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バツが欲しくて

作 : 揚巻

 

(♂1 : ♀1 )

ユリ♀:バツ1になりたい女
春樹♂:バツ1の男


 

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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

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【バーのカウンター。お酒を飲むユリと春樹】

 

ユリ:ねえ

春樹:ん?

ユリ:私と結婚して離婚して

 

【間】

 

春樹:はあ?

ユリ:だから、私と結婚して離婚してくれない?

春樹:え、なんなの

ユリ:結婚して離婚して欲しいの!

春樹:うん、待って、…どしたの、急に

ユリ:バツ1になりたい…

春樹:バツ1…

ユリ:なりたい!

春樹:あえて?

ユリ:うん

 

【春樹、ユリが飲んでいるグラスを確認する】

 

春樹:これ、度数高かったか…?

ユリ:酔ってない

春樹:いや、明らかに酔ってますけど

ユリ:私は本気よ!結婚して離婚しろ!

春樹:わかった落ち着こう、なんでそうなった?

ユリ:…センセイ、私もう、つらいんです…

春樹:センセイ?

ユリ:私の話を聞いてください、センセイ…

春樹:ああ…カウンセラーか。…コホン、いいとも、さあ、気持ちを楽にして~

ユリ:私、新古車はもういやなんです…

春樹:ふふっ

ユリ:ちょ、笑わないでよ!

春樹:いや、ごめんごめん

ユリ:むーーー!

春樹:悪かったって、続けて

ユリ:普通さ、四十(しじゅう)手前で独身とかならさ、バツがあったりするのが普通っていうかさ、

   人生いろいろあったんだなってあるじゃん。私はこの歳になるまで独身でさ、

   車で言うなら新古車よ。誰も乗ったことないけど中古車扱い。だからいっそ!中古車になりたわけ!

春樹:中古車って…バツ1の俺に対する当てつけか?

ユリ:ミステリアスなオンナになりたい

春樹:みすてりあす

ユリ:影があるっていうかさ…?…マリとかユミコもそうだし

春樹:あ、マリ元気?…ユミコともだいぶ会ってないなあ

ユリ:元気。たまに3人で飲んでるよ。で、やっぱ独身は楽よねえ、って話したりするわけよ、

   そしたらさ、私だけ、完全独身なわけじゃん。コンプリートシングル。

春樹:なにその単語

ユリ:「完全独身」で翻訳したら出た

春樹:どんだけ暇なんだよ

ユリ:どうせ!デートする相手もいませんよ!!

春樹:で、俺に結婚して離婚しろ、と

ユリ:そう!

春樹:…でも俺、次離婚したらバツ2になるんだけど

ユリ:いいじゃん、ハクがつく

春樹:つくか?!

ユリ:つくつく。かっこいい!

春樹:かっこいいかあ?難有りの男にしか見られないような…

ユリ:大丈夫だよ、モテるって

春樹:…バツ1の女がミステリアスで、バツ2の男にハクがあるってさ、…何の本読んだの?それとも映画?

ユリ:もーういいから!とにかく!結婚して離婚したい!バツがほしい!

春樹:わかった。で、ちなみにどれくらいで離婚すんの

ユリ:ん~、3日くらい?

春樹:みじかっ

ユリ:だって春樹の時間を無駄に使わせるのも悪いじゃない?

春樹:俺の戸籍にバツ増やす方がよっぽどだと思うけど

ユリ:だから3日

春樹:じゃあさ、結婚した後で、俺が離婚したくないって言いだしたらどうすんの

ユリ:え、言うの?

春樹:バツ2を回避するために言うかもしれないだろ

ユリ:じゃあね、契約書を書こう

春樹:…なるほど、婚前契約ってやつか…「但し婚姻期間は3日とする」みたいな?

ユリ:ねえねえ、それって甲とか乙とか書くんだよね、春樹どっちがいい?

春樹:どっちでもいいよ

ユリ:じゃあ私、乙ー!

春樹:はいはい

ユリ:あ、「慰謝料は請求しません」っていうのもね。お金が絡むと厄介だから!

春樹:まあそうだな、別に金は欲しくないし

ユリ:よし!いいね!

春樹:でもさ、周りにはなんていうの

ユリ:3日で離婚するから結婚した報告とかいらないでしょ

春樹:いや、3日で離婚した理由

ユリ:ん?

春樹:聞かれるだろ、なんで?ってさ。

   バツが欲しかったから!なんて言ったらアイツらにボコられるぞ

ユリ:えー、んー…じゃあ、よくある、性格の不一致?

春樹:こんだけ長く一緒にいて、今更それ?

ユリ:うーむ、…あ、マスター同じのください

春樹:俺も

 

【マスターが二人の前にきてカクテルを作り始める。ぼんやり見ている二人。やがて二人の前にそれぞれの酒が置かれる】

 

ユリ:ありがとうございます

春樹:どうも

 

【マスターは一礼し、別のカウンターへ移動する。カクテルを口に含むユリ】

 

ユリ:あー、おいしい

春樹:あんま、飲み過ぎんなよ

ユリ:だいじょうぶですー

春樹:既に酔っぱらってる気がするけど

ユリ:ねえ、ここいいよねえ。気分がゆったりする

春樹:そうだな

ユリ:あ、…デートに使ったりする?

春樹:いや、使わないな

ユリ:へー、意外

春樹:意外か?そんな遊んでるように見える?

ユリ:遊んでないの?

春樹:まあ、遊ぶときはこんなとこ来ないだろうな、ホテルのバーでいいんじゃねえの

ユリ:わー!うわー!手慣れた発言!

春樹:はいはい

ユリ:…何の話してたっけ

春樹:「離婚の理由を何にするか」

ユリ:えー…言葉にすると重っ…

春樹:話フッたのオマエだからな、結婚して3日で離婚するんだろ?

ユリ:春樹と3日で離婚に至る理由…

春樹:さあ、どう説明するんだ?

ユリ:わかった、契約期間を1年にしよう

春樹:…お前、考えるの放棄したな、さっき俺の時間を無駄に使わせるのは…とか言っておいて

ユリ:だってさ、どう考えても春樹と3日で別れる理由が見つからないんだもん

春樹:そうか

ユリ:むしろ私の方に要因があり過ぎる

春樹:よくわかってらっしゃる

ユリ:だから!1年契約にしたらいいんじゃないかな!

春樹:1年で終わる結婚生活、ですか…

ユリ:1月スタートだったらお別れするのは大晦日…

   うーん、年の瀬にそういうのはあれよね…一緒に初詣行きたいし

春樹:ん

ユリ:となるとよ、やっぱ企業みたいに年度始めがいいよね

春樹:桜の季節に結婚して、桜の季節にさようなら…美しいねえ

ユリ:今2月だし、よし!タイミングばっちり!

春樹:っていうか、バツない方がいいんじゃないの?

ユリ:はあ?人の話聞いてた?!

春樹:いや、聞いてたけど、一番ベストなのはバツ1になるんじゃなくて、

   幸せな結婚生活が続く方がいいんじゃないかってこと

ユリ:あー扶養は欲しいよね

春樹:そこかよ

ユリ:保険の支払いはでかいよ!?

春樹:まあ、ユリは自営だからそうだろうな

ユリ:扶養いいなああ…結婚したら1年は扶養を味わえるのかあ…ああ…1年だけか…

春樹:ちなみに契約の更新ってあるの

ユリ:更新?

春樹:いまみたいにさ、扶養をもうちょっと継続したい、みたいなときとか

ユリ:お互いが良ければいいんじゃないの?「甲と乙、両者の合意の元、契約期間は更新されます」

春樹:甲乙好きだな

ユリ:私、乙ね!

春樹:はいはいはい

ユリ:あ、逆もありよ

春樹:逆?甲乙か?

ユリ:ちがーう!更新の逆!つまり、破棄!

春樹:へえ…お前が破棄すんの?

ユリ:ううん、春樹に恋人ができて、その人と結婚したい~!ってなった場合は破棄

春樹:ふうん

ユリ:どうよ!私にもバツができるし、春樹はハクがつく!

   契約の破棄も可能!あとくされなし!いいことづくし!

春樹:なるほどね。…まあハクがつくっていうのはまだ釈然としないが

ユリ:ふふー

春樹:ふふふじゃねえよ…まったく

 

【ユリ、笑い続けるが、やがておとなしくなる】

 

ユリ:(溜息)

春樹:ん?

ユリ:ごめん…

春樹:なにが?

ユリ:(大きなため息)

春樹:なんだよ突然。…っていうか、終わり?結構面白かったのに

ユリ:ヤナ奴

春樹:俺?

ユリ:違う、私。ヤナ奴で、バカな女。

   人の気持ちも考えないで言いたい放題言って…

春樹:さっきのか?…俺は笑えたけど

ユリ:好き好んでバツ1になったわけじゃないじゃん、みんな

春樹:ああ…まあ、それはそうだけど。でもお前はバツ1になりたいって思ったわけだろ?

   いいんじゃない?俺に言うんならさ。…マリやユミコにも言えんの?

ユリ:言えるわけないよ…!マリが苦しんでるの、見てたもん…ユミコだってあんなに泣いてたし…

春樹:…そうだな

ユリ:二人のこと見てたのに、バツ1になりたいとか…ミステリアスとかさ…

   バカにしてるよね…。私ホント、ヤナ奴。…それに、春樹だって…

春樹:俺?

ユリ:…春樹、何も言わなかったから聞かなかったけど…春樹だって、苦しかった…でしょ?

   知らないだけで、もしかしたらすごく苦しかったかもしれないのに…

春樹:んー、まあ、苦しくなかったと言ったら嘘になるけど、仕方ない。

   俺の場合は、さっきので言うなら「契約破棄」。1年持たなかったし。

   マリやユミコに比べたら、傷は浅いんじゃない?

ユリ:だからって…!言っていいものじゃないよ…ごめんなさい

 

【間】

 

春樹:…ユリ

ユリ:…なに?

春樹:なんでバツ1になりたい…って思ったの?

ユリ:…

春樹:冗談ってのはわかるけど、なりたいって思ったのは本音だろ?なんでそう思ったんだ?

ユリ:それこそ、つまんない理由だよ

春樹:言って

ユリ:…だって

春樹:つまんない理由でいいからさ、教えて

 

【間】

 

ユリ:…なんか、ふっとね…私たち…同級生じゃない?

   同じ時間生きてたのに、私だけ、ダラダラとさ。何してたんだろ、って

春樹:ダラダラって…仕事だってしてんだし、それにお前は…親の介護があっただろ

ユリ:…親のせいには、したくない。母さん、何度も私に言ってたもの。いい人いたら行きなさいって。

   …でもあの頃は考えられなかったの。母さんの傍にいたかったから

春樹:うん

ユリ:…でも、母さんがいなくなったらなんか、穴がぽっかり開いちゃったみたいでさー

   ああ、このままひとりで歳をとっていくんだなあ…とか考える様になって…

春樹:結婚する気になったわけだ

ユリ:それは…わかんない。結婚したいなあ、じゃなくて、

   結婚しておけば良かった…なのかな。でなきゃ、バツが欲しいとか、バカげたこと言わないよ

春樹:そっか

ユリ:…怒んないの?

春樹:なにを

ユリ:人の気持ちも知らずにふざけたこと言ってんじゃねえよ、ってさ

春樹:ん?

ユリ:だから、バツが欲しいとか、バツ2になればハクがつくとかさ、私が言ったことに

春樹:え、何、怒って欲しかったの?

ユリ:…怒って欲しいわけじゃないけど、怒られて当然とは思ってる、なのに笑ってるしさ

春樹:面白かったし、楽しかったよ。それに、笑って相手するって…わかってたんじゃないの?

ユリ:そだね…

春樹:信用されてるね

ユリ:うん。…でもさ、反省はしないと

春樹:ふーん、悪いことしたって思ってんだ?

ユリ:だって、いくら相手が怒らないから、とか、春樹の眼中にはないからいっかーとか、

   そういう理由で心にも無いこと言うのは、ね。よくない

春樹:心にも無い、ねえ…じゃあさ、笑ってくれる相手なら誰にでも、結婚して離婚して、って言ってたわけ?

ユリ:誰にでもってことはないと思うけど

春樹:俺だから言った?そこ次第で決める

ユリ:え、何を?怒るかどうか?

春樹:それはわからん

ユリ:えー!今から怒られるの!?

春樹:いいから答えろ、どっちだ

ユリ:もう怒ってるの?

春樹:怒ってない、俺だから言ったのかどうなのか、そこだけ答えろ

 

【間】

 

ユリ:…春樹だから言った。マリにもユミコにも言えません!誰にも言えません!

   春樹だから甘えて言っちゃいました!笑って聞いてくれると思って…ごめんなさい!

 

【間】

 

春樹:わっかりにくい甘え方…

ユリ:調子にのりました、ごめんなさい

春樹:…いいよ。じゃあ俺も真面目に応える

ユリ:え?

春樹:お前は、俺だから言ったんだよな?

ユリ:だからごめんってば!!

春樹:契約書があればいいんだろ

ユリ:…え?

春樹:だから、契約書作ってくればいいんだろ?

  1年契約で更新有、慰謝料無しで、…あと一応破棄もいるんだよな?俺用に

ユリ:春樹?

春樹:年度初めなら4月…、まあ2カ月ありゃ余裕だろ

ユリ:春樹さん??

春樹:今度持ってくるから書けよ。それとも、弁護士の立ち合いとかいるのか?あ?

ユリ:待って待って待って

春樹:なんだよ

 

【女、男が飲んでいるグラスを確認する】

 

ユリ:これ、度数高かったっけ…

春樹:酔ってない

ユリ:いや、明らかに酔ってるでしょ

春樹:酔ってるようにみえるか?

ユリ:だって

春樹:俺は本気だ

 

【間】

 

ユリ:ははーん、…仕返ししてるな

春樹:なにを?

ユリ:私が冗談言ってからかったから、今度は春樹が冗談で私をおちょくってるんだな

春樹:冗談?なにそれ、やっぱり誰でも良かったわけ?

ユリ:そうじゃなくて!…だってさ、普通に考えて結婚して離婚しろっておかしいじゃない!

春樹:それお前が言う?

ユリ:だからあ!つまり!私が春樹にプロポーズしたようなもんなのよ?冗談にされないと困るの春樹でしょ!?

春樹:俺は、渡りに船だと思ってるけど

ユリ:はあ?

春樹:俺をからかって悪いと思ってるなら、責任とれ

ユリ:責任ってなに!

春樹:お前の言う通り、契約してもらおうじゃねえか

ユリ:ヤケになってない!?

春樹:なってない

ユリ:なってるようにしか見えないけど

春樹:なってない

ユリ:ちょっと、冷静になろう。お互い酔ってんだよ。明日になれば忘れてて、

   そんなんあったっけ?とか言われて、そんで、…プチショック受けるんだ

春樹:俺が?

ユリ:私が!

春樹:へー、ショック受けるんだ?ふーん

ユリ:…誰が!?

春樹:プチショック受けるんだろ?おまえが

ユリ:受けないし!

春樹:今、自分で言ったじゃねえか、ほーんと、酔っ払いはすぐ忘れていやねえ~

ユリ:お前が言うな!

春樹:俺は忘れてねえし、忘れねえ。なんなら今ここで、契約書作って書くか?あ?

ユリ:なんで喧嘩腰なのよ!だからヤケに見えるんじゃない!

 

【間】

 

春樹:…なるほど、確かに

ユリ:…

春樹:悪かった

ユリ:別にいいけど。…冗談で結婚するもんじゃ、ないし…

春樹:ユリ

ユリ:なによ

春樹:俺は本気だ

ユリ:…

春樹:本気で言ってる

 

【間】

 

ユリ:…わかった、この話はまたにしましょ。酔っ払いがするもんじゃない

春樹:逃げんなよ

ユリ:逃げてない

春樹:逃げてるだろ、…いつもそうだ

ユリ:何よ、いつもって

春樹:結婚する気ないくせに、結婚したいだの、バツ1になりたいだの、

   で、相手が乗りだしたら逃げる。お前はずっとそう

ユリ:ずっと?

春樹:ああ、ずっとだ。俺がバツ1になる前からそう。

   「結婚したーい」「じゃあ俺とするか?」「あはは、冗談ばっかり」

   俺の気持ちを冗談にしてんのはお前だろ…!

ユリ:何よ…!喧嘩したいの!?

春樹:喧嘩したいんじゃない、本当のことを言ってる

ユリ:もういいじゃない…いつもみたいに笑って流してよ

春樹:俺は、別に好き好んで流してたわけじゃない、

   お前が…お母さんのこと大事にしてるのわかってたから、本気で言ったところで困らせるだけだろ

ユリ:本気でって…

春樹:だから言ってる、本気だって。だからもう、逃げるな

ユリ:…だって、逃げなかったら結婚することになるのよ?

春樹:そうだよ

ユリ:私と!結婚するのよ?!

春樹:そうだよ!

ユリ:…!…バツ2になるのはごめんだ、って言ってたじゃない。

   さっきの契約通りだったら、1年で離婚なの!バツ2になっちゃうんだよ?

春樹:ならねえよ

ユリ:はあ?なんでそん…

春樹:更新させる自信あるから

ユリ:…!

春樹:どうする?お前が本当に嫌なら、俺は引くよ

 

【間】

 

ユリ:…わたし

春樹:ん?

ユリ:私…乙がいい…

 

【間】

 

春樹:(笑う)

ユリ:な、なによ!やっぱり冗談なんでしょ!アンタってばホント…!

春樹:ユリ

 

【春樹、ユリにぐっと近づく】

 

ユリ:…!

春樹:…散々俺をおちょくったバツだからな。…受けろよ?
 

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