雄 : 待って、ちょっとホントに待って

恵理 : 忘れたの!!?

孝雄 : いや、ちょっと…

恵理 : あー忘れたんだ!忘れちゃったんだ!だったら殴って思い出させてやる!

     昔あったよね?テレビ叩いたら映るって!

孝雄 : それは機械だし、俺は人だし、いや、待って、待ってって

恵理 : わたしはね!わたしは…


【恵理、じわじわ泣き出す】


恵理 : …私は、たかちゃんと遊べて、ずーっと一緒に遊べて、笑ったり、励ましたり、

     そうやって一緒に遊べたのが本当に嬉しくて…、だから、じゅもん間違えちゃった時、

     すごく申し訳なくて、泣きたくて、謝りたくて、許して欲しくて、また一緒に遊びたくて…

     なのに…たかちゃんは他の女の子と遊んでて、…ショックで、本当にショックで……

     ここに来れなくなって、学校で会っても話せなくなって、顔も見れなくなって…

     だから…私の初恋はずっと終わらないまんま残って…!

孝雄 : …え?


【恵理、はっとする。浮かべた涙を慌ててぬぐって、】


孝雄 : …初恋って…

恵理 : 帰る!

孝雄 : は?

恵理 : もういい、わかった、やっぱり呪文だけじゃなくてなんか色々違うってよくわかった


【恵理、窓を開け、外へ出ようとする】


孝雄 : …ちょっと…宮本!

恵理 : …ごめん

孝雄 : …

恵理 : 突然ごめんなさい、私のわがままに付き合ってくれてありがとう

孝雄 : …!


【孝雄、小学生の頃の、おとなしい恵理を思い出す】


恵理(子):とつぜん、ごめんね、わがままきいてくれて、ありがとう…


【間】


恵理 : じゃあね!お元気で!

孝雄 : …えりちゃん!

恵理 : …!

孝雄 : …あの

恵理 : …

孝雄 : …その

恵理 : …なによ


【間】


孝雄 : …あの日、雨が降ってたんだ

恵理 : え?

孝雄 : ここから見えるあのバス停で、えりちゃんが雨宿りしてた

恵理 : …

孝雄 : あー、あの頃は、宮本さん…って呼んでたな。

     いつもおとなしくて、にこにこしてて、クラスで大大大人気で。

     出席番号順で隣になったとき、俺すっごい嬉しかったよ。

     その宮本さんが、雨宿りしてたんだ。空を見ながら、ちょっと不安そうな顔して。

     …俺さ、スパイみたいに、ここから宮本さんを見ては隠れ、隠れてはまた見て、ってしてさ

恵理 : …え?

孝雄 : えりちゃんに声、かけたくて…

恵理 : …

孝雄 : でさ、勇気出してバス停に向かって叫んだんだ。『みやもとさん!ちょっとてつだって!』って。

     いやー、我ながらなんで『手伝って』とか言ったのか…、いっぱいいっぱいだったんだな、うん。

     それなのにえりちゃんは、雨の中、ここまできてくれた。だから俺さ、すごい自信満々に

     『みやもとさん、じゅもんかくの手伝ってよ、ぼく、字がきたないから』とか言ってさ。

     …何か理由があれば、声かけていいんじゃないかーとか考えて…。

恵理 : 理由…

孝雄 : …そ、理由。男ってさ、女の子に声かけるだけでも、理由を探しちゃうものなの。

     …好きな子には特に…

恵理 : 好きな?

孝雄 : そうだよ、俺の初恋

恵理 : …

孝雄 : あーあ、もう、一気に思い出した。

     あれだね、女性ってどんな思い出も忘れないようにしっかり胸にしまっとくみたいだけど、

     男ってのは、都合の悪いことは忘れようとするズルイ生き物なんだな

恵理 : 都合の悪いことってなに?他の女の子と遊んでたこと?

孝雄 : 違う違う。もっとかっこわるいこと。俺がえりちゃんにじゅもんがちがうって八つ当たりしたことだよ

恵理 : だってあれは私が書き間違えて…

孝雄 : 共同責任だよ。だって読み上げたのは俺だぜ。

     だから俺が間違えて読んだのを、えりちゃんは知らずにちゃんと書いただけかもしれない。

     なのに俺はえりちゃんだけを責めた。がっかりした気持ちをさ、八つ当たりしたんだ

恵理 : それは仕方ないよ、私は見てるだけだったけど実際頑張ってたの、たかちゃんだったんだから

孝雄 : 目的があったからね

恵理 : 目的?

孝雄 : そ。俺がすっごい張り切ってたのはさ、ゲームをクリアして、

     かっこいいところ見せたかったんだよ、えりちゃんに

恵理 : 私に…

孝雄 : えりちゃんにさ『たかちゃん、かっこいい!』って言われたかった…だけなんだ

恵理 : たかちゃん…

孝雄 : なのに、じゅもんがちがいます、じゅもんがちがいます、って…。がっかりしたなあ…

恵理 : 私もそうだったよ。せっかく、たかちゃんが頑張ってたのに、私のせいでって…

     だから、たかちゃんが他の子と遊んでた時も、

     ああ、私じゃたかちゃんの力になれなかったんだな…って

     もう来ない方がいいんだな…って

孝雄 : 俺はさ、…あの頃、えりちゃんが…その…俺を好き、とか知らなかったからさ…

     あの日以来、えりちゃんが来なくなったのは、俺に愛想が尽きたっていうか、

     かっこわるいって思われたからだろうなって考えてて…

     だから、話しかけることもできないまま…ずっと

恵理 : …そっか

孝雄 : …あーあ…そうだったのかあ…


【間】


孝雄 : あ、ちなみに、多分えりちゃんが見た女の子は、イトコね

恵理 : いとこ?

孝雄 : そう。確かあの頃、家の建て替えでイトコが同居してて

恵理 : いとこ…

孝雄 : うん

恵理 : はあ…なんだよ、もう…

孝雄 : 聞いてくれればよかったのに

恵理 : 聞けるわけないじゃん!

孝雄 : …まあ確かに。あの頃のえりちゃんはおとなしかったからなあ…

     今のえりちゃんなら誰それ!って窓から乗り込んできそうだけど  

恵理 : なにそれ!

孝雄 : そうそう、そんな感じで

恵理 : あのね!ショックだったのよ!ばか!!

孝雄 : ごめん

恵理 : …もう

孝雄 : えりちゃん

恵理 : …なに

孝雄 : もう一度試してみよう

恵理 : なにを?

孝雄 : ふっかつのじゅもん

恵理 : …だって、じゅもんがちがうって…

孝雄 : 大丈夫だよ

恵理 : だって

孝雄 : もう一度、やってみよう。ふたりで頑張ればできるさ

恵理 : …!


【恵理、小学生の頃の、孝雄を思い出す】


孝雄(子):だいじょうぶだよ!ふたりだったらなんでもできるよ!

恵理 : たかちゃん…

孝雄 : ん?ん?どしたの

恵理 : …べつに!なんでもない

孝雄 : よし!じゃあまずは、この呪文をもう一度調べよう

恵理 : 何を調べるの

孝雄 : えりちゃんが書き間違えるはずはないんだ、となると、俺が言い間違えた可能性を考える。

     まずはこの呪文をよく見て、間違えやすい文字を探すんだ

恵理 : 間違えやすい、文字

孝雄 : 昔のゲーム画面はドットが粗い。だから点々と丸が同じように見えるんだ

恵理 : 最初の「ぼ」とか?

孝雄 : そうそう。そう考えると撥音と濁音のある行が怪しい。つまり、「ば行」と「ぱ行」の見間違い…

恵理 : それと、たかちゃんは「ぽ」って言ってても、私が「ぼ」って聞き取ったかもしれないし

孝雄 : そのあたりを考えると、この呪文の中で「ば行」と「ぱ行」の文字は全部で………5つ…

恵理 : あ、でも「ぷ」は大丈夫のはず

孝雄 : なんで?

恵理 : ぷ、って言ってみて

孝雄 : ぷ

恵理 : ふふっ

孝雄 : なに?

恵理 : たかちゃんは、ぷ、って言うとき…ちょっとかわいいの

孝雄 : なんだよそれ

恵理 : かわいいから、私がくすっと笑っちゃうの。だからそれは間違えない

孝雄 : …

恵理 : 照れてる?

孝雄 : べつに!

恵理 : ふふっ、…だからこの中で怪しいのは、「ぺ」と「ぽ」、「べ」と「ぼ」ね

孝雄 : よし、その場合を考えて入れなおしてみるぞ

恵理 : うん

孝雄 : まずは…

恵理 : これね

孝雄 : よし


【孝雄、コントローラーで入力をやり直す】


孝雄 : これは違うか…

恵理 : ばつ、っと

孝雄 : よし、つぎだ


【孝雄、コントローラーで入力を再度やり直す】


孝雄 : んー、違うか、えっと…つぎは…

恵理 : たかちゃん

孝雄 : ん?

恵理 : なんで?

孝雄 : あ?

恵理 : なんで、つきあってくれるの?

孝雄 : え、いまさら?

恵理 : 昔たかちゃんが一緒に遊んでくれたのは、私を好きだったから…っていうのはわかった

孝雄 : おう

恵理 : だけど、今、これに付き合うのは別問題な気がする

孝雄 : …

恵理 : だってもう、さ…

孝雄 : じゃあ、なんで来たんだよ

恵理 : え…、それは…


【間】


孝雄 : うーん、次は…これか

恵理 : …

孝雄 : 次はこれだな…

恵理 : …


【孝雄、恵理の方は見ずに入力作業を続ける】


孝雄 : 2回目に遊んだの、覚えてる?

恵理 : 2回目?

孝雄 : そう。1回目は俺が声かけた

恵理 : うん

孝雄 : で、2回目

恵理 : …

孝雄 : 俺はおぼえてる

恵理 : おぼえてる、じゃなくて、思い出した、でしょ

孝雄 : そうとも言う

恵理 : で?

孝雄 : 俺、2回目どうやって誘おうか、すっごい悩んだの。1回目は偶然だったわけじゃん、

     でも、偶然が何度も起きるはずないし、だったら誘おう…と思えど、

     当時控えめでおとなしくてシャイだったボクは、なかなかえりちゃんを誘えず…

恵理 : あーそうですねー

孝雄 : だからずっと、ぐずぐず悩んでた。

     …手伝ってって声かけたときさ、ありったけの勇気を使い果たしたんだろうな。

     で、図々しくも、俺はまた偶然を期待して窓を開けたわけだ

恵理 : ふうん

孝雄 : そしたら、えりちゃんが目の前に立ってた

恵理 : …

孝雄 : そのノート抱いてさ


【子どもの頃の恵理が窓の外で、顔を真っ赤にして立っている】


恵理(子):こ、このノートに書いたらいいとおもうの!わたしが全部書くから!

孝雄 : …で、また窓から入って、一緒に遊んで、夕方になって帰るときにさ、えりちゃんが言ったんだ。

    『とつぜん、ごめんね、わがままきいてくれて、ありがとう…』って。

     俺にはあのとき、ごめんね、も、ありがとう、の意味もわからなかった。

     俺の方こそ、楽しくて、嬉しくて、ありがとうって気持ちだったから

恵理 : あっそう

孝雄 : …おぼえてんだろ?

恵理 : さあ

孝雄 : あーあ、…あの頃のかわいいえりちゃんはどこへいったのかな…

恵理 : うるさいわね!人は変わるの!歴史も動くの!

孝雄 : そうそう、それ!歴史を動かしたくて、俺はこうしてんの

恵理 : 歴史?

孝雄 : 俺たちの冒険の歴史、かな。だからえりちゃんも来たんだろ

恵理 : …

孝雄 : …えりちゃん

恵理 : …悔しかったのよ。とにかく!色々!悔しかったの!

孝雄 : 俺も、…自分にね。だからこれで、ふっかつ…だ!


【孝雄、ボタンを押す。画面がゲーム画面に変わる】


恵理 : …!

孝雄 : きた…!

恵理 : じゅもんが、合った…


【恵理、目を潤ませて画面を見ている、孝雄は逆に興奮している】


孝雄 : いやあ、きちゃったなあ!ここできちゃうとか!んもうドラマチック!

     正直またしても「じゅもんがちがいます」とかなってさ、えりちゃんから

    「もう!なにかっこつけてんのよ!!だめじゃないの!!」とか怒られると思ったけど、

     そうかあ、合ったかあ…うんうん……な、二人で頑張れば…!


【恵理、子供のように泣きじゃくっている。孝雄、画面に目を戻す】


孝雄 : …勇者タカオ、僧侶エリ、…懐かしいなあ。

     どれどれ、ステータスは…お、結構やり込んでるな。…時間稼ぎしやがったな、俺。

     んー?…おいおい、魔法使いのサキって、うちのオフクロの名前じゃねえか、俺マザコンだったのか?


【恵理、泣くのをやめて顔を上げる】


恵理 : …このゲームはじめたとき、たかちゃんのお母さんが偶然部屋に入ってきて…

孝雄 : ああ、そうだった。…おふくろ、びっくりだったよな、部屋に入ってきたら、

     レースのワンピース着たかわいい女の子が座ってるんだからさ。

     確かあのときオフクロが「ガールフレンド?」とか言いやがって!俺、照れ隠しで

    『仲間の名前を決める大事な時だから邪魔しないでください』とか言ったら、

     唐突に、じゃあ私も仲間に入れてよって…

恵理 : ふふふ

孝雄 : にしても、戦士タロウって誰だこいつ

恵理 : それはうちで飼ってた犬の名前

孝雄 : …思い出した、こいつさ、俺がえりちゃんにいいとこ見せようとすると、

     なぜか先に攻撃して俺の出番をことごとく奪っていきやがるんだコンチクショウ

恵理 : ふふ

孝雄 : 俺の見せ場を…

恵理 : たかちゃんは、

孝雄 : ん?

恵理 : いつもかっこよかったよ


【恵理、笑う、つられて孝雄も照れくさそうに笑う】


孝雄 : さて!行くか!

恵理 : 魔王の城?

孝雄 : ああ、19年と11ヶ月ぶりにね。

     えりちゃん見てろよ、勇者タカオの雄姿を!

恵理 : うん

孝雄 : よし!あー懐かしいなー!


【孝雄、なんだかんだ言いながら子供のようにゲームに興じる恵理、それを隣で見ている】



恵理 : (本当はあの時、このゲームをクリアしたらこう言ったかった)


恵理(子):こ、これからもわたし、たかちゃんといっしょにあそびたい!ずっと、ずーっと…!


孝雄 : (本当はあの時、このゲームをクリアしたらこう言ったかった)


孝雄(子):えりちゃん!これからも一緒にあそぼう!ずっと、ずっと、ずーっと…!




【幼い頃の恵理と孝雄が窓から二人を見ている】



恵理(子)・孝雄(子):言えばいいのに



【二人、同時に互いを見るが慌てて目をそらす】


孝雄 : あ

恵理 : な、なに!

孝雄 : しんだ

恵理 : え?

孝雄 : えー、一発のダメージでけえ…

恵理 : …

孝雄 : …

恵理 : 『ただのしかばねよ、しんでしまうとはなさけない』

孝雄 : 勇者タカオね

恵理 : 子供のゲームで死んでるとか…

孝雄 : あー!馬鹿にしちゃいけませんよ!あのころだってここまでくるのに1年かかっただろ!

恵理 : どうだかー、私と一緒にいたくて、わざと時間かけてたんじゃないのー

孝雄 : 馬鹿じゃないの!なにさま!

恵理 : あーあーこれじゃあまだまだ時間かかりそう

孝雄 : すみませんねえ、ゲーム下手でねえ、小林くんとちがってねえ

恵理 : はあ?なんでそこで小林君出るのよ

孝雄 : べっつにいい

恵理 : …ふん

孝雄 : …へっ


【間】


孝雄 : …別にさ

恵理 : …なによ

孝雄 : …またやればいいんじゃないの

恵理 : …

孝雄 : …だから、その、さ


【間】


恵理 : ふっかつのじゅもん

孝雄 : え?


【恵理、孝雄をまっすぐに見つめる】


恵理 : …ふっかつのじゅもんをにゅうりょくしてください

孝雄 : …

恵理 : …

孝雄 : 今度メシでも行かない…?


【間】


恵理 : よろこんで


【2人、子供のように笑い合う、窓の外にいる子供の頃の二人も笑っている】

 

 



(劇終)
 

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