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tRiskEle(トリスケル)

作 : 揚巻

 

(♂1 : ♀2 )

♀トリス :
♂ゲイル :
♀エリー :

 

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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

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   【薄暗い地下の通路。重厚な扉の前で、男が端末にIDカードをかざす】

 

ゲイル:声紋認証。生命科学部門、第2研究室責任者、Dr.ゲイル

 

   【エラー音が鳴り響く。再び端末にカードをかざす】

 

ゲイル:…?…声紋認証。生命科学部門、第2研究室責任者、Dr.ゲイル!

 

 

   【再びエラー音】

 

ゲイル:…くそ…どうして開かないんだ…

 

 

   【ゲイルの背に女が声をかける】

 

トリス:何してるの?

ゲイル:…!

 

   【ゲイルはゆっくりと振り返る。白衣姿の女が数メートル後ろに立っていた】

 

ゲイル:…トリスか…

トリス:開かないわよ、そこ

ゲイル:は?

トリス:キーが変わったから

ゲイル:聞いてないぞ、どういうことだ

トリス:しばらくの間、凍結ですって

ゲイル:説明してくれ

トリス:いいけど、こんなとこうろついてたら怪しまれるわよ、…特にあなたは

ゲイル:…俺は潔白だ

トリス:わかってるわよ、私はあなたの味方よ?

ゲイル:…

トリス:…ね、テラスでコーヒーでも飲まない?

 

   【一面ガラス張りのカフェテラス。
    白衣姿の研究者と、私服姿の学生が往々に行き交う。
    日差しが降り注ぐ席で、トリスは背もたれに深く腰掛けコーヒを飲んでいる。
    ゲイルは目の前のコーヒーに手をつけず、前かがみにトリスを見つめている】

 

ゲイル:…

トリス:…コーヒー、冷めるわよ

ゲイル:ここは苦手だ

トリス:学生たちがうろついてるから?それがここのウリでしょ?

ゲイル:…知ってる奴は知ってるだろ…俺の

トリス:知ってるのは上の人間だけよ。アカデミーの教授連中も、学生も知るわけないわ。
    …それとも、知られたくない人でもいるのかしら

ゲイル:お前には関係ない

トリス:…そう。余計なお世話でしょうけど、あえて人目のあるところにいた方がいいわよ。
   後ろめたいことがないならね

ゲイル:俺は潔白だ

トリス:さっきも聞いたわ。…私はあなたを信じてる。私だけはね…

ゲイル:なぜ地下研究所を凍結する必要がある?

トリス:マスコミ対策よ。…極秘裏に処理したはずなのに嗅ぎ付けられたもんだから、
    内部からリークされてるんじゃないかって所長たちは戦々恐々よ…

ゲイル:だからって…

トリス:まあ、一時的なものじゃない?地下研究所を永久凍結なんてできないでしょ。
    使いたくて使いたくて札束握りしめて待ってる連中はごまんといるんだから。
    凍結解除までは第一研究室で新種の乳酸菌でも探せ、ですって……聞いてる?

ゲイル:なぜ、キーが使えなかった?

トリス:…ホントに聞いてた?

ゲイル:俺が聞いてるのは変える必要があるかってことだ

トリス:あるわよ。…地下研究所が使えなくなったわけじゃない。
    また副所長みたいに「私利私欲の為」に使う奴がいるかもしれないでしょ

ゲイル:…俺のことか?

トリス:あなたのこと、上層部はまだ疑ってるの

ゲイル:俺が…癒着していたと?

トリス:…

 

   【二人の元に女性徒が駆け寄ってくる】

 

エリー:ゲイル博士、こんにちは…!

 

   【ゲイル、エリーの姿に満面の笑みを浮かべる】

 

ゲイル:エリー…!やあ…!

エリー:トリス博士…!こ、こんにちは!

トリス:…どうも

ゲイル:授業はもう終わったのかい?

エリー:はい!…その、お二人の姿が見えたので来てしまいました、…あの、ご迷惑では…

ゲイル:迷惑なんてとんでもない!大歓迎だ!さ、ここにどうぞ

エリー:ありがとうございます…!

ゲイル:何にする?僕がごちそうするよ

エリー:いえそんな!私、注文してきますね!

ゲイル:そうか…、いっておいで

 

   【エリー、カウンターに注文しに行く。
    エリーの後姿を微笑んで見つめるゲイル】

 

トリス:随分ご機嫌ですこと

ゲイル:…なにがだ

トリス:私と話すときと全然違うのね。…嬉しそうにしちゃって

ゲイル:…関係ない

トリス:お邪魔なら失礼するわ

ゲイル:おい…!まだ話の途中だ

トリス:…なに?

ゲイル:…研究もストップか?

トリス:それはまた別の話

ゲイル:…どういうことだ?

トリス:上層部は更に段階を進めろって言ってるわ。
   …マウスじゃなく「ヒトの脳」に近い検体でね

ゲイル:…人間使えば早いだろうに

トリス:禁句よ、ゲイル

ゲイル:乳酸菌はフェイクか?

トリス:それは、あなたへの伝言

ゲイル:…はあ?

トリス:しばらく休めって。…まあ、仕方ないんじゃない?

ゲイル:…ふざけん…!

トリス:ゲイル、わきまえて

 

   【思わず腰をあげたゲイルは、再びゆっくり腰かける。
    数人の学生が一瞬こちらを見るが、すぐさま早足で去っていく】

 

ゲイル:なるほどな。で、…新しい責任者は、おまえか

トリス:ええ、そうよ、所長の決定。…私はなりたくもなかったけど

ゲイル:俺はお払い箱か?副所長はどうなった、他の連中は?

トリス:…知らないし、知らない方がいいと思ってるわ。探偵じゃないしね
    表向きはあなた以外、他の研究所に異動…ですって

ゲイル:凍結するだの、続けろだの、忙しいもんだな

トリス:そんなものよ。誰だって自分の利益になる研究なら実用化に向けて急かすのがエゴじゃないの?

ゲイル:人類の発展を考える我々研究者が、か?

トリス:人類の発展ね…限りなく安全であると判断が下された段階で、
    人類に実用される前に使う連中ばっかりでしょうに

ゲイル:お前もその一人だろ

トリス:ノーよ。悪いけど私は「人類の発展の為」にやってるわけじゃない、「仕事」としてやってるの

ゲイル:仕事だから、誰がどうなろうと目もくれないわけだ

トリス:…否定はしないわ

ゲイル:ご立派なもんだ

トリス:不老不死の夢…興味がないわけじゃない。
    だけど、自分そっくりのクローンを作ろうとしたり、
    顔や体をそっくり整形で作り替えることに興味はないわ…
    粘土細工じゃあるまいし

ゲイル:粘土の劣化は変えられない…結局のところはそこだ。
    個の精神をそのままに、別の肉体に成り代わる研究…
    重要なのは精神であって肉体ではない。
    スペアとしての肉体、不死の肉体ではなく、不死の魂…

トリス:…なんでそんなに入れ込むの

ゲイル:人類の発展の為

トリス:(鼻で笑う)本気?

ゲイル:ここらで一発勝負したかっただけさ。…いつまでも誰かさんの下は嫌でね

トリス:…どうして私、あなたからそんなに嫌われているの?私はあなたのこと…

ゲイル:やめてくれ

トリス:…

ゲイル:君が降りるという選択肢はないのか?

トリス:降りる理由がないわ

ゲイル:俺の為に…じゃダメなのか?

 

   【間】

 

トリス:…ずるい人

 

   【エリー、トレイにオレンジジュースをのせて戻ってくる】

 

エリー:お待たせしちゃってすみません…!オレンジがきれてたみたいで…

ゲイル:…いいんだよ。僕らのことは気にしないで

エリー:お気遣い、ありがとうございます!

トリス:…

ゲイル:体調、崩したりしてないかい?学会もあったし…だいぶ忙しくなってきただろう?大丈夫?

エリー:はい!体は元気です!むしろ…勉強したいことが多くて頭がパンクしそうです…!

ゲイル:それは大変だ、君のように向学心の高い女性は時間がいくらあっても足りないな

トリス:勉強したいこと、じゃなくて、勉強すべきこと、ではなくて?

ゲイル:おい

エリー:あ、はい、その通りです!私なんてまだまだダメで…

ゲイル:そんな悲観的にならないで、エリーが頑張っていること、僕はちゃんと見てるよ。もっと前向きにね

トリス:別の道を考えるのも、ひとつの前向きな生き方だと思うけど

ゲイル:おい!

エリー:私!今は全然ですが…、その、トリス博士みたいな研究者になりたいってずっと思ってます!

トリス:そう、ありがと

エリー:あ…嬉しい…です

ゲイル:トリスは研究者としては優秀だ、だけど君は、口の悪いところまで見習わないでくれ

トリス:ずいぶんね

ゲイル:違うか?将来有望な学生に、諦めろなんて言うのは十分口が悪い証拠だろ

トリス:諦めろなんて一言も言ってないけど

ゲイル:言ってるようなもんだ

エリー:あ…あの…

トリス:…失礼、もう行くわ。あとは2人でごゆっくり

 

   【トリス、席を立って二人に目もくれず歩き出す。エリー慌てて、トリスを追いかける】

 

エリー:…ト、トリス博士!

トリス:…なに

エリー:あの、…この前の…手のお怪我は…

トリス:ご覧の通りよ

エリー:あ、傷が残って…!

トリス:ご心配頂きどうも、傷のひとつやふたつどうでもいいわ…

 

   【トリス、行こうとする、エリー何かに気づく】

 

エリー:…あ!…博士!

トリス:まだなにか?

エリー:あの…白衣に髪が…

 

   【エリー、トリスの背中についていた髪の毛をそっと取る】

 

エリー:取れました…

トリス:どうも…、失礼

 

   【トリス、エリーには目もくれずまっすぐ歩き去る】

 

エリー:(呟く)トリス博士の…髪…

 

   【エリー、トリスの髪の毛を胸ポケットにさっと仕舞い、ゲイルの元に戻る】

 

ゲイル:…トリスに、何の用があったんだい?

エリー:…あ、いえ、なんでもありません

ゲイル:そう…?…エリー、さっきのは気にしなくていいからね

エリー:…え?

ゲイル:あいつはいつもああなんだ、嫌味な言い方ばかりで…

エリー:いいえ…トリス博士の仰る通りです。
    むしろ、ああやって応えて下さるだけでも私は恵まれてます。…光栄です。
    …私みたいな学生、本当ならトリス博士と話すことすらできないのに…
    ゲイル博士のおかげです、ありがとうございます。

ゲイル:僕は何も…むしろ僕の方が…

エリー:…なのに私ったら、頭がパンクしそうだなんて弱音はいちゃって

ゲイル:あんなもの弱音でもなんでもない、ジョークだ。それもわからないような、頭の堅い女だ

エリー:トリス博士は頭の堅い人なんかじゃありません!研究者として誇りを持った女性です!

ゲイル:(笑う)まったく君は…僕にしてみれば、君こそ信念を持った素敵な女性だよ

エリー:私なんてそんな…

ゲイル:魅力的な女性に素敵だというのはいけないことかい?

エリー:素敵な女性…

ゲイル:そうだよ。僕は、そんな君が…

エリー:私にとって素敵な女性は…、トリス博士です

ゲイル:え?

エリー:白衣のお姿は凛としていて、透き通ったお声で、深い湖のような瞳…
    …おそばにいるだけで胸が高鳴ってしまいます

ゲイル:…

エリー:私、見つめているだけで幸せなんです。…あまりご一緒できる機会はありませんが、
    だからこそ、同じ空間にいられる時は、トリス博士の全てを感じていたい…

ゲイル:…君は科学者のタマゴでありながら、詩人でもあるんだね

エリー:あ、変なこと言っちゃって、すみません…

ゲイル:そんなにトリスが好きかい

エリー:え!

ゲイル:…

エリー:あ、その…

 

   【エリー、トリスが行った方向を見つめながら】

 

エリー:好きです…

ゲイル:…!

エリー:…でも、内緒にしてくださいね?いつか一人前になれたら、その時…お伝えしたいので…

ゲイル:…そうか

エリー:はい!

 

   【間】

 

ゲイル:…エリー、何か困ったことはないかい?

エリー:困ったこと…?いえ、特にありません。先生たちも色々教えて下さいますし、
    こうしてゲイル博士も親身にして下さって…いつも感謝してます

ゲイル:君がそう思ってくれるなら嬉しいよ。
    …ここは君も知っての通り、アカデミーと研究所がひとつになっている。
    君たちを教える教授だけでなく、ラボで研究だけしているドクターもいる。…僕やトリスがそうだ。
    僕たちはあまり学生と接触する機会がないからね…
    僕が担当した特別講義で君と知り合えて…僕こそ嬉しいよ

エリー:もったいないです…!ありがとうございます。

    私、こんな恵まれた環境で勉強ができるなんて、本当に幸せです

ゲイル:僕はね、君の力になりたいんだ。…ああ、そろそろ学術論文の提出じゃないか?

    僕でよければ手直しするよ?

エリー:あ…、その…まだ書きあがってないので…

ゲイル:そうか、書きあがったら絶対見せて欲しいな

エリー:はあ…でも、ゲイル博士やトリス博士は特別な研究をされているとお聞きしました、
    先生方からもそのお邪魔をしてはいけないと…

ゲイル:それも凍結になったしな…

エリー:凍結…?

ゲイル:あ、いや…、結果が出るまでその、経過観察期間ていうのかな、それで時間ができたんだ

エリー:…!

ゲイル:だからっていうのはあれだけど、僕はいつでも君の力になれるよう尽力するよ

エリー:あ、ありがとうございます…

ゲイル:すっかり話し込んでしまったね。…もしよければこれからランチに行かないかい?

エリー:え、あ、その、…私もう行きます、またお話し聞かせて下さい!
    ありがとうございました!…あ、それと…

ゲイル:なんだい?

エリー:あんまり、トリス博士と喧嘩しないでくださいね…?
    私、穏やかで優しいゲイル博士が好きです。…失礼します!

ゲイル:エリー…!

 

   【ゲイル、走り去るエリーの後姿を立ったまま見つめる】

 

ゲイル:エリー…、僕の太陽…

 

   【間】

   【書庫、データを真剣に見入るトリス。そこにエリーが窺う様にやってくる】

 

エリー:トリス…博士…

 

   【トリス、ふと顔をあげ、エリーであることに気づくと露骨に眉を顰める】

 

トリス:…何かしら

エリー:あの、お忙しいのは重々承知しておりますが、…その…

トリス:ゲイルとランチ、行かなかったの?

エリー:パン買って食べました!

トリス:…そう、それで?

エリー:お、お忙しいのは重々承知しておりますが…

トリス:それはさっき聞いたわ

エリー:す、すみません!

トリス:前置きは結構。要件は簡略簡潔に

エリー:あ!わ、私の論文を見て頂けないでしょうか!

トリス:あなたの論文を見るのは私の仕事じゃないわ、教授の仕事よ

エリー:わかってます!でも、…どうしてもトリス博士に見て頂きたくて

トリス:修論ならまだしも、学生の学術論文なんて…
    夏休みの読書感想文みたいなもの、見るだけ時間の無駄。悪いけど忙しいの…

エリー:…!修論なら見て頂けますか!?

トリス:え?

エリー:わかりました!私、修士論文頑張ります!

トリス:…論文はゲイルに見て貰ったら?

エリー:あ…

トリス:ゲイルなら喜んで添削してくれるわよ?なんならゼロから書いてくれるかもね

エリー:ゲイル博士には、その…

トリス:見せられないの?

エリー:み、見せたくありません!

トリス:…ふうん、私みたいな小物にならいいけど、
    ゲイルみたいな大物には恐れ多くて頼めないのかしら?

エリー:…!違います!私は!

トリス:静かに、ここは書庫よ

エリー:あ…すみません……

 

   【トリス、俯くエリーを冷ややかな目で見つめていたが、
    エリーに体を寄せ、顔を近づける】

 

トリス:…ねえ

エリー:…!

トリス:…あなた、好きな人はいるの

エリー:え!

トリス:いるのね…顔にかいてる

エリー:あ…

トリス:私とそんな話をするのはお嫌?

エリー:そ、そんなこと、あ、あの、私…

トリス:アカデミーの学生?それとも、校外の人かしら?

 

   【エリー、俯いたまま呼吸を荒げていたが、ゆっくりと顔を上げる。
    上げた先にはトリスが無機質な目でエリーを見つめている。
    その光景を、エリーは硬直したように見とれている】

 

エリー:あ…

トリス:あなたは、誰が好きなの?名前が言えないなら、どんな人か教えて

エリー:わ、私がす、すきなのは…

トリス:ええ

エリー:…

トリス:…

エリー:い、言えません!

トリス:は?

エリー:私!まだ全然ダメで!未熟で!だから私、
    …ドクターに認めて貰えるような研究者になってからお伝えしたいんです!!

トリス:ドクター…あなたが好きなのは、ドクター…なのね?

エリー:あ、ああ…、私…これじゃあ伝えたのと同じ…!なにして…

トリス:もう結構よ

エリー:え…博士…

 

   【トリス、笑顔でエリーを見つめる】

 

トリス:あなたの気持ちはよくわかったわ。それじゃ

エリー:…それって……トリス博士…!

 

   【トリス、エリーを振り返らずその場を立ち去る。
    書庫のドアを閉め、扉に寄りかかり呟く】

 

トリス:ドクター…。Dr.ゲイルが好きなのね…!

 

   【間】

   【アカデミーとラボを挟む中庭。
    エリーはコルクをした試験管を空にかざしぼんやり眺めている。
    そこへゲイルがゆっくり近づいてくる】

 

エリー:(溜息)

ゲイル:溜息なんてついてどうしたいんだい

エリー:あ…ゲイル博士

 

   【エリー、持っていた試験管を慌ててしまう】

 

ゲイル:試験管?実験で行き詰まったりしたのかい?

エリー:いえ…

ゲイル:何かあった?良ければ相談してほしいな

エリー:いえ…その…

ゲイル:悩みがあるんだろう?

エリー:…

ゲイル:僕じゃ頼りない?

エリー:そんなこと!…ただ、ゲイル博士にお聞かせするようなことじゃなくて

ゲイル:まあ、言ってみてよ、僕は、君の力になりたいんだ

エリー:…

ゲイル:エリー?

エリー:さっき、トリス博士とお話しする機会に恵まれたんです

ゲイル:…トリスと?

エリー:詳しくは話せないんですが、…その、話の流れで私、こ、告白的なことをしてしまって

ゲイル:…

エリー:私、軽蔑されるかなって、思ったんですけど、その、トリス博士が…

ゲイル:…トリスはなんて?

エリー:『あなたの気持ちはよくわかったわ』って、笑顔で…

ゲイル:皮肉たっぷりに言われたんだろう、かわいそうに

エリー:…違います!私の目を見て言って下さったんです!…トリス博士に、初めて目を合わせて頂けた…!

ゲイル:そうか…

エリー:私、自分の気持ちを伝えるのは私が一人前になってからって決めてたのに…
    トリス博士に見つめられて、高揚してしまって…それで思わず…
    …トリス博士が私を見つめて微笑んで下さった…

ゲイル:…トリスは君を嫌っているよ、気付いているだろう?彼女の君に対する接し方で

エリー:…それは…

ゲイル:なぜかわかるかい?トリスは僕を愛してるからだ

エリー:ゲイル博士を…

ゲイル:そうさ、トリスは僕をずっと前から愛してる。報われない恋ってやつだ

エリー:報われない…?

ゲイル:僕は、君を愛しているから

エリー:…!

ゲイル:エリー、僕は君を初めて見た時から、君を愛している

エリー:…

ゲイル:トリスは僕が君を想っていることを知っている。
    だから君を嫌っているんだ。女の醜い嫉妬さ…

エリー:わ、私…

ゲイル:君を最初に見たのは、ここだったよ…。君は友達と笑いながら話していたな…
    僕はその頃、抱えていた研究に行き詰っていて…ずっと暗い研究室に閉じこもっていた…
    誰とも話さず、食事も寝るのも部屋の中…だけどあの日、資料を取りに部屋から出たんだ…
    廊下を歩いていたとき、ふと見下ろした中庭に君がいた。
    眩しい笑顔だった…ずっと冬だった僕の心に春がきたようだった…

エリー:ゲイル博士…

ゲイル:それから僕は君と話がしたくて、アカデミーの特別講師に立候補したり、その講義で君を指名したり、
    僕の変わりようにみんな驚いていたな…でもそんなことどうでも良かった。
    僕は、君と話したかったんだ…だから…!レストランで君が話しかけてくれた時は嬉しかったよ…!
    突然だったから、驚いてしまって…君の名前を呼べなくて…僕の方が学生みたいだ…!
    そしたら君は『私、エリーです!憶えてくださいね!博士!』って笑いかけてくれた…

エリー:…

ゲイル:…僕は、この想いを君が卒業するまで心に秘めておくつもりだった…
    だけど君がトリスを好きだなんて言うから…!

    僕の心は動揺して…今すぐにでも君にこの想いを伝えたくなった

エリー:ゲイル博士、私…

ゲイル:もう一度言う、エリー、僕は君を愛している

エリー:私…

ゲイル:…僕なら君を幸せにできる。この気持ちに応えて欲しい…

エリー:…ごめんなさい…!

 

   【エリー、立ち上がる。と、ポケットにあった試験管が芝生に落ちる。 それを拾うゲイル】

 

エリー:あ…!

ゲイル:…これは、試験管…?

エリー:…か、返してください…!!

 

   【エリー、ゲイルが持っていた試験管を奪い返す】

 

ゲイル:今のは、髪の毛…?

エリー:…

 

   【ゲイル、昼間にカフェテラスで見た光景を思い出す】

 

ゲイル:…トリスのか?…エリー…!

エリー:私は!…トリス博士を愛しています!

ゲイル:エリー…言っただろう?トリスは君のことなんて…

エリー:レストランこと、覚えてます!あの時、ゲイル博士はトリス博士と一緒にいらっしゃったから…

ゲイル:え…

エリー:すみません、その言葉はトリス博士に向かって言ってたんです、名前…覚えてもらいたくて…

ゲイル:…トリスに…

エリー:私が初めてトリス博士をお見掛けしたのも…ここでした。友達と一緒に…
    私たちの前をトリス博士が歩かれていて…素敵ね…!って二人で笑いあって…

ゲイル:…まさか…僕が見た君は…トリスを見ていた君だって言うのかい?

エリー:それからずっと、トリス博士を目で追うようになって…最初は憧れだったかもしれません…
    でもどんどんトリス博士は私の中で大きくなって…
    …私、トリス博士に好かれてないってことはわかってました!
    だからこそ、今日とっても嬉しかったんです。
    でも私は、報われることより、トリス博士を尊敬し敬愛し、こ…恋していたいと思ってます!

ゲイル:彼女が僕を愛していると知っても…?

エリー:それは…トリス博士のお気持ちですから…私は何も言う権利はありません…
    ゲイル博士は素敵な方です…優しくて…思いやりがあって…ご一緒していると安心できます…
    トリス博士がゲイル博士に惹かれるの…わかります…

ゲイル:エリー…!じゃあなぜ僕の気持ちに応えてくれないんだ…?

エリー:でも私…トリス博士に恋してるんです…あの瞳で見つめてもらいたい…あの声で呼んで頂きたい…
    変な奴だと思われるかもしれませんが、…それが私の正直な気持ちです

ゲイル:…

エリー:…ゲイル博士のお気持ち、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
    私…ゲイル博士も尊敬してます。こうしてお気遣い頂けるのもすごく嬉しいです…
    こんな私ですが…これからも、どうかよろしくお願いします…

 

   【エリー、立ち上がり駆けだそうとする、その手をゲイルが掴んで引き止める】

 

ゲイル:エリー!君は僕にとって太陽のような人なんだ、光がなければ僕は死んでしまう!
    …頼むから、僕だけの傍にいてくれ!そして微笑んで!どうか…僕を受け入れて…!!

エリー:…ごめんなさい…!…このお話は、聞かなかったことに…させて下さい…!

 

   【エリー、捕まれた手を振り払い、走り去る】

 

ゲイル:エリー!

エリー:…失礼します…!

 

   【駆けていくエリーの後ろ姿を呆然と見つめるゲイル】

 

ゲイル:光が…

 

   【ゲイル、崩れるようにベンチに座る】

 

ゲイル:トリス…いつも俺の邪魔をする

 

   【ゲイル、俯いたままエリーの言葉を思い出す】

 

エリー:(…ゲイル博士は素敵な方です…優しくて…思いやりがあって…ご一緒していると安心できます…)

ゲイル:エリー…

エリー:(トリス博士のお姿は…凛としていて…透き通ったお声で…深い湖のような瞳…)

ゲイル:…ああ…そうか…

 

   【しばらく茫然としていたゲイル。やがて顔をあげる】

 

ゲイル:トリス…君が欲しい…

 

   【間】

 

   【深夜のラボ、第1研究室。トリスが一心不乱にキーボードを叩いている】

 

トリス:はぁ…困ったわ…

 

   【トリスの背後から、ゲイルが音もなく近づき、声をかける。ゲイルは酒に酔っている】

 

ゲイル:…何が?

トリス:…!…ああ、もう驚かさないでよ

ゲイル:熱心だな

トリス:引継ぎが中途半端だったから、自分で穴埋めするしかないでしょ

ゲイル:…俺は無実だ

トリス:そうね、信じてるわ

ゲイル:本当か?

トリス:だからあなたをサポートに推したんでしょ

ゲイル:サポートか…俺の無実を信じてるならなぜそれを所長に提訴しないんだ?

トリス:私はあなたを信じているけど、所長たちは証拠がなければ信じないわ。
    癒着はなかったって証拠があるなら私も戦うわよ、だけど…

ゲイル:ご立派だ!さすがは、Dr.トリス!

トリス:…酔ってるのね

ゲイル:血中アルコール濃度0.1程度だ

トリス:…呆れた

ゲイル:新しい乳酸菌は見つかったか?俺の分も頼むよ、トリス…

トリス:(溜息)で、暇つぶしに私をからかいにきたの?

ゲイル:まさか…君に会いにきたんだよ

トリス:なにそれ

ゲイル:俺のこと、好きだろう?

 

   【ゲイル、トリスを後ろから抱きしめる】

 

トリス:…!ちょ…!

ゲイル:トリス…

トリス:…相手を間違えてるんじゃないの。あなたが抱きしめたいのはどっかの若い学生でしょ

ゲイル:つれないな…トリス、後ろからが気に障ったか?それなら…

 

   【ゲイル、椅子を引きトリスを正面に向かせて抱きすくめる】

 

トリス:あ…

ゲイル:これなら、俺は君を抱きしめているってことだろう

トリス:…

ゲイル:照れているのか?顔が赤い

トリス:やめてよ…

ゲイル:君のそんな表情、誰も知らないんだろうな…
    みんなが知っているのは、冷たい横顔と皮肉な笑み、突き刺すような…

トリス:やめて

ゲイル:今の君は俺しか知らない、君だ…

トリス:ゲイル…どうしたの?あなたは私なんかより…

ゲイル:…天才と言われている君でも、俺の嘘は見抜けないのかい?

トリス:うそ?

ゲイル:その顔もいいが、俺が一番見たかったのは…

トリス:…?

ゲイル:妬いてるときの君だ

トリス:冗談は嫌いよ

ゲイル:エリーが傍にいるときの君の表情は、たとえようもなく良かった

トリス:本当だとしたら、相当悪趣味ね…

ゲイル:そうそう、その顔だ…

トリス:やめて、ゲイル…からかわないで

ゲイル:責任者になったらプロポーズしたかった

トリス:え…

ゲイル:副所長は確かに政治家と癒着していたよ。…俺も知っていたんだ

トリス:ゲイル…!

ゲイル:俺は止めたんだ…。だが、トカゲの尻尾切りだったな…
    いつの間にか俺は製薬会社と通じてることになってた。嵌められたんだ…あいつらに

トリス:わかってるわ、信じてる。あなたの無実は私が証明するわ、心配しないで

ゲイル:ああ、トリス、君だけは俺の味方だ

トリス:ねえゲイル、本当なの?本当に私を…?

ゲイル:ああ

トリス:夢みたい……でも、ごめんなさい、どこまで本当か嘘かわからないの

ゲイル:じゃあ、こうすれば信じてくれる?

 

   【ゲイル、トリスに口づけする】

 

トリス:…んっ!

ゲイル:…どうだい?

トリス:ゲイル…

ゲイル:君に認められたくて、俺は空回ってばかりだ

トリス:認めるだなんて…私はずっと昔からあなたのことを…

ゲイル:すまかった、君のサポート、これから全力でやっていくよ

トリス:嬉しい…

ゲイル:俺も嬉しいよ、さあ、続きを…

トリス:仕事の?

ゲイル:仕事じゃない…わかってるだろう?

トリス:だめ。まだ途中だもの

ゲイル:こっちも途中だ

トリス:だめよ…仕事が終わったら…だから…

ゲイル:仕方ないな、俺も手伝うよ

トリス:…ありがとう

 

   【トリスとゲイル、体を離し、服を整える】

 

ゲイル:で、何に困っていたんだい?

トリス:ああ…、No.87Fのファイルがないのよ

ゲイル:87F?サーバに?

トリス:そう。1から作り直しなのかなって考えてたとこだったの

ゲイル:嫌がらせでわざと消していったのかもな

トリス:そう…

ゲイル:待てよ…もしかしたら、実験室にあるかもしれない

トリス:実験室って、地下研究所の実験室?

ゲイル:前に副所長が言ってたんだ…万が一のことを考えてデータをチップに入れて隠してる、ってさ
    そこなら自分しか入れないから…とか言ってたよ

トリス:データを持ち出すとか無茶苦茶だわ…でも、残ってるかしら…

ゲイル:まあ、確かめてみるだけ損はないと思う。…早く終わって楽しみたいしな

トリス:ばか

ゲイル:俺も一緒に行こう

トリス:わかったわ、行きましょう

   【研究施設最深部、扉の前、トリス、IDカードをかざす】

 

トリス:声紋認証。生命科学部門、第1研究室責任者、Dr.トリス

 

   【電子音が鳴り、ロックがはずれる。トリス、中に入っていくが、
    ゲイルは立ったままぼんやりしている】

 

トリス:ゲイル?どうしたの?

ゲイル:…ああ…、行こう…

 

   【別の扉の前に立つ二人】

 

トリス:声紋認証。生命科学部門、第1研究室責任者、Dr.トリス

ゲイル:厳重だな…これでいくつめだ?

トリス:8つ目よ…もうすぐ最深部…、なんだか…光の質が違うような気がするわ、
    淀んでいるみたい。不気味というか、もう帰れないような気分になる…

ゲイル:気のせいだよ…科学者のくせに、おかしなことを言う

トリス:わかってるわよ、ただなんとなく…ううんいいわ、大丈夫よ、あなたがいるんだし

ゲイル:そうさ、俺がいる、俺がいるさ…

 

   【二人は更に下へ降りていく】

 

トリス:これが最後のロックね。…声紋認証。生命科学部門、第1研究室責任者、Dr.トリス

 

   【電子音が鳴り、ロックがはずれる。地下研究所最深部、最終実験室】

 

トリス:着いたわ

ゲイル:警備が厳重だな、ここまでくるのに何度ロックを解除したことか

トリス:これが悪用されたら大変ですもの

ゲイル:俺もここまで来たことはなかった

トリス:ここまで来られるのは所長と副所長だけだだったから。私も一度来たきりよ

ゲイル:前に来たことがあるのか?

トリス:ええ、数か月前にね。…あまり長居したくない。早く探しましょ

 

   【トリス、研究室の中を見てまわる。
    ゲイルは動かず、トリスの背中をじっと見つめている】

 

ゲイル:…君は、なるべくして責任者になったのかもしれないな。流石は天才科学者だ

トリス:やめて。…私はここ、好きじゃないわ…触れてはならないタブーのようで

ゲイル:ああそうだ、ここは神の領域だな

トリス:神?非科学的ね

ゲイル:そうだろう、ここで魂の入れ替えをするんだ。魂の概念を我々は可視化、数値化すらできないというのに

トリス:そして、その科学とも非科学ともわからない代物に、人はこぞって群がる…つまらない欲望の為にね

ゲイル:じゃあ、どんな目的でならいいんだ

トリス:それは…。…もう、いいじゃない?ファイルを見つけて、早く戻りましょう?

ゲイル:そんなに俺に抱かれたいのか?天才科学者もやっぱりただの女だな

トリス:ゲイル…?

ゲイル:悪いがどんな言い訳もしょせん言い訳だ。人類の発展のため?
    いいや、これはそんなことには決して使われない。
    俺たちは結局、人類のエゴの為に日々研究を重ねているのさ

トリス:ゲイル、どうしたの?何か変よ

ゲイル:…

トリス:あなた…、私を愛してるのよね?
    …だったらお願い、あの子とももう話さないで

ゲイル:エリーか?

トリス:ええ、…あの子、あなたを好きみたいだから

ゲイル:エリーが?俺を…?

トリス:あなたにドクターとして認めて貰えるようになったら気持ちを告げたいって

ゲイル:…

トリス:昼間、アカデミーの学術論文を持ってきたわ、私に見て貰いたいって

ゲイル:学術…論文?

トリス:…嫌な子。見下された気分よ…なんで私が学生の論文なんか…

ゲイル:論文、書き上げていた、のか…

トリス:あなたに見せるのが恥ずかしかったのね、どうせ大した出来でもないくせに

ゲイル:…

トリス:…ゲイル?どうしたの?ひどい顔色。悪酔いした?

ゲイル:エリー…

トリス:え?

ゲイル:エリー…ああ、エリー…!

トリス:…!…ゲイル、それも私を妬かせるための演技?…それとも本気の反応かしら

ゲイル:……だろ…

トリス:なに?

ゲイル:本気に決まってるだろ!!

トリス:…!

ゲイル:くそ…!くそお!!なんでトリスなんだ!!なんで俺じゃないんだ!!!エリー…!エリー!!

トリス:ゲイル…

ゲイル:トリスの何がいいんだ!こんな高慢で冷徹な女の、何がいいんだ…!

トリス:ひどい…何もかも嘘だったの?

ゲイル:ああ、ぜーんぶ嘘だよ!

トリス:プロポーズするつもりだったって…

ゲイル:…ああ、それは嘘じゃないさ…責任者になったらプロポーズするつもりだった…エリーにね…

トリス:ゲイル…!

ゲイル:ついでに言えば、87Fのファイルを消したのは俺だ…ここにくるためにな、
    無論、チップなんてハナからない

トリス:ここに…?

ゲイル:俺じゃロックは解除できない…お前のIDと声が必要だったからだ!

トリス:そのために、私を抱きしめてキスしたの!?

ゲイル:開けろと言われて開ける女じゃないだろ?

トリス:ここに来たところで何ができるわけでもないでしょう!?

ゲイル:俺はここに来たかっただけだ

トリス:何が目的なの

ゲイル:…俺はエリーが欲しい。
    …ああ、いや違うな、俺が欲しいのは、エリーの全てと、…お前の体だ

トリス:私の…意味がわからない。私の体?私の体をどうしたいの?

ゲイル:…もういいんだ、ここにこれたらもういい、さあ…始めようか

トリス:始めるってまさか…

ゲイル:こいつを動かすのさ

トリス:何言ってるの?動物実験ですら安全性が証明されていないのよ!

ゲイル:人間に近い検体で実験しろって指示なんだろう?俺たちで試してみていいじゃないか

トリス:ふざけないで!これは遊びじゃない!私と心中する気!?

ゲイル:(笑う)お前と心中なんて冗談じゃない、俺はエリーの元へ帰るんだ。そしてエリーと愛し合う…

トリス:ゲイル…!くっ…!

 

   【トリス、白衣のポケットから携帯用の医療メスを取り出す】

 

トリス:あなたを殺して私も死ぬ…!

ゲイル:そんなもん持ち歩いてるのか?…嫉妬に狂った女は怖いねえ

トリス:私は本気よ!

ゲイル:死ぬんならその体を俺にくれよ。死ぬ気があるなら最後に実験付き合ってくれよ!
    だって死ぬんだろ?だったら一緒じゃないか

トリス:実験が成功する確率はゼロに近い…仮に成功しても私達の体は入れ替わってしまうのよ?
    それであの娘と愛し合う気?私の体で?考えたくもない!

ゲイル:おまえは何もわからなくていい。知らない方がいいんだ

トリス:ゲイル…愛しているの…ずっと前から今まで…ずっと、あなたのことを…
    地位も名誉もいらない…あなたが私を愛してくれるなら何もかも捨てる…!
    だからお願い…私を見て…ゲイル…!

ゲイル:地位も名誉も、欲しくない…お前も…だが仕方ないんだ、本当に欲しいものを手に入れる為だ…
    憎ったらしい女の体でも…我慢するさ…

トリス:…!う…ううっ!…あああああ!

 

   【トリス、ゲイルに向かってメスを構えて突進するがゲイルに手を掴まれてしまう】

 

トリス:く、くっ…!!

ゲイル:…だめだよ、中心を狙わないと。なんだかんだ言ってもやっぱり優しいんだな。
    冷静で無欲で、完璧な科学者でも、俺の前ではそうなりきれない…馬鹿な女。
    お前に俺は殺せないよ…さあ、こんなものしまって…

 

   【ゲイル、トリスの手からメスを奪い、白衣のポケットに仕舞う】

 

トリス:ゲイルっ…!

ゲイル:さあ、実験を始めよう。俺たちは研究者の鏡だ。自身を検体に使うなんて、素晴らしい

トリス:これが動けば…制御室がすぐに感知するわ!実験が失敗して私たち二人が死ねばそれまで。
    だけど、何も起きずこのままだったとしても、これを独断で使ったとなれば厳罰は免れないのよ!

ゲイル:そうなったらそうなっただ。今の俺に失うものは何もない

トリス:ゲイル、どういう意味…

ゲイル:いいんだ、おまえは何も知らなくて…さあ、おとなしく

 

   【ゲイル、ポケットから注射器を取り出す】

 

トリス:…何を…!

ゲイル:仮死状態にならなきゃ、これは使えないだろ?さあ…

トリス:ゲイル!…やめて…!

 

   【ゲイル、トリスに注射しようともみ合いになる】

 

トリス:いやっ…!

 

   【ゲイル、注射器を床に落としてしまう】

 

ゲイル:…ああ、なんてこった2本しかないのに…仕方ないなっ…!

 

   【ゲイル、大きな手でトリスの首を絞め上げる】

 

トリス:ゲ…イル…っああ…

ゲイル:…さあ、まずは10秒だ…まだ意識ははっきりしているね?これは加減が難しいところだからね、
    意識が飛んだ時点でやめないといけないから…見極めが難しいな…

トリス:あ…ああ…あ…!!

ゲイル:死んだ肉体でも精神の交換は可能なんだろうか、

    それともやはり肉体が生命維持を停止すると精神も消滅するんだろうか、
    いや、あるいは魂か…このあたりも実験してみたいところだけど、今回は見送りだね

トリス:あ…(呼吸を荒げていく)

ゲイル:…ああ、そうだ、ひとつ訂正しておいてくれないか?俺は一言も君に愛していると言った覚えはない。
    それはしっかり覚えていてほしい。俺は君に好意を抱いたことなどただの一度もない…!

トリス:(荒い呼吸が静かになる)

ゲイル:よし…

 

   【ゲイル、トリスの首から手を離す】

 

ゲイル:うん…まだ心臓は動いている。さあ、急がないと、死んだらぱあだ…

 

   【ゲイル、実験機の台座にトリスを寝かせる。
    自分ももう一つの台座に横たわり、ポケットから注射を取り出して自ら打つ】

 

ゲイル:…この薬で俺もすぐ仮死状態になる、その瞬間このスイッチを押せば…

 

   【ゲイル、徐々に瞼を閉じる】

 

ゲイル:待っててくれ、エリー、すぐに…きみ…のそば……へ……

 

   【ゲイル、次の瞬間スイッチを押す。
    大きな機械音が鳴り、辺りを眩い光が包み込む】

 

 

 

   【間】

 

   【扉の前、心持ち前屈みになったトリスが立っている】

 

トリス:…声紋認証。生命科学部門、第1研究室責任者、Dr.トリス

 

   【電子音が鳴り、ロックがはずれる】

 

トリス:くっくっくっ…あっはっはっははは!

 

   【間】

   【研究所最上階、壁一面ガラス張りの部屋。
    窓の外を眺めているトリス。首にはスカーフを巻いている。
    しばらくしてエリーがやってくる】

 

エリー:あ…お待たせしました…!

トリス:…

エリー:あの、遅くなって申し訳ありません!

    まさか、トリス博士からメッセージを頂けるなんて思ってもいなくて…

トリス:…

エリー:あ、あの…

トリス:もっとこっちに来て

エリー:はい!し、失礼します!!

 

   【エリー、そろそろとトリスに近づく窓の外に広がる景色に思わず感嘆の声をあげる】

 

エリー:あ…綺麗…!

トリス:ええ

エリー:ここ、構内で一番高い場所にありますよね…私たち学生は入れないから、
    ずっとここにくるの憧れてました…その、トリス博士とこうして一緒に景色を見られて、嬉しい…です

トリス:エリー

エリー:…!あ、え…?私の…名前を…!

トリス:エリー

エリー:は、はい!!

トリス:愛してる

エリー:…!

トリス:愛してる、エリー

エリー:わ、わたしを…

トリス:そう、君を愛してる

エリー:は、博士…

 

 

   【エリー、トリスを見惚れる様に見つめるが、ふいに】

 

エリー:…?

 

   【エリー、顔色を変え、一歩下がる】

 

トリス:どうしたの?エリー?

エリー:…誰?

トリス:…どうしたの?

エリー:誰…ですか…

 

   【トリス、窓ガラスに映った自分の姿を確認する】

 

トリス:どこからどう見ても私でしょ

エリー:違う…トリス博士じゃない

トリス:え?

エリー:誰…?

トリス:私よ、トリスよ。さあエリーおいで。抱きしめさせて…

エリー:違う!トリス博士じゃない!!

 

   【エリー、トリスから後ろずさる】

 

トリス:エリー

エリー:…

 

   【エリー、警戒心をむき出しにした目でトリスを見つめる】

 

トリス:…ふふ、参ったな…君はやっぱり、素敵な女性だ

エリー:…な…に…?

トリス:僕としたことが、君が将来有望な研究者だということを失念していた。

    もっとしっかりトリスになるべきだったね

エリー:…ゲイル…博士…?

トリス:エリー…

エリー:ゲイル博士ですか?なんなんですかこれは…

トリス:…

エリー:整形…したんですか?

 

   【間】

 

トリス:…ああ、そうだよ

エリー:たった…一晩で?

トリス:簡単なことだよ。ここをどこだと思ってるんだい?

エリー:そんなことが可能なんですか?そっくりそのまま同じだなんて…!

トリス:信じて、エリー…

エリー:でも、どうして…!

トリス:君に愛されたくて

エリー:…え

トリス:正直、見てくれなんてどうでもいいんだ、君に愛されれば…君が微笑んでくれれば…

エリー:…

トリス:さあエリー、おいで、髪をなでてあげるよ、そしてこの手で君を抱きしめてあげよう…

エリー:…いや、です

トリス:…エリー?

エリー:あなたはトリス博士じゃない。ゲイル博士です。見た目がトリス博士と同じでも…トリス博士じゃない…

トリス:大丈夫…すぐ慣れるよ…さあ、おいで…手を…

エリー:…いや!

 

   【エリー、更に身を引くが】

 

エリー:…あ…!!

 

   【エリー、何かに気付いて自分に伸ばされたトリスの手に触れる】

 

トリス:…ああ、初めて僕に触れてくれたね…エリー

エリー:…どうして

トリス:ん?

エリー:こんな傷までコピーしたんですか…?

トリス:傷?

エリー:その手の傷です…!先月、特別講義の実験で、学生がミスしてビーカーが…
   その時、トリス博士が学生をかばって…手に怪我を…

トリス:そうなのかい?

エリー:…2週間、手に包帯をされていたじゃないですか!
    …いつもそばにいるのにそんなことも知らなかったんですか?

トリス:エリー、トリスの話はもうやめよう、今は僕たちの…

エリー:ひどい…!怪我の心配どころか、怪我したことすら気付かないなんて!最っ低!!!
    …なんでこんな奴のことをトリス博士は…博士は…!

トリス:ねえ、エリー、…エリー

エリー:申し訳ありませんが、あなたがどんな姿になっても好きになることはありません!
    私が愛しているのはトリス博士です!見た目が同じでもあなたに興味なんてない!!
    …正直、トリス博士のコピーなんて…逆に気持ち悪い…!

トリス:じゃあ、コピーじゃなかったらいいんだね?

エリー:…え?

トリス:僕とトリスが何の研究をしていたのか、教えてあげるよ。それはね、不老不死の研究なんだ

エリー:…不老不死?

トリス:正確に言うと不老不死ではなく、肉体に精神を入れ替える実験…だね

エリー:…?

トリス:肉体は老いる。でももし、老いた体を若い体に変えることができたら…

    それは不死と同じだと思わないかい?

エリー:…

トリス:まだ動物実験の段階だったけどね、昨日ついに、人体で成功したんだよ…

 

   【間】

 

エリー:…まさか

トリス:コピーだったら、こんな傷までやらないさ…

エリー:あ…ああ…

トリス:これは

エリー:いや…いや…

トリス:トリスの体だ

エリー:いやあああああああああああああああああ!!!

トリス:君の愛するトリスの体だ

エリー:うそ…うそですよね?冗談ですよね?私をからかっていらっしゃるんですよね?トリス博士!?

トリス:言うか言うまいか迷ったけど、偽物じゃダメなんだろう?だからちゃんと言うよ。
    これは正真正銘トリスの体だ。さあ、抱きしめて…エリー

エリー:戻してください!!トリス博士の体にトリス博士の心を!!戻してください!!

トリス:中身なんてどうでもいいだろう?君が好きだったトリスの体だよ?
    凛としていて…透き通った声で…深い湖のような瞳だ
    君だってトリスの髪の毛を大事そうにしていたじゃないか…!いくらでもあげるよ?さあ…

エリー:お願いです!!トリス博士の体から出て行って!!

    いや!いや!気持ち悪い!!返して!トリス博士を返して!!

トリス:どうして…そんな目で見るんだい?君がトリスを見る時の目は、もっと恍惚として、夢を見ているように…

エリー:いやいやいやいやいやいやっ!!!お願いです!トリス博士を返してください…!

トリス:エリー…

エリー:元の体に戻って下さるなら…私、何でもします!

    …ゲイル博士と付き合えばいいですか?そしたら許してくれますか?!

トリス:エ…リー

エリー:わかりました!結婚します!子供生みます!!奴隷になります!!

    だから…!トリス博士をトリス博士に戻して下さい…!
    トリス博士はこの世にたった一人なんです…!

    私の、たった一人の人なんです…お願いです…!お願いします……!!

 

   【エリー、トリスの足にしがみつき泣きながら懇願する。トリスは呆然と宙を見つめている】

 

トリス:…なんでだよ…君の為にやったのに…君がトリスを好きじゃなきゃ…

    こんな女の体になんてなりたくなかった…
    ただ君に、見つめてもらいたかっただけなんだ…

 

   【トリス、ポケットに入っているメスに気付く】

 

トリス:…ああ、ちょうどいい、これで死のう…

    この体になってもなお、君に笑いかけてもらえないなら…いっそ…

エリー:…!やめて!!!

 

   【エリー、トリスが持っていたメスを握りしめる】

 

トリス:…っ!エリー!メスから手を離すんだ!離しなさい!手が…!

エリー:トリス博士の体を傷つけないで!!死にたいなら元の体に戻ってから死んで!!!

トリス:エリー…

エリー:トリス博士の体を傷つけたら許さない…!

 

   【メスを握りしめたまま、エリーはトリスを睨む】

 

トリス:…ごめんね、エリー、無理なんだ…

エリー:無理…?

トリス:ほら、ご覧…?

 

   【トリス、片方の手で首元のスカーフをはずす】

 

エリー:…!あ、ああ、ああああ…

トリス:肉体の入れ替えはね、限りなく死の状態に近い…仮死状態で行われるんだ…
    僕はね、こんなに痕が残る位彼女の首を絞めたんだ。元にはもう戻れないと思うよ。
    蘇生措置も行っていない…トリスは死んだんだ、僕の中で…

エリー:…うううう!

トリス:トリスの心はもうない…残ったのはこの体だけだ。だから…ね、僕を愛して、エリー

エリー:くっ…!…ひどい!ひどすぎる!!ひとでなし!!嫌い!!!大っ嫌い!!!!

トリス:嫌い…?昨日、好きだって言ってくれたじゃないか…!

    君はいつも僕に声をかけてくれたじゃないか…!笑顔で…

エリー:私はアンタに笑ってたんじゃない!トリス博士を見てたのよ!

    アンタのことなんてこれっぽっちも見てない!!

トリス:エリー…

エリー:邪魔…いつだってアンタが邪魔する…!

    私はトリス博士と一緒にいたいのに、昨日だってアンタが余計な事言わなきゃ
    トリス博士はもっと一緒にいてくださったのに…!邪魔…!邪魔なのよ!!!!

トリス:邪魔…

エリー:私はずっとアンタが憎かった!!

    私がアンタを慕っていたのはいつもトリス博士がアンタと一緒にいたから…!それだけよ!!
    アンタに嫌われたらトリス博士にもっと嫌われる…会えるチャンスがなくなる…

    でも、アンタがいれば、トリス博士に会える…
    それだけ!私にとってアンタはその程度の存在なの!

    なのに…アンタはいっつも博士を怒らせる…アンタが消えればいいのに…
    そもそもアンタが私にベタベタしなきゃトリス博士に嫌われることもなかったのに…!

    邪魔…邪魔!邪魔!邪魔!!邪魔なのよ!!
    ああ…こんなことになるくらいならこんな奴利用しなきゃ良かった…トリス博士…博士ぇ…

 

   【エリー、トリスのスカーフを握りしめたまま床に泣き崩れる】

 

トリス:僕が…邪魔…だった?嫌い…だった?

エリー:そうよ邪魔よ!!アンタなんて大っ嫌い!!!!!

 

   【部屋に人が入ってくる】

 

ゲイル:そうよね…嫌いよね、トリス博士なんて大っ嫌いよ…ね?

トリス:まさか…

 

   【ゲイルが立っている】

 

エリー:ゲイル…博士?

ゲイル:そうよ、私はゲイル…あなたの好きな…Dr.ゲイルよ…

エリー:違う…!トリス博士…!

 

   【立ち上がり、行こうとするエリーの腕をトリスが掴む】

 

トリス:だめだエリー、あれはゲイルだ、僕が…、私がトリスよ!

エリー:離して…!離してっ…!

ゲイル:いらっしゃい、エリー、そんなおばさん振り払って…さあ、こっちへ…

エリー:あの目…やっぱり、トリス博士…!っ…!

 

   【エリー、トリスを振り払いゲイルに駆け寄り抱き着く】

 

トリス:エリー…!

エリー:博士…!博士…!ご無事で、良かった…

ゲイル:ありがとう…、エリー…

エリー:ああ、私の名前を…嬉しい…!

トリス:なぜここに…この声とIDがなければ外へは…

ゲイル:なぜ…?…きっと高慢で冷徹な誰かさんはゲイル博士も開錠できるように
    していたんじゃないかしら…ただ喜んでもらいたくて…本当に馬鹿な女…!

トリス:…僕にも開けられた…?昼間は開かなかったのに…
    …その後か?…ああ…それがわかっていたらおまえを抱きしめる必要もなかったのに…

ゲイル:必要もなかった…?

トリス:…

ゲイル:あなたって人は…どこまでも私の心を引き裂くのね…!いいわ…!あなたの心も引き裂いてあげる…!

トリス:…!エリー…!エリー離れろ!!

ゲイル:エリー、君が愛しているのは、僕かい?

エリー:…はい!愛してます!愛してます!!…私、わかったんです…!あなたの心こそ全てだって…!
    見てくれじゃなくて、あなたのお心を愛しています…!あんな奴…あなたをこんな目に遭わせて…
    あいつが…憎い…!でも…あなたがこうしてここにいて下さるなら私…!

ゲイル:そう…憎いのね…あなた…私の為なら何でもする…?

エリー:博士のためなら…なんでもします!この命を賭けて…!

トリス:…エリー!だめだ!

ゲイル:じゃあ、あなたが握りしめているスカーフ、頂けるかしら?

エリー:はい…!

 

   【エリー、手に持っていたスカーフをゲイルに渡す】

 

ゲイル:ありがと、これで…

 

   【ゲイル、エリーの首をスカーフで締め上げる】

 

ゲイル:…愛する私が殺してあげる

エリー:あ…あ…!

トリス:やめろ!!やめろトリス!!!エリーを離せ…!

 

   【トリス、ゲイルを止めようと飛びつくが、片腕で振り払われて床に叩きつけられる】

 

トリス:ぐはっ…!あ…!

ゲイル:あら、ごめんなさい。そういえば私、今、男だったわね…

トリス:や、めろ…

 

   【トリス、床に倒れたまま動けない】

 

ゲイル:脳震盪かしら?ちょうどいいわ、黙って見てなさいよ、愛する女が殺されるところ

トリス:あ…ああ……

エリー:っ…ぐ……あ…ふ…ふふ

ゲイル:笑ってるの?おかしな女ね

エリー:と…いす…

ゲイル:…愛する男に絞め殺される気分はどう…?

    私もさっき味わった絶望…アンタもしっかりと味わうといいわ…!

エリー:あ…い…し……てあ……す……

   【ゲイルに向かって伸びていたエリーの手が床に落ちる】

 

トリス:あ…ああ…あああああ…

ゲイル:これでようやくおとなしくなった…。ホント、いつもいつもウルサイのよ…こいつ…

トリス:き、さま…エリーを…貴様…

ゲイル:あなたが殺したのよ、あなたの、この手で…

トリス:エリー…ああ、エリー…ああ…あああ…

ゲイル:終わったわ…これで全部おしまい…

 

   【ゲイル、ゆっくりと窓辺に向かう。窓ガラスに映った自分の姿を見つめる】

 

ゲイル:ふふ…ゲイル、あなたの姿がガラスに映ってるわ…
    こうしていると、あなたと見つめ合ってるみたい。
    …私…ずっと前からこうしたかった(トリスの声と被さる)

トリス:ーーーーーーーーーこうしたかったのよ…?
    だけどあなたはいつだって俯いたまま研究ばかり。
    ようやく顔を上げてくれたかと思ったら…今度はあの子…
    私を見てくれることなんて1度もなかった

ゲイル:エリー…エリー…目を覚まして…エリー

トリス:ガラス越しに微笑めばいいのに…笑えない…
    あなたの心と同じように悲しい顔しかできない…、ゲイル、笑って…
    あの子に笑いかける様に、私に微笑んでよ…ゲイル…

 

   【ゲイル、返事をすることもなく、ただ泣き続けている】

 

トリス:…私…そろそろ行くわ

ゲイル:…行く?

トリス:私がこの世で一番愛してるもの、貰っていくわね

ゲイル:トリス…俺の体で何をする気だ?

トリス:もう要らないんでしょう?あなたは私の体が欲しかった。だから私を殺してでも奪った。
    だからあげる。代わりに、この体を頂戴ね

ゲイル:トリス…!

トリス:最期の懺悔と忠告をするわね。まずは懺悔。製薬会社と癒着していたのは私、あなた名義でね…
    マスコミにリークしたのも私よ。疑いの目があなたにいくように…

ゲイル:…おまえが…!

トリス:責任者になったのも、私から志願したわ…地に落ちたあなたを、私の力で助けて…
    私に二度と逆らえないようにしてやりたかったの、

    ついでにあの娘の前で無様な姿を晒してやりたかった…ごめんなさいね?

ゲイル:…トリス…くそっ…くそおおおっ!

トリス:そして、忠告。もうすぐここに所長や警察がやってくるわ。地下研究所を無断使用した件と、
    それを人体で行った倫理違反。そして更に罪は増すわ。アカデミーの生徒を絞殺した殺人容疑…。
    言い逃れはできないわよ、そのスカーフが証拠…あなたはもちろん、全てを失う…もしかしたら、
    ゲイル博士殺害の容疑もかかるかも…現場を見られて口封じにここから突き落として…ふふふ…
    嫉妬に狂った女は何をするかわからないものね…『トリス博士』…ふふ…ふふふ…

ゲイル:…待て…待て!!トリス…!

トリス:…さよならゲイル、愛してるわ

 

   【ゲイル、窓ガラスに体当たりする、ガラスが割れ、ゲイルの体は窓の外に出た瞬間、下へと消える
    鈍い音、窓から風が流れ込んでくる】

 

ゲイル:あああああああああああああああああああああああ!

 

   【ゲイルの絶叫がこだまする】

 

(劇終)
 

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