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ずっとトモダチ

作 : 揚巻

 

(♂0 : ♀3 )

♀日野泉  :
♀井川知子・優子  :
♀野坂香織  :

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

泉 : “香織・知子へ―― 授業中にごめんね。
  今日、卒業式の予行練習が終わった後、3人で話したいの。
  あの場所で待ってます。――泉。

  P.S これ読んだら、昼休みに、知子へ渡してくれる?
  にしても、セッキーの授業ホントつまんないよね。死ねばいいのに”

 

  【間】
 

泉M : 30歳の誕生日を控えたある日、一通の手紙が届いた。差出人は井川知子。
   高校時代の友人だ。卒業以来、連絡はなかった。
   手紙は、もうすぐ誕生日だね、とか、最近どうしてる、とか当たり障りのない文章が続き、

 

知子 : “追伸、白濱高校の別館が春に取り壊されるそうです。
   その前に一度、別館屋上で会いませんか。日時は――”

泉 : 一方的ねえ。普通いつにしようかって聞くものじゃない?
  それに…このキーホルダーなに?

泉M : 中には小さな鈴がついた、リボンのキーホルダーが同封されていた。
   もう一度、宛名を確認したが、やっぱり名前しか書かれていなかった。
   私は押入れの奥から、卒業アルバムを取り出した。
   3年D組のページ、井川知子。3年E組、野坂香織、そして私。
   知子と香織は2年の時同じクラスになって仲良くなった。
   私たちはよく遊んだ。3年になってクラスが分かれたけど、
   休み時間に話したり、休日には一緒に遊んだ。私達3人は、親友だった。

泉 : 親友だった…のに、どうして今まで会わなかったんだろう…
 

  【夜、白濱高校の前】
 

知子 : 泉!

泉 : 知子?…久しぶり!

知子 : 久しぶりだね、12年ぶり…

泉 : えー…そんなに経った?

知子 : 実感ない?

泉 : うん、なんかあっという間だった…

知子 : 向こうで忙しくしてたんでしょ

泉 : そうだね…連絡しなくてごめん。手紙、ありがとう

知子 : ううん、こっちこそありがと。来てくれて嬉しいよ

泉 : 私も会えて嬉しい!…でもさあ、普通、いつが空いてる?みたいに相談するもんじゃない?

知子 : ごめんごめん

泉 : しかも、住所も書いてないし、実家の電話番号も、現在使われてません、だし。
  …今日、私が来なかったらどうするつもりだったの?

知子 : 来るまで書いてたかな

泉 : ちょっと怖いんだけど

知子 : 冗談だって、いいじゃん、こうして会えたんだからさ!

泉 : そりゃそうだけど…

知子 : ホントごめん!…許して?

泉 : (考えるフリをして)…許す!

知子 : ありがとう。それにしてもさー懐かしいよね!我が母校!白濱高校!

泉 : そうだね…卒業してから初めて来た

知子 : 普通そんなもんだよ

泉 : でもなんで夜?

知子 : 昼だと生徒がいるじゃない

泉 : いや、夜だと中入れないし

知子 : そこはさ、どっかからこそっと…

泉 : あの抜け道?

知子 : あ、いいね、でもまだあるかな?

泉 : どうだろ、あれから結構経ってるし…
  それに中へ入れても校舎閉まってるでしょ?

知子 : それは大丈夫。本校舎は無理だけど、別館は今使われてないから鍵もかかってないって

泉 : なんでそんな詳しいの

知子 : ああ…、えっと、セッキー覚えてる?国語の関口先生

泉 : うん

知子 : セッキーさ、今、ここの教頭なんだよ

泉 : そうなの!?

知子 : こないだ偶然セッキーに会って、そん時に別館のこと聞いたんだ

泉 : だから色々知ってるわけね

知子 : そうそう。で、手紙書いたの。別館なくなる前に、またみんなで会いたいなあ…って

泉 : …香織もきたらいいのにね

知子 : 香織に会いたい?

泉 : うん。会いたいなあ

知子 : …うん

泉 : 知子、まだ香織と連絡とってる?

知子 : え?

泉 : たまに会ったりしてる?元気にしてるかな?

知子 : 泉、本気で言ってる?

泉 : 本気って?え、何か私変なこと言った?

知子 : いや…、ううん、いい

泉 : 変な知子

知子 : ねえ、とりあえず、中に入ろう、寒いし。
  それにこんなとこでウロウロしてると怪しまれる

泉 : 今から忍び込むくせに何言ってんだか

知子 : ふふ、…ねえ、抜け道の場所、覚えてる?

泉 : 当たり前じゃん。私が最初に見つけたのよ。…こっち!

知子 : あはは!さすが!!

泉 : ちょっと、しぃーっ!

知子 : …ごめん
 

  【泉と知子、クスクス笑いながら駆けていく】

  【夜の別館階段を懐中電灯の灯りを頼りに上っていく泉と知子】
 

泉 : やっぱさ、夜の学校は怖いね

知子 : そう?懐中電灯あるし、そんなことないと思うけど

泉 : 昔は知子の方が怖がりだったくせに

知子 : 今は全然平気

泉 : なんか、季節外れの肝試ししてる気分

知子 : 泉、手に持ってんの、なに?

泉 : 卒アル。一緒に見たいなーと思って

知子 : 懐かしいねー

泉 : ねー

知子 : あ、着いたよ
 

  【夜の別館屋上階段】
 

泉 : …はあ、疲れた

知子 : 廊下の電気付けるね

泉 : そんなことしたら誰か来ちゃうよ

知子 : こんな時間だし、誰も気付かないって。
  それに、懐中電灯の光だけで…泉怖くない?

泉 : …怖い

知子 : というわけで!点灯!

泉 : はいはい
 

  【廊下の電気が付き、周囲が一気に明るくなる】
 

泉 : …

知子 : 泉?どした?

泉 : あ、いや、懐かしいなあって…

知子 : ここ、穴場だったよね

泉 : そうそう、ここならあんま人来ないし

知子 : 3人でずっと喋ってたなあ。ゆっくり喋りたくても、教室だとすぐ先生に見つかっちゃうしー

泉 : 私達、いっつもここにいたから、何か用事があるとみんなここに来たよね。
  部活の後輩とか、あ、知子の妹が迎えにきたり。屋上にいるより、この階段に座ってるほうが多かった

知子 : うんうん、こうやって座ってね

泉 : あ、そこ知子の定位置だ。…私は、(一番上まで上っていく)ここ。で、香織が…

知子 : ここ。ちょうど三角形の頂点が泉で、私と香織が並んだ形

泉 : 実際座るとますます懐かしいー

知子 : あ、泉パンツ見えてる

泉 : え!ちょっ…!

知子 : うっそー
 

  【二人、笑い合う】
 

知子 : あの頃、いつも一緒にいたよね

泉 : うん、楽しかった

知子 : 遊びにも行ったなあ

泉 : 買い物とか映画とかカラオケ!香織が一番、張り切ってたよね。
  休みの前になるとどっか行こうよってさ

知子 : 昔は外に出るの好きじゃなかったのにね

泉 : 香織が?そうなの?

知子 : 泉に会ってからだよ。香織は変わった。すごく明るくなった

泉 : ふーん、全然知らなかった
 

  【白濱高校、3年E組の教室、昼休み】
 

香織 : ねぇ、次の週末何して遊ぶ?

泉 : カラオケは先週行ったよね

知子 : じゃあ泉んちで遊ぶとか?

泉 : 今週はダメー。ね、知子んちは?

知子 : うちは妹がいるからダメー

香織 : 優子ちゃんも一緒に遊べばいいのに

知子 : ダメダメ。あいつうるさいから。全く、誰に似たんだか…

泉 : 今、1年だよね。知子に似てる

知子 : 私の方がオトナですー

香織 : でも優子ちゃんの方がしっかりしてる

知子 : そんなことない!

泉 : いいなあ、私ひとりっこだから羨ましい

香織 : うんうん、私も

知子 : いやー、いるならいるで面倒だよ

泉 : 楽しそうだけどなあ、ね、香織

香織 : うん

知子 : それはいいからー!日曜どこ行く?

香織 : 駅前のショッピングモール行きたい!

知子 : いいね!私も、開店初日に行ったんだけど、とにかく人多くって脱落

香織 : 泉ちゃんは行った?

泉 : 私、開店してからはまだだなあ、プレオープンの時には行ったけど

知子 : え!プレオープンに行けるのって関係者だけでしょ?

香織 : 泉ちゃん、関係者だったの?

泉 : 私のお父さんがね。設計の仕事でちょっと関わってて

香織 : すごいなー

知子 : さすが、泉さま!

泉 : じゃあ日曜はショッピングで決まりね!私、案内するから!結構いいお店入ってたし!

香織 : 嬉しい!

知子 : よーし!今度はがっつり買うぞー!

泉 : ねえ香織、春樹くんたちは誘わないの?

知子 : えー、アイツら来たら、文句ばっか言うよ。健二とか特に。まだかよー!って!

香織 : 声かけるだけ、かけてみる?

泉 : そうしようよー。大勢の方が楽しいでしょ!

香織 : わかった。連絡しておくね

知子 : あいつら来たら、下着屋とか入れないじゃん

泉 : なになに、知子下着買うの?

知子 : いや、買わないけど!

香織 : 誘うだけ誘ってみよ。せっかく泉ちゃんが案内してくれるんだし

知子 : まあ、香織がそう言うなら

香織 : うん
 

  【チャイムが鳴る】
 

泉 : あ、チャイム鳴ったよ

知子 : えー、戻りたくないなあ、私もこのクラスがいいー!

香織 : 知子ったら

泉 : 香織と一緒、いいでしょー

香織 : ふふふ

知子 : もう!なにそれー!私も入れてよ!
 

  【泉と香織の間に知子が割り込む。3人笑い合う】

  【夜の別館屋上階段】
 

泉 : 知子、仕事今何してるの?

知子 : んー、新聞社の編集部

泉 : え、かっこいい

知子 : 名前だけね

泉 : 記事書いたり…取材したり?

知子 : そうねー、学校関連の取材が多いかな

泉 : すごいじゃん!いいよねー、私も復帰したいなー

知子 : しないんだ

泉 : したいのは山々だけど、ボストンにいた時の方が良かったなあ

知子 : いっそ向こうに戻るとか

泉 : そのうち戻る予定だったんだけどねえ

知子 : けど?

泉 : 健二さんがあんまりいい顔しないって言うか…

知子 : 付き合ってどれくらいだっけ?

泉 : こっち戻ってからだから…2年かな。結婚して1年ってとこ

知子 : 泉がモテるから心配なんじゃない?

泉 : ないない。家のことが心配なんじゃない?家事とか。あとは、男のメンツ?

知子 : メンツ?

泉 : うち、上場企業だし

知子 : ふーん

泉 : 知子は、結婚まだよね?

知子 : うん

泉 : しないの?

知子 : しないかな

泉 : どうして?

知子 : ふふ

泉 : 誤魔化す気ね

知子 : あはは、…ねえ、アルバム見せて

泉 : もう…、はい
 

【泉、知子にアルバムを渡す】
 

知子 : ありがと。…ん?なんか挟まってるけど

泉 : ああ、写真。あとメモとか手紙とか

知子 : ホント色々入ってる。こんなにいっぱい写真撮ったんだ…

泉 : うん、3人で撮った写真ばっかり。
  あの頃は楽しかったなあ…いつも笑ってた気がする…

知子 : 戻れるものなら、戻りたい?

泉 : うん、戻りたい

知子 : そっか…、あ、文化祭の写真だ。泉のクラス、メイド喫茶だったね

泉 : そのメイド服手作りだったのよねー!作るの苦労したー

知子 : 似合ってる

泉 : ありがと。かなり力入れて作ったからね。でも今見ると、微妙かな

知子 : そんなことないよ

泉 : 春樹くんと健二さんも来たよね。写真くれって言われた。お世辞上手いよね、ふふ

知子 : …香織の写真は?

泉 : どっかにあるんじゃない?…あ、劇の写真もあるよ、知子が出たやつ

知子 : …あ…
 

  【知子、一枚の写真をじっと見ている】
 

泉 : ん?(上から覗き見る)…あ、それそれ!懐かしい!

知子 : …ホント

泉 : 知子の衣装やばいよね。それで会心の出来!って自慢しててさ

知子 : …

泉 : ちょっとやだ、絶句しちゃうほどショック?

知子 : …いやあ、これはないよね!ひどすぎる!

泉 : だよね!あはははは

知子 : ホント、ひどいね…

泉 : ねぇねぇ、これなんて劇だったっけ、確かアニメの…

知子 : いやーもう忘れちゃった!きれいさっぱり!

泉 : もう!都合の悪いことは忘れたって言うんだから!

知子 : そうだね…
 

  【白濱高校、3年E組の教室、放課後】
 

香織 : 泉ちゃん

泉 : …

香織 : 泉ちゃん!

泉 : なに

香織 : …私

泉 : なによ

香織 : …私、泉ちゃんに何かした?

泉 : べつに

香織 : じゃあどうして、お喋りしてくれないの?

泉 : 今、話してるじゃない

香織 : そうじゃなくて

泉 : なんなのよ、はっきり言ったら?

香織 : …なんで、無視するの?

泉 : …

香織 : 泉ちゃん

泉 : わかんないんだ?

香織 : なにを…

泉 : 香織、知ってるよね?私が春樹くんのこと好きだってこと

香織 : …うん

泉 : 応援するって言ったよね

香織 : うん

泉 : 香織は?

香織 : え?

泉 : 香織は、春樹くんのこと好きなの?

香織 : …私は、友達として好きだよ、小学校の頃からずっと

泉 : 恋愛対象じゃなくて?

香織 : 泉ちゃんが思ってるような好き…じゃないよ

泉 : じゃあそれ、春樹くんに言って。恋愛対象じゃないって

香織 : どうして

泉 : 春樹くん、香織のことが好きなんだって。…ずっと前から

香織 : …

泉 : 何その顔、もしかして知ってた?…コクられた?

香織 : …前、に

泉 : …へぇ、応援するとか言っといて

香織 : 嘘じゃないよ!私、泉ちゃんと春樹が…

泉 : 呼び捨てやめて!

香織 : …ごめん
 

【間】
 

泉 : そういえば、健二くんは知子のことが好きみたいよ

香織 : …うん

泉 : それも知ってるんだ。直接聞いたの?

香織 : 春樹…くんに聞いた

泉 : 香織、好きなんでしょ、健二くんのこと

香織 : …うん

泉 : かわいそう

香織 : でも、健二くんが知子のこと好きなら、応援する

泉 : …なにそれ

香織 : 私、健二くん好きだけど、知子も好きなの。
  だから健二くんが知子を幸せにしてくれるなら…

泉 : 私のことは邪魔するくせに

香織 : 邪魔だなんて

泉 : 私より知子が好きだから、知子の為なら諦めて応援するんだ。
  で、私のことはどうでもいいから、春樹くんに思わせぶりな態度とって気を引いてるのね。
  応援するとか白々しいこと言って!

香織 : 泉ちゃん、違うよ…!

泉 : もういい!…覚えてなさいよ

香織 : …泉ちゃん
 

  【夜の別館屋上階段】
 

知子 : ねえ泉、この写真…

泉 : …

知子 : …泉?

泉 : あ、…えっと、なに、どの写真?

知子 : これ

泉 : ああ、ショッピングモールに行ったやつ

知子 : 5人で行ったね

泉 : うん、春樹くんと健二さんがすごいはしゃいじゃって

知子 : 普通、逆じゃない?

泉 : だよね。健二さんが特に騒いでた

知子 : 健二、今でもあんな?

泉 : …いや、今はそんなことないかな

知子 : へー、一応あいつもオトナになったわけか。小さい頃から騒々しい奴だったけど

泉 : いつからの付き合いだっけ?

知子 : 春樹が小学校で、健二が中学から

泉 : 長いね

知子 : 一番長いのは香織、幼稚園から…っていうか、物心つく前か…

泉 : ところで、その写真がどうかした?

知子 : これから後の写真、ないなあって。みんなで写ってるやつ

泉 : 3年だったし、色々忙しくなったからじゃない?
  受験とか部活とか、知子も生徒会だったでしょ

知子 : なんで一枚もないんだろう…これだけ撮ってたのに…

泉 : そこにないだけでどっかにあるんじゃないかな

知子 : そうだね
 

【間】
 

泉 : ねえ、…知子は、健二さんのこと好きだった?

知子 : なにそれ、今更そんなこと聞く?

泉 : 今だから、聞けるかなって…

知子 : 言っちゃっていいの?二人の結婚生活にヒビが入るかも…

泉 : え?

知子 : あはは!ウソウソ!私は、春樹も健二も好きじゃなかったよ!
   男として見たことない

泉 : そっか…

知子 : 私、泉は春樹のことが好きだと思ってた

泉 : 違うよ。あの頃は恋より友情。あとは留学の為の勉強?そんなとこ

知子 : でも不思議なものよね、泉は健二と結婚したわけだし。
   10年後に再会して結婚とか、ドラマチックよね

泉 : 知子はあの頃、誰が好きだったの?

知子 : 私?

泉 : うん。私たちさ、恋バナみたいなの全然しなかったじゃない?

知子 : 泉には言ってなかったもんね、好きな人の話

泉 : …香織には言ってたの?

知子 : うん

泉 : …そうなんだ

知子 : 気になる?

泉 : そう、ね

知子 : ふーん

泉 : もうだいぶ経ったし、教えてくれてもいいでしょ、香織に話して、私に隠すとかずるい

知子 : じゃあ、私が誰を好きだったか…その結果次第で、泉が結婚した男は春樹になってた?

泉 : え?

知子 : 香織は健二が好きだった。で、健二が好きだったのが私だったから、…泉は健二と結婚した?

泉 : 知子?

知子 : ねえ、知りたい?…私が好きだった人…
 

  【白濱高校、校庭。突然飛んできたボールに当たり、うずくまる香織。】
 

香織 : っ…!

知子 : 香織!

香織 : 知子…

知子 : 大丈夫?ボール、どこにぶつかった?

香織 : 大丈夫…

知子 : 顔?血出てない?

香織 : 大丈夫だよ、…ほら

知子 : …良かった、私みたいに傷が残ったら、…だめだよ

香織 : 知子…

知子 : ま、私のは転んでできたんだけど…、
   っていうか、…なんなのあいつら、アレわざとボール当てたよね?
   私、文句言ってくる!

香織 : 知子、大丈夫だから

知子 : だって!

香織 : 大丈夫。…それにわざとやったって証拠はないよ

知子 : ねえ香織、クラスのみんなに無視されてない?

香織 : 無視なんてされてない

知子 : 香織、イジメられてるんじゃないの?

香織 : ないよ、そんなことない

知子 : 私がもっと香織のとこ行けてたら…、最近生徒会忙しくてさ…

香織 : 心配かけてごめん。でも本当に大丈夫だよ

知子 : ホントに?

香織 : うん、泉ちゃんいるし

知子 : 休み時間に香織と泉が一緒にいるとこ全然見ないよ?

香織 : …

知子 : 何かあった?

香織 : 何もないよ。泉ちゃんね、部活の友達と大会の練習とかしてるみたいで、だから

知子 : …

香織 : 知子が見てないだけだよ、大丈夫

知子 : そっか…

香織 : 心配しなくていいよ、私、泉ちゃん大好きだから

知子 : 香織…

香織 : 泉ちゃん今度ね、英語で弁論するんだよ。その準備で今忙しいんだ。
  すっごく綺麗な発音なんだよ。目を閉じて聞いてたら、外国人みたい…!

知子 : 英語で弁論かあ。そういえば泉、留学したいって言ってたね

香織 : うん、だから私、泉ちゃんのこと応援してるんだ

知子 : ホント、香織は泉が好きだね…

香織 : うん、泉ちゃん大好き

知子 : そうだ!最近、遊べてないからさ、今度3人でどっか行こうよ。
   日曜だったら泉も時間とれるよね。あ!この前行ったクレープ屋とか!

香織 : …うん

知子 : 香織…?
 

  【二人に、泉が近づいてくる】
 

泉 : …どうしたの?

香織 : …!

知子 : あ、泉!

泉 : 香織が座り込んでたから心配になって…どうかしたの?具合悪い?

知子 : ねえ泉、あいつらなんなの!

泉 : あいつらって?

香織 : 知子…私は…

知子 : E組のお嬢グループ!泉もたまに一緒にいるあいつらだよ!
   さっき香織にわざとボールぶつけて!

泉 : わざと?そうなの?香織

香織 : それは…

知子 : 泉から何とか言ってやってよ!ダメなら私が…!

香織 : 知子!やめて!

知子 : …香織

香織 : …大丈夫、大丈夫だから
 

  【間】
 

泉 : …わかった、私から言っておくね、気が付かなくてごめん、知子

知子 : うん、香織のこと、守ってやってね、泉…

泉 : もちろんよ

知子 : あ、そうそう!あのクレープ屋、新作出したんだよ!
   先週、香織と行ったんだけど、あれ絶対泉も気に入る!今度みんなで行こうよ!

泉 : …へー、そうなんだ

香織 : …あ、もう戻ろう、泉ちゃん!

知子 : ちょっと、香織?

香織 : 知子、またね!

知子 : あ…ちょ…
 

  【香織、泉の腕をひいて立ち去る】
 

泉 : 私のこと、なんか言った?

香織 : ううん

泉 : 言えばいいのに、泉にイジメられてるの、ってさ

香織 : 泉ちゃん…

泉 : でも言わないかー、知子に心配かけるの、やだもんね?

香織 : 心配なんて…

泉 : 知子と二人でどっか行ってるの?

香織 : あ…

泉 : 最近全然誘わないよねー、私に仕返し…してる?

香織 : 泉ちゃん…

泉 : なに

香織 : どうしたら昔みたいに戻れる?

泉 : …

香織 : 私、泉ちゃんと知子とまた楽しく話したり遊びに行ったりしたいよ…
   どうしたら戻れる?私、どうしたらいい?泉ちゃん…

泉 : 香織が私と知子を遠ざけてるんじゃないの?

香織 : それは…

泉 : さっきさ、知子に言ってたよね、…泉ちゃん大好きって

香織 : 私…!泉ちゃんのこと、好きだよ!

泉 : ホントに?

香織 : 嘘じゃないよ!

泉 : 一番好き?

香織 : え?

泉 : 私のこと、一番好き?

香織 : 泉ちゃ…

泉 : 教えて、香織…

香織 : 泉ちゃん、近いよ…

泉 : 答えなさいよ、香織

香織 : 好きに順番はないよ…みんな大切なの…!

泉 : …嘘つき。私は、知子の次、でしょ?

香織 : 泉ちゃん…

泉 : 知子の一番は香織!香織の一番は知子!私はどっちも二番!
  春樹くんも健二くんも、香織と知子が好きで!私は二番!

香織 : 泉ちゃん、一番とか二番とかな…

泉 : うるさい!私は一番じゃなきゃ嫌なのよ!!!!
 

  【夜の別館屋上階段】
 

泉 : …!

知子 : どうしたの?

泉 : なんでも、ない。…あ、それで、知子の好きな人って…

知子 : これ、クラスの連絡網?へえ、物持ちいいなあ

泉 : あの…

知子 : ん?なに?

泉 : ううん、…なんでもない

知子 : これ、あちこち訂正してあるけど、まだ使ってるの?

泉 : 私、同窓会の幹事だから。ちゃんと連絡とれるように、住所変わったりしたら教えて貰うようにしてるの

知子 : はあ、だからかー

泉 : そういえば、知子んちの番号も変わってたけど、実家、引っ越したの?

知子 : うん、ちょっと色々あって

泉 : 今の連絡先教えて?

知子 : いいよ。…香織の連絡先も知りたい?

泉 : 香織も引っ越したの?だったら教えて欲しいな

知子 : ふふ

泉 : なによ、変なの

知子 : 泉、香織に会いたい?

泉 : もちろんよ

知子 : くるよ、もうすぐ

泉 : え?

知子 : 泉と会うからおいでよって誘った

泉 : いつ

知子 : 今日

泉 : なんで

知子 : なんでって、いいじゃない、泉、香織と会いたいんでしょ?

泉 : それはそうだけど…いきなり誘ったら香織も迷惑なんじゃない?

知子 : そんなことないよ、香織はずっと泉に会いたがってたから

泉 : 今夜じゃなくても…もうすぐ同窓会だし…

知子 : へえ、手紙も取ってるんだ

泉 : 手紙?

知子 : アルバムに挟んであったよ…“香織へ回して”って、これ…

泉 : え…ちょっと待って、知子…!

知子 : (手紙を開く)“香織・知子へ――”
  今日、卒業式の予行練習が終わった後、3人で話したいの。
  あの場所で待ってます。――泉。
  P.S これ読んだら、昼休みに、知子へ渡してくれる?
  にしても、セッキーの授業ホントつまんないよね。死ねばいいのに”…

 

  【間】
 

泉 : …

知子 : …これ、なに?

泉 : それは…

知子 : 卒業式の予行練習…って

泉 : わ、渡そうと思ったけど渡しそびれたやつね…

知子 : ホントに?

泉 : ホントよ…
 

  【間】
 

知子 : ああ…そっかあ、だから香織、この手紙見せなかったんだ…

泉 : え?

知子 : …

泉 : だからそれは渡してないんだって…

知子 : 泉さ、あの頃…私が誰を好きだったか、知りたがってたよね?

泉 : なに…

知子 : …知りたい?

泉 : …うん

知子 : …私、セッキーが好きだったの

泉 : セッキーって…関口?国語の?

知子 : そう

泉 : …冗談よしてよ、あんな奴好きとか…、あ、もしかして笑わせようとしてる?

知子 : そう言うだろうなと思ったから、香織は私から泉を遠ざけた…

泉 : は?
 

  【廊下の電灯が消える】
 

泉 : え!なに…!
 

  【間】
 

泉 : …知子?ねえ!知子!

知子 : いるよ

泉 : なんで電気消したの?!つけてよ!

知子 : 私、ここに座ってたじゃない、どうやって消すのよ

泉 : だって…!

知子 : 古い校舎なんだから、こんなこともあるんじゃないの?

泉 : ねえ、懐中電灯!懐中電灯つけてよ!知子!

知子 : どしたの、泉。そんなに怖い?大丈夫よ、すぐ目が慣れるって
 

  【鈴の音が鳴る】
 

泉 : なんの音!?

知子 : 泉、怖がり過ぎ。キーホルダーでしょ。私が、手紙に同封した

泉 : キーホルダー…、ああ、もう、驚かさないでよ…
 

  【また鈴が鳴る】
 

知子 : 私も持ってるんだ。おなじやつ

泉 : おそろい…なの?

知子 : そうだよ。3人でおそろい。それね、香織から泉への誕生日プレゼント

泉 : …え?

知子 : で、さっきの話の続きだけどね…

泉 : ちょっと、なにもこんな中で…せめて懐中電灯つけてよ

知子 : それが点かないのよ。ほら
 

  【スイッチを入れる音が繰り返し聞こえる】
 

泉 : なんで…

知子 : そのうち廊下の電気つくでしょ。で、どうする?つくまで黙ってる?
  それとも話の続き、聞く?

泉 : …話して

知子 : いいよ。私の好きな人がセッキーだった、ってとこまで話したよね

泉 : だから香織が遠ざけたって

知子 : …香織は心配してたんだ。私と泉が険悪になるんじゃないかって

泉 : なんで

知子 : だって、私はセッキーが好きで、泉はセッキーを嫌ってたから。
   泉がセッキーの悪口言ったら、私が傷ついたり、泉を嫌うんじゃないかって心配して…
   だからあの日も、香織はここに一人で来た…のよね?この手紙を私に見せないまま…

泉 : 知子…
 

  【知子の荒い息遣いが聞こえてくる】
 

泉 : 知子?どうしたの?

知子 : この手紙のせいで…

泉 : え?

知子 : この…この…!
 

  【紙をぐしゃぐしゃにして破く音が聞こえる】
 

泉 : 知子…!なに?何してるの!?

知子 : はあ…はあ…

泉 : ちょっと気味悪いんだけど…見えないからって何してんのよ知子

知子 : …泉、香織と最後に話したのっていつ?

泉 : 最後?そんなの卒業式…じゃ、ない…もっと、前?え…?
 

  【知子、静かに、やがて大きな声で笑いだす】
 

知子 : 最初は冗談かと思ったけど、ホントに忘れてるんだね

泉 : 何をよ

知子 : …香織が死んだこと
 

【間】

 

泉 : え…

知子 : 香織は死んだじゃない、ここで…

泉 : 死んだ…香織が?

知子 : そう。卒業式の予行練習の後…

泉 : 香織が…

知子 : …泉、思い出して。都合の悪いことだけ忘れてるのは、ズルいよ…

泉 : 都合の悪いこと…

知子 : ここで起こったこと。さっきの手紙を香織に渡した後のこと
 

  【間】
 

泉 : あ…あ…

知子 : 必死で忘れたんだろうね、夢だったってことにした?それとも妄想にした?

泉 : 待って…待って…!

知子 : あの日、香織は泉の手紙でここに来た、それから…何があったの?泉…    
 

  【白濱高校、別館屋上階段】
 

香織 : 泉ちゃん、遅くなってごめんなさい…

泉 : ううん、私も今来たとこ…

香織 : …泉ちゃん、話ってなに?

泉 : 香織、ごめん!

香織 : え…?

泉 : 今までのこと、謝りたくて。私、香織に八つ当たりしてた。ごめん!

香織 : …いいよ!私、泉ちゃん好きだし、…嬉しい!

泉 : 許してくれる?

香織 : もちろん!

泉 : 香織、ありがとう。…実はね、春樹くんに告白されたの。それを香織に話したくて…

香織 : そうなんだ!良かった!

泉 : うん、香織のこと疑ってごめん。誤解してた。また5人で遊ぼう!

香織 : うん!…あ、泉ちゃん…これ、泉ちゃんにプレゼ…

泉 : ねえ!知子は?私、今日は3人でいっぱい話したくて

香織 : …あ

泉 : どしたの、香織?

香織 : …ごめん、知子、先に帰ったみたいで

泉 : え?

香織 : 教室に行ったんだけど、いなくて…
  下駄箱行ったらね、もう靴がなくて…

泉 : 授業中に回した手紙…知子に渡してくれたんだよね?

香織 : …ごめん

泉 : なにそれ

香織 : …わざとじゃないの!あのね…!

泉 : …やっぱり

香織 : やっぱり?

泉 : 知子と私を引き裂こうとしてるんだ。前からそうじゃないかって思ってたけど

香織 : 引き裂くなんて!

泉 : そうでしょ!私、手紙に書いたよね!知子にも渡してって!

香織 : それは…

泉 : なんで渡さないのよ!…知子をここに連れてきたくなかったんでしょ!
  …どうせ知子に言ってんのよ!私がクラスのみんなを先導してあんたイジメてたって!

香織 : 泉ちゃん違うよ!私はまた3人で仲良く…

泉 : もういい!知子も私のこと嫌ってるんでしょ?だったら知子とも絶交よ!

香織 : 違うよ!知子は泉ちゃんを嫌ってなんか…

泉 : もういいって言ってんでしょ!帰りなさいよ!

香織 : 泉ちゃん、お願い、話を聞いて…

泉 : 帰れって言ってんでしょ!

香織 : 泉ちゃ…

泉 : 触んないでよっ!!!!
 

【泉が振り払った拍子に、香織の体がぐらりと揺れる】
 

香織 : あ

泉 : あ
 

  【転落音】

  【廊下の電灯が点く】
 

泉 : …!

知子 : …電気、ついたね

泉 : …私…、…!きゃああああああああああああ!!!
 

【知子の隣に制服姿の少女が座っている。長い髪が被さって顔は見えない】
 

知子 : どうしたの

泉 : そ、そこに、いるの…誰よ!!

知子 : 香織よ

泉 : …!

知子 : だって、香織の席だもの

泉 : だって…香織は…!香織はもう…!

知子 : 思い出したんだ?

泉 : …!…ちがう!ちがう!!

知子 : あの日、泉はそこに立ってた。香織を見下ろして…
  香織は話を聞いてもらいたくて、階段をかけあがって、泉の腕に手をかけた。
  泉は、香織の手を振り払った。その拍子に香織は、そのまま下へ…

泉 : やめて!!

知子 : …泉、香織のポケットから手紙を抜き取って、そのまま家に帰ったんでしょ?
  渡してないとか嘘。バレるのが怖かったから持って帰ったんでしょ!

泉 : …ちがう

知子 : どうしてすぐ助けを呼んでくれなかったの?そしたら、もしかしたら香織は…

香織 : (いずみ、ちゃん、たすけて…)

泉 : …ひっ!

知子 : 泉は香織を見殺しにした…!

泉 : 見ていたように言わないでよ!何も知らないくせに!
  あれは事故!私はいなかった!私は香織を殺してない!手紙を取ったのは…疑われたくなかっただけよ!
  私がここに来た時、香織はもう死んでた!死んでたの!

知子 : 香織は泉のことを恨んでないよ。
  ただ待ってただけ。泉が戻ってくるのを、ずっと。そうだよね、香織…

香織 : (いずみちゃん)

泉 : …!

知子 : 聞こえるでしょ?香織の声。さっきからずっといたのよ、香織…

香織 : (いずみちゃん…、わたし、いずみ、ちゃんが…すき…)

泉 : 香織…!

知子 : 良かったね香織、ようやく泉に会えたね

泉 : どういうことよ…ねえ、知子、これなんなの…

知子 : 香織ね、本当に泉が好きだったのよ。
  昔から引っ込み思案だったのに、泉と友達になってから、本当に変わった…  

香織 : (いずみちゃん…)

知子 : 泉、1年の頃から目立ってたよね。泉は知らなかっただろうけど、
   香織は泉のことずっと前から憧れてた。友達になれたらいいなって。
   だから2年で同じクラスになって、仲良くなれて、自信がついたんだと思う。
   泉、泉、泉…少し妬けるくらい…。泉のいないところでも、泉の話ばっかり

泉 : …そんなの、知らないわよ…!

知子 : …泉は、香織を忘れて生きてきたんだろうけど、…私はダメだったの。
  だから毎年、ここへ来てた。…幽霊でもいいから、香織にもう一度会いたいって

泉 : 会えるわけないでしょ!香織は死んでんのよ!

知子 : そうね…!でもあの日、私は香織に会えたの…6年前の香織の命日…
 

  【数年前、夕暮れの別館屋上階段、階段の上で手を合わせる知子】
 

知子 : 香織…

香織 : (ともこ…)

知子 : …!香織!?

香織 : (ともこ…)

知子 : 香織なの!?

香織 : (ふふふ…)

知子 : やっと会えた…。会いたかった…香織…!

香織 : (あいたかった…)

知子 : 香織…
 

  【制服姿の香織を見るうち、知子の目から涙があふれ出す】
 

知子 : どうして…どうして香織は死んじゃったの…?
 

  【間】
 

知子 : 泉なの…?
 

  【間】
 

知子 : 泉が香織を殺したの?

香織 : (ともこ…)

知子 : 泉、香織が死んでからずっとおかしかった…
  私のこと避けて、みんなのことも避けて…
  友達を亡くしたショックだって周りは言ってたけど、
  どうして私のことまで避けるのかわからなくて…

香織 : (いずみ、ちゃん)

知子 : あれは事故だ…もう忘れろって言われた…
   でも!忘れられるわけないよ!だってあんな顔して…
   事故だったらあんな笑顔で死ぬわけない…!教えて…!泉なの…!?

香織 : (いずみちゃんはどこ)

知子 : 泉に会いたいの?

香織 : (いずみちゃん、いずみ、ちゃん…)

知子 : 泉はまだ海外だよ。留学の後、そのまま向こうで仕事してるんだって。
   家に電話しても、連絡先教えてくれないし…伝言してるけど、届いてるかどうか…

香織 : (いずみ、ちゃん)

知子 : 泉は、香織のことなんて忘れてる…私のことだって忘れてるよ…
   何もかもなかったことにして生きてるんだ…

香織 : (いずみちゃんは、ともこがすき)

知子 : …え?

香織 : (ともこがいるから、わたしともなかよくしてくれる)

知子 : 香織…

香織 : (ともこがいれば、いずみちゃんも、きっときてくれる)

知子 : 香織…待って、どこ行くの

香織 : (だから…ともこ…)

知子 : 待って、私もっと香織と話したい…!香織と一緒にいたい!

香織 : (いっしょに…)

知子 : 待って香織!かお…!…あっ…!
 

  【夜の別館屋上階段】
 

知子 : 私、夢中で香織を追いかけたの、消えそうになった香織の手を掴もうとして…
  足を踏み外して…、

 

  【間】
 

知子 : わたしも死んだの、ここで

泉 : 冗談やめてよ…

知子 : それからずっと、ここにいる。香織と一緒にね…。
  私も香織も、ずっと、泉が来るの待ってたんだから。
  泉は忘れてるだろうけど、明日、香織の命日なんだよ。それと、私の命日…

香織 : (いずみちゃん、うれしい)

知子 : うん、私も嬉しい、また3人で会えたね、泉
 

  【間】
 

泉 : …騙してるんでしょ

知子 : ふふ…ふふふふふ

泉 : ご丁寧に香織にそっくりな女連れてきて!
  私を訴える気?吐かせて警察にタレこんで、捕まえたいんでしょ!
  ああ、そっか、知子、新聞社だっけ?!特ダネ欲しいんだ?

知子 : 泉…

泉 : っていうかそもそも!香織は死んでない!そんなの覚えてない!だってアルバムにも写真あるじゃない!

知子 : それは、香織のご両親がお願いしたからでしょ。最期の想い出にそのままにして欲しいって。
   香織のお母さん泣いてたじゃない、泉の手を握って、仲良くしてくれてありがとう…って

泉 : やめてやめてやめて!これは、夢よ、あの嫌な夢の続き!

知子 : ああ、そうやって誤魔化してきたんだね

泉 : 覚めて!覚めて!!早く覚めて!

知子 : 泉に送ったキーホルダーはね、私が形見にって香織のご両親に貰ったの。
  制服のポケットに入ってたんだって。私もね、誕生日に同じものをもらってたんだ。
  香織はあの日、それを泉に渡したかったはず。3人おそろいの…キーホルダーを

泉 : うるさい!いい加減にしなさいよ!アンタや香織が幽霊?触ればそんなのすぐわかることよ…!
 

  【泉、知子を掴もうとするが、その間に香織が入り込む】
 

香織 : (いずみ、ちゃん…)

泉 : …ひっ!
 

  【鈴が鳴る、真っ黒な香織がゆっくり泉に近づいてくる】
 

泉 : …!

知子 : 香織、そろそろ行こうか

泉 : い、いく…?

香織 : (いずみちゃん、いこう)

泉 : ちょっと待って…こないで!

知子 : いこうよ、泉も戻れるものなら、戻りたいってそう言ってたよね?戻ろう?泉…

泉 : いや!助けて…ねえ助けて、知子!

知子 : 泉が香織を殺した

泉 : 許してよ…許して…

知子 : 自分がやったことは認めないくせに、許してとか助けてとか都合良すぎない?
   香織に謝ったら?そしたら、許してくれるかもよ?

泉 : 知子…

知子 : 泉…

泉 : …

知子 : 泉!

泉 : …!わざとじゃない!殺すつもりなんてなかった!
  ただ振り払っただけ!そしたら香織が下に落ちて…!動かなくなって…!

知子 : じゃあなんですぐに助けを呼ばなかったのよ!そしたら助かったかもしれないのに!

泉 : 香織が話せば、私警察に捕まっちゃう…!留学も!春樹くんも、全部失っちゃう!そんなの嫌!

知子 : たったそれだけの理由で、香織は…見殺しにされたっていうの!?

泉 : 私、1番が良かったの、香織にとっても知子にとっても、
  春樹くんにとっても健二さんにとっても1番で…いけないの?ねえ、そう思っちゃいけないの…!?

知子 : …

泉 : 許して、知子!…ね、知子が許してくれたら香織も許してくれるんでしょ?ね?

知子 : …

泉 : 知子…!

知子 : 許さない

泉 : 知子…

知子 : 香織、行こう…

香織 : (いずみちゃん、いこう)

泉 : 香織…ごめん…!私まだ死にたくない…!突き飛ばしたこと謝るから…!
  死んじゃうなんて思ってなかったの!きっと香織はすぐ気が付いて、そのまま帰ってるって…
  あのまま死んじゃうなんて…思ってなかったのよ…!ごめんなさい…ごめんなさい…!

 

  【泉の嗚咽が響く】
 

知子 : 泉、それは本当の気持ち?

泉 : 嘘なんてついてない!ごめん!知子ごめん…!
 

  【間】
 

知子 : …わかりました
 

  【泉、怯えたように泣き続ける】
 

優子 : 私、知子じゃないんです、泉さん

泉 : …え?

優子 : 優子です。知子の妹の。顔似てるんで、気付きませんよね?

泉 : …何言ってんの

優子 : …泉さん、憶えてますか、姉の額にあった傷。…私にはありません

泉 : あなた…

優子 : 嘘ついてすみません、でもどうしても真相を知りたかったんです

泉 : じゃ、香織は…

優子 : その方は杉田さん。今回、香織ちゃん役をお願いしました。あの頃の香織ちゃんに良く似てるでしょ?
 

  【間】
 

泉 : だましたのね

優子 : それはお互いさまかと思いますが、確かにそうですね

泉 : 今の話、警察に言うの?

優子 : さっきの懺悔が本心なら、自首して下さい。
   故意でないなら、それなりの処遇があると思います

泉 : 自首?私が?…そもそも知子の妹にこんなことされる筋合いないんだけど。知子どこよ!

優子 : 姉は死にました

泉 : は?

優子 : 6年前の今日、…正確には明日ですが、姉はここで死んでいたのを発見されました。
  香織ちゃん同様、事故か自殺か…わからないままです。これは本当の話です。

泉 : 知子が、ここで…?香織と同じ日に…

優子 : はい

泉 : 知子が…

優子 : 姉が死んだと知らされた時、真っ先にあなたを思い出しました

泉 : …何でも私のせいにしないで!

優子 : そうですね、あなたは姉が死んだ日、まだ海外にいらっしゃった

泉 : わざわざ調べたわけね、それで?なんで今更…昔のことまで調べたのよ

優子 : 姉はずっと気にしていました。香織ちゃんが死んだとき、本当はあなたが近くにいたんじゃないかって…
   でも、そこからずっと目をそらしていたように思います。誰だって、友達を人殺しだと思いたくないですからね。
   だから私が代わりに、香織ちゃんのこともう一度調べてみようって思ったんです。
   事故なのか、自殺なのか…。それとも泉さんが

泉 : 違うわよ!
 

  【間】
 

優子 : …調べていくうちに色々わかったんですよ

泉 : なにが?

優子 : あなたが香織ちゃんをイジメていたこと

泉 : …

優子 : “私の好きな人を香織ちゃんが横取りした”って、クラスメートに話していたそうですね

泉 : 誰が言ったのよ

優子 : 当時E組だった方です

泉 : 言った本人がやってたんじゃないの

優子 : 香織ちゃんのイジメを楽しんでいたのは一部のグループとあなただけだった。
  他のみんなは従っていただけ、と聞きました。―あなたやあなたのグループが怖くて

泉 : 昔のことだから都合良く言ってるだけでしょ

優子 : あなたに言われたくないですけど

泉 : …!

優子 : それがわかってから、ますます知りたくなったんです。あの日のこと。
   とはいえ、正面から聞いても誤魔化されるでしょうから、色々計画しました

泉 : それで香織のそっくりさんが出てきたわけね

優子 : 香織ちゃんの姿を見れば、あなたは怯えて何もかも話して下さるんじゃないか、って
 

  【間】
 

泉 : で?

優子 : で、って…

泉 : 満足?

優子 : あなた…

泉 : 私が殺したって証拠はなにもない、あの手紙もさっきあなたが破ったじゃない?証拠隠滅、よね?

優子 : じゃあ、あれは香織に渡したもので間違いないんですね

泉 : だったらなんだっていうのよ
 

  【知子、ポケットからレコーダーを取り出す】
 

優子 : 今までの会話、録音させてもらいました

泉 : …っ!

優子 : それと、手紙もここにあります。さっき破いたのは他の手紙です。
   こうなることを想定して、準備しておきました

泉 : アンタ…!

優子 : でも、できればこれは使いたくありません。だから、自首してください

泉 : …いやよ

優子 : 泉さん

泉 : 冗談じゃないわよ!なんで私がこんな目に遭わなきゃならないのよ!もう終わったことでしょ!
  私はね、結婚して!これから子供ができるかもしれないし!もしかしたら仕事に戻れるかもしれない!
  勝手に逆恨みして私の人生の邪魔しないでよ!

優子 : さっきの懺悔は…なんだったんですか!?

泉 : 懺悔?アンタが小芝居打ったんだから私も小芝居で返しただけよ!それだけのこと!
  …っていうか!アンタもいつまで私の前に突っ立ってんのよ!どきなさいよ!

香織 : (いずみちゃん…)

優子 : …杉田さん、ありがとうございました。あとは私たちで話し合います

泉 : もうアンタと話し合うことなんてないわよ!

香織 : (いずみちゃん、いこう)

泉 : いこう?あはは!幽霊が警察まで付き添うって?笑っちゃう! 
 

  【優子の携帯が鳴る】
 

優子 : メール?
 

  【その場で携帯を開き、メールを見る優子、蒼白になる】
 

優子 : …!

泉 : …ねえアンタ!ユウコさんだっけ?私は絶対警察なんか行かないわよ、
  仮にアンタが訴えたとしても、私だって訴えるから!…こんな小細工までして…
  恐怖を煽られてあることないこと喋るように誘導されたって言うわ!いい?私は絶対に…

優子 : あなた、誰?

泉 : は?

優子 : あなた、杉田さんじゃないなら、誰?  

泉 : 何言ってんの

優子 : 今!杉田さんからメールが来たのよ!今夜は行けなくなったって…!

泉 : …なによそれ

香織 : (いずみちゃん、いこう)

泉 : …アンタ誰よ!

香織 : (いこう、ともこもまってるよ、…いずみちゃん)
 

  【香織、ゆっくりと顔を上げる】
 

泉 : か、かおり…?

優子 : 香織…ちゃん?

香織 : (ゆうこちゃん、だめ、いずみちゃんは、わたしとともこと、いっしょにいくの)

優子 : 香織ちゃん!

香織 : (じゃましないで)

優子 : っ…!
 

  【優子、座り込んで意識をなくす】
 

泉 : …ちょっと待ってよ、なに…なんなの!

香織 : (むかえにきたよ、いずみちゃん)
 

  【廊下の電気が点滅する】
 

泉 : いやあああ!
 

  【泉、香織の影を振り払い階段を更に駆け上がる】
 

泉 : 屋上…!なんでドア開いてないのよ!!誰か!誰か!!!
 

  【真後ろで香織の声がする】
 

香織 : (いずみちゃん)

泉 : …ひっ!
 

  【影のようだった香織の姿がはっきりと映る】
 

泉 : …!

香織 : 泉ちゃん、私、昔みたいに楽しく過ごしたい

泉 : 香織…!

香織 : 私、何されても泉ちゃんが好きだよ。ずっと一緒にいたい…

泉 : もう…もう許してよ…私も、大好きだから…だからもう、成仏して!許して…!

香織 : 私、春樹くんも健二くんも好きじゃないよ。泉ちゃんが好き。一番好き

泉 : 香織…やめて…

香織 : また遊びに行こう。ショッピングモールにも行きたいな。クレープ屋さんもいいなあ。
  ねえ、行こうよ。知子もいるよ。泉ちゃんが大好きな知子。知子がいるから、泉ちゃんきっと来てくれるよね?

泉 : 許して…

知子 : …泉
 

  【香織の後ろに知子が立っている】
 

泉 : …ちょっとアンタ、…ユウコ!助けてよ!香織をなんとかしてよ!

知子 : 泉、何言ってんの?私、知子よ。忘れるなんてひどい

泉 : からかわないでよ!

知子 : からかってないよ、ほら、この傷…
 

【知子、額の傷を指差す】
 

泉 : に、にせものよ!アンタいい加減にしなさいよ!!

知子 : …だったら私しか知らないこと言ってあげようか?
  文化祭の時、隠れて春樹にキスしたこととか…

泉 : …!

知子 : バレてないと思った?どこで何秒したかも教えてあげようか?

泉 : やめて!!

知子 : ふふ…あははははは

泉 : 知子…

香織 : 今日をずっと待ってた。あの時からずっと、泉ちゃんが戻ってきてくれるのを待ってた

知子 : 良かったね、泉は今日から、香織と私の1番だよ、泉が欲しがってた1番…

泉 : 違う…それは高校の時で…今は違う!私には夫も仕事もあるの…!

知子 : 私たちはもうずっと時が止まったまま、香織も18歳のまま…あれからずっとひとりで…

香織 : 知子、こっちに来てくれてありがとう

知子 : いいんだよ、香織…。こうなったことに後悔はない。でも…

泉 : …!

知子 : 香織は泉を待ってた。ずっと、ずっと。だから私が泉をこっちに連れていく。絶対ね…

泉 : 知子…!

香織 : 大好き、泉ちゃん

知子 : ずっと待ってた、泉

香織 : 一緒にいこう、泉ちゃん

知子 : 逃がさないわ、泉

泉 : いや…いや…
 

  【香織と知子が、泉の名を呼びながらゆっくり近づいてくる】
 

泉 : 嫌いよ!
 

  【間】
 

泉 : 嫌い!香織も知子も嫌い!

香織 : 泉ちゃん

知子 : 泉

泉 : 嫌い!大嫌い!友達じゃない!友達なんかじゃない!!
 

  【キーホルダーの鈴がポケットで鳴る。泉、キーホルダーを取り出し】
 

泉 : こんなもの…っ…!
 

  【キーホルダーを香織に投げつける。鈴が鳴る】
 

香織 : (いずみちゃん…)

知子 : (いずみ…)
 

  【泉、うずくまって叫ぶ】
 

泉 : 消えて…消えて…!消えて消えて消えて消えてえ!!!!!
 

  【間】

  【眩しい光が射しこむ】
 

優子 : …さん…!泉さん!

泉 : ん…

優子 : 大丈夫ですか?

泉 : なに…

優子 : 朝です。私たちあのまま、気を失っていたようで…

泉 : 知子…!こないで…!

優子 : 泉さん!優子です。昨日のこと、覚えてないんですか?

泉 : あなたこそ覚えてないの?知子があなたの体に…!

優子 : お姉ちゃんが…?

泉 : あれは知子だった…絶対知子だった…!

優子 : 私、香織ちゃんと目が合ってからのこと、何も覚えてなくて…

泉 : 香織は…!
 

  【泉、辺りを見回すが優子の他には誰もいない】
 

優子 : 誰もいません。…あれは、香織ちゃん本人だったんでしょうか

泉 : 香織だった…あの顔…それに、知子も…
 

  【間】
 

優子 : 自分で仕掛けておいてなんですが、正直あんなことになるなんて…

泉 : 私…

優子 : とりあえず、今日は帰りましょう。…立てますか
 

  【泉、立ち上がろうとするが】
 

泉 : …いたっ!

優子 : くじいたのかもしれませんね…誰か呼んできます

泉 : 待って!

優子 : はい…?
 

【間】
 

泉 : 私…香織に嫌いって…知子にも…二人とも、悲しそうな顔してた…

優子 : …

泉 : 私、なんてことしたんだろう…
  二人はずっとここで…ここに縛られていたのに…私だけ…

優子 : そう思うなら、償って下さい。お姉ちゃんのことは構いません。
   仕方なかった…って思ってますから。
   でも香織ちゃんのことは、防げたはずなんです。そしたらお姉ちゃんだって…

泉 : ごめんなさい…私は香織を…知子を…

優子 : 香織ちゃんは、泉さんを連れていくって言ってたけど、本当は、思い出して欲しかったんじゃないでしょうか。
  大好きだった泉さんに忘れられたのが辛くて、思い出して欲しくて…だから

泉 : 怖かったの…香織を死なせてしまったことも…それを知られたら知子に嫌われるんじゃないかってことも…
  だから知子からも逃げた…楽しかったことだけ思い出に残して、全部忘れた…死ぬ気で忘れた…
  そうじゃないと生きていけなかったの…ごめんなさい、ごめんなさい…!

優子 : 償いに関しては…あなたに任せます。私が今の話を口外することは、姉も望んでいないでしょう…
  だけどせめて、手を合わせてあげてください。今日は2人の命日なんですから…

 

  【泉、堪えるように静かに泣き出す】
 

優子 : …人を呼んできます、待っててください
 

  【優子、降りていく。眩しい朝日の中、泉はぼんやりと光を見つめているが、
   どんどん涙がこみ上げ、泣き続ける、ふと、鈴の音が鳴る】

 

泉 : キーホルダー…?
 

  【泉、当たりを見渡し、キーホルダーを探す。見つけると、
 階段の手すりによりかかりながら立ち上がり、ゆっくり階段を降り始める。
 キーホルダーを拾い、握りしめる】

 

泉 : 香織が私の為にくれたのに…それを…私…
  香織…ごめん、知子…ごめん、…ごめんね…ずっと、ずっと友達だよ…

 

  【大きく鈴が鳴る】
 

知子 : ―ズットトモダチナラ

香織 : ―コッチニ、オイデヨ
 

  【何かが、泉の背を押す】
 

泉 : あ
 

  【転がり落ちる音、そして鈴の音、香織と知子の笑い声がこだまする】



(劇終)

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