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倖せにしないで

作 : 揚巻

 

(♂1:♀1)

一馬♂:
ラン♀:


 

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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

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    ランの部屋。暗い部屋でパソコンに向かってランが座っている。
    頭にはヘッドセットをつけて、画面に向かってしゃべり続けている。
    顔は笑っているが、声は気乗りしない感じ。

 

ラン:…はい、あー…はい…そうですね、

   …えっと、それで研修の件なんですが………

   …あ、はい…わかりました…

   あー…じゃあ、ちょっと洗濯機回してきていいですか?

   …その、仕事終わってすぐだったんで

   …はい、じゃあ、離席しまーーす……はあい……

    終わると同時に、ヘッドセットを外すとクッションに投げつける。

ラン:……あー!もう!!

    ラン、自室からを出ていく。
    間。

    リビングでは一馬がスマホをいじっている。

ラン:カズ!

一馬:おつかれ、終わった?

ラン:まだ!

一馬:…長いね

ラン:もう!たまんない!マジクソ!クソオブクソクソ!

一馬:…言葉、悪いよ?

ラン:だって!クソはクソ!

一馬:まあまあ

ラン:なんで日付変わるまでこんな不毛な会議に付き合わなきゃいけないの?

   しかも仕事終わって自宅なのに!仕事の会議通話とか?サビ残でしょ!

   話、ぜんっぜん進まないし!こっちは何度も軌道修正しようとしてんの!

   だけどスルー。なんのための会議通話よ!

   明日会議できなくなったから今日やるって聞いてたけどさ!聞いてたけどさ!

   まさか仕事終わった後のまったりタイムにやるなんて

   誰が予想しえたであろうか!陰鬱なる電子会議!あーもう、クソ

一馬:クソはやめなさい

ラン:ちくしょーーー!

一馬:…で、その陰鬱なる電子会議をどうやって抜け出したの

ラン:洗濯機回すって言った

一馬:お、洗濯すんの?

ラン:しないし!もう!!あー!がー!

一馬:はいはい

ラン:ががががが…ピピピ…ピ…ぷしゅん…

一馬:あ、壊れた

ラン:慰めて

一馬:よーしよし

ラン:ぎゅーってして

一馬:はいはい、ぎゅー

 

    間。

 

ラン:(溜息)

一馬:落ち着いた?

ラン:ん、なんとなく

一馬:なら良し

ラン:(溜息)

一馬:仕事大変だな、お疲れさん

ラン:…待たせてごめんね

一馬:これくらい、いいよ

ラン:だってもう1時間経ってる

一馬:俺、明日休みだからいいよ。…あ、そっちが仕事か

ラン:私はいいの、…ごめん

一馬:いいって。でもさ…戻らなくていいの?

ラン:いい!まだいい!

一馬:そう?

ラン:戻れば次はいつここに帰れるかわからない

一馬:戦地に赴く傭兵みたいなこと言わないでよ

ラン:似たようなものじゃない!?

一馬:すぐ終わるかもよ

ラン:もう1時間以上経ってるのに!?

   本題そっちのけで、グダグダグダグダ世間話してる会議通話にそんな期待もてません!

   …どうでもいいことくっちゃべる気マンマンなのよ。あー…いま、わたし、すごい、不幸

一馬:わかった、じゃあ、シアワセ~な気持ちになるようなことをしてあげ…

ラン:いやっ!幸せになりたくない

一馬:え、なんで

ラン:だって不幸になるもの

一馬:んん?

ラン:私は今、不幸なの。だけどこれからもっと不幸になるの。

  もしここでさ、ちょっと幸せな気持ちになってアハハウフフ…となったらよ、

  また会議通話に戻った時、その不幸をさらに強く感じるであろう…

一馬:んん、ん

ラン:つまり、今から地べたに落ちるわけじゃない?

   しあわせ~な気持ちになってふわふわ舞い上がっているところからよ、べちゃっと落ちるわけ。

   より高いところから落ちる方がダメージ大きいでしょ?だから、幸せになるようなこと言わないで

一馬:じゃあ、逆に、不幸な気持ちになるようなこと言えばいいの?

ラン:そんなことされたらもっと不幸じゃん!!

一馬:…難しいな、ぎゅーしてればいい?

ラン:それもだめ!ずっとぎゅーっとしてたら離れがたくなるじゃない!

一馬:つまり、ぎゅーは幸せなんだ?

 

    間。

 

ラン:…それはおいといて!

一馬:はいはい

ラン:幸せを感じず…かといって不幸にならずにいるのが大事なの

一馬:わかったよ。で、ここにきてから10分経ったけど、大丈夫?

   洗濯、全自動だからボタン1つで終わってるけど…

ラン:大丈夫。うち、二層式って言ってるから

一馬:渋っ

ラン:だから今はすすぎが終わったくらいかな

一馬:二層式懐かしいな

ラン:家にあったよね

一馬:あったあった

ラン:小さい頃、あの中に入ろうとしてよじ登ってさ

一馬:そうだった?

ラン:確か…幼稚園のころだから…5歳くらいかな

一馬:そっか

ラン:洗濯機が倒れそうになって、母さんにすごい怒られたんだけど、憶えてない?

一馬:うん

ラン:えーだってカズ3歳でしょ。覚えて……あ…

一馬:…

ラン:…ごめん、なんかずっと前からいるような気になっちゃって…

 

    間。

 

一馬:…俺は、色物を知らずに入れちゃって怒られたなあ

ラン:…わ、私もそれあった!

一馬:制服の白シャツをピンクにしちゃってさ

ラン:私、ピンクのシャツがどどめ色になったことある!

一馬:どどめいろ…ググるか…

ラン:…あーあ、戻りたくないなあ…なんでこんな時間に仕事の人達と喋らなきゃなんないわけ…?

一馬:…あー、こういう色か

ラン:ねえ、聞いてる?

一馬:聞いてる。…ってか、早めに戻った方がよくない?

ラン:なんで、ここにいちゃだめなの

一馬:もしかしたら、戻ってくるの待ってるかも

ラン:え

一馬:みんな揃ったら本題に入りましょう~それまで適当に喋っておきますか~ってさ

ラン:えええ

一馬:無駄にお喋りしてるとはいえ、会議なんだろ?そこは全員揃ってからしかやんないでしょ

ラン:ありうる

一馬:だから早めに戻って早めに終わらせた方がいいと思うけど

ラン:んーーー

一馬:ま、こっちのことは心配しなくていいから…っと

 

    一馬、立ち上がって財布を出かける準備をする。

 

ラン:え、どこ行くの?

一馬:コンビニ。腹減っちゃった

ラン:行っちゃうのー!

一馬:だって、俺がここにいる限り会議に戻らないだろ

ラン:ぐぬぬぬぬ

一馬:何か欲しいものある?

ラン:プッチンプリン

一馬:他は

ラン:いい

一馬:ハーゲンダッツは?

ラン:え!いいの?!

一馬:いいよ

ラン:………やめとく

一馬:なんで、ダイエット?

ラン:ううん、幸せになっちゃうから

一馬:通話終わった後ならいくらでも幸せになればいいじゃん

ラン:違う!今!幸せになっちゃうから!

一馬:匙加減がよくわかんないな

ラン:とにかく!今の私にはプッチンプリンの素朴な幸せがちょうどいいの

一馬:はいはい、じゃあ行ってくる。…あ、気が変わって、幸せになりたくなったら連絡して

ラン:ぐぬぬぬぬ

一馬:会議頑張れ

ラン:いってらっしゃい、気を付けてね

 

    部屋を出ていく一馬。
    リビングで一呼吸つくラン。

 

ラン:私も戻るか…

 

    リビングから自室に戻るラン。
    ヘッドセットを付け、愛想笑いしつつ話始める。

 

ラン:…戻りました~…あ、時間かかっちゃってすみません、…で、話の方は…

   ………あー、主任の娘さんの話、ですか…なるほど…、あはは…

   それで、研修の日程は決まった感じですかね…

   はい……、え?…あの…すみません、それって、どういう…

 

    間。

 

一馬:ただいま

 

    コンビニ袋を片手に戻ってくる一馬。
    リビングには誰もいない。

 

一馬:…まだ話してんのか…大変だな…

 

    袋からあれこれ出して冷蔵庫に入れていく。

 

一馬:…よし。これだけあれば、何言われてもダイジョブだろ。とはいえ…

 

    一馬、耳を澄ませる。

 

一馬:静かすぎるな……見てみるか…

 

    一馬、ランの部屋の扉をそっとあける。
    パソコンの前にランが座っているが、何もしゃべっていない。
    ヘッドセットは放りなげたのか遠いところに転がっている。

 

一馬:…

 

    一馬、ゆっくり部屋に入っていく。
    ランは動かず黙って座ったまま。その背中に優しく声をかける一馬。

 

一馬:…ただいま

ラン:…おかえり

一馬:プリン、買ってきたよ

ラン:うん…

一馬:こっち、持ってこようか?

ラン:…ん

一馬:わかった、待ってて

 

    部屋を出て行こうとする一馬にランが声をかける

 

ラン:カズ…

一馬:ん?

ラン:好きって言って

 

    間。

 

一馬:…

 

    間。

 

一馬:好きだ

 

    間。

 

ラン:…もっと言って

 

    間。

 

一馬:好きだよ…姉さん

 

    間。

 

ラン:…ずるい

 

    間。

 

ラン:いっつもそう!なんで姉さんって言うのよ!なんで私をけん制するの!?

   僕たちは姉弟(きょうだい)なんだよ、って私に言い聞かせるみたいに…!いっつも!!

一馬:違うよ

ラン:違わない!

一馬:違う。姉さんをけん制してるんじゃない…俺を…自制してるんだ…

ラン:…

一馬:…姉さんは悪くない。俺が、悪い…

ラン:悪いとか…言わないでよ…

一馬:ごめん

ラン:あやまらないで!

 

    間。

 

一馬:会議で、なんかあった?

 

    間。

 

ラン:会議じゃなかった

一馬:え?

ラン:単なるお喋りだったの。会議通話っていうのはウソ。

   …研修の日程決める、とか、企画会議のテーマ決め、とか言っといてさ。

   私だけ知らなくて…

一馬:なんでそんな嘘つかれたの

ラン:喋りたかっただけじゃない?

一馬:たったそれだけのことで、わざわざ何人も集まって?

ラン:…うん

一馬:…それだけじゃなかったんでしょ

ラン:…

一馬:俺に言えないこと?

ラン:「いいじゃん」って言うもん

一馬:そうなの?

ラン:言う

一馬:言わないよ、約束する

 

    間。

 

ラン:…前から、紹介したい人がいるって言われてて。取引先の人なんだけど。

   でも私、飲み会行かないでしょ?だから…こうなったらしくて…

一馬:その人が来てたの?

ラン:うん…通話に戻ったら知らない人いて、それがその人で…さ。カメラつけてて、すごいニコニコしてて…

   え?え?誰?ってなってる私見て笑って…みんなテンション高くてさ…お酒飲んでたんだろうね、

   なんか、知らない人の中にいる気分だった。「そっちもカメラつけなよー」とか言われて…

一馬:つけたの?

ラン:つけるわけないし

一馬:なるほどね。そりゃ腹立つな

ラン:電子会議じゃなくて電子合コン?いらん世話

一馬:そいつ、いい男だった?

ラン:はあ?

一馬:かっこよかった?

ラン:うん

一馬:俺より?

ラン:うん

一馬:いいじゃん…

ラン:…

一馬:…とか言うわけねえだろ、クソが

ラン:え?

一馬:なんだそいつ、クソだろ、クソオブクソクソ、あークソクソ

 

    間。

 

ラン:(※笑う)

一馬:(※微笑む)

ラン:…口、悪い

一馬:似てんじゃねえ?姉弟(きょうだい)だし

ラン:…また言う

一馬:だって本当じゃん、俺たち姉弟だからさ、仕方ないじゃん

ラン:でも、半分…

一馬:…半分だけでも、姉弟だよ

ラン:意地悪

一馬:妬かせるそっちが悪いんでしょ

ラン:妬いた?

一馬:妬くだろ、俺よりいい男とかさ、敢えて言う?

ラン:自分で聞いたくせに

一馬:クソ

ラン:クソはやめなさい

一馬:どうせまた色々考えたんだろ

ラン:色々って?

一馬:男紹介されただけなら、大の字になって両手両足バタバタさせて埃だらけになってるはず

ラン:脱走したハムスターかわたしは

一馬:しないか?

ラン:してる

一馬:だろ

ラン:ねえプッチンプリンは

一馬:突然だな

ラン:食べたい

一馬:はいはい

ラン:どこいくの

一馬:冷蔵庫。冷やしてんの

ラン:気が利くう

一馬:誰かさんみたいにアイス玄関におきっぱとかしないんで

ラン:ちょ、あれはタモさんがー!

一馬:はいはいはい

ラン:ねえ、ハーゲンダッツもあったりする?

一馬:あるよ

ラン:だよね。そういうやつだよね

一馬:「いらないって言ったけど!そこをあえて買ってくるのがモテ要素なんだぞ!」

ラン:誰の真似

一馬:誰でしょー

ラン:カズ、モテるでしょ

一馬:モテません

ラン:うそばっかり、合コン行ってるくせに

一馬:はあ?誰情報

ラン:母さん

一馬:ああ…

ラン:ホントなんだ

一馬:行ってねえよ

ラン:嘘

一馬:そう言っといた方が安心するだろ、お母さん

ラン:…

一馬:なに、俺モテた方がいいの?

ラン:だって…

一馬:…

ラン:だっていつかは…

一馬:あーもういい、はいプリン

ラン:だってさ…

一馬:いいから黙って食えよ、ブス

ラン:はあ??

一馬:なに

ラン:こっちの台詞!なによブスって!

一馬:ブスって言った?

ラン:言った!

一馬:ふーん、しらね

ラン:アンタはさ!小さい頃から何かっていうとブスって言うよね!ね!?

一馬:うるせえな、ブス

ラン:また!!

一馬:なに、食わねえの?だったらプッチンするよ?

ラン:しないで!そのまま食べるの!

一馬:はいはいはい

ラン:今度ブスって言ったらぶっとばすからね!…あ、プリン買ってきてくれてありがとう

一馬:キレてんの喜んでんの、どっち

 

    ラン、プリンをあけて一口食べる。

 

ラン:はあ。しあわせ

一馬:ヨカッタネ

ラン:カズ、食べないの

一馬:コンビニで食った

ラン:なんで。ここで一緒に食べればいいのに

一馬:持って帰ったら食われるから

ラン:私が?そんなことす…

一馬:するよね

ラン:するよね

 

    嬉しそうにプリンを食べ続けるラン。
    それをみている一馬。

 

一馬:にしても、プッチンプリンなのにプッチンしないで食うってさ…

ラン:最後にカラメルくるのが幸せなんじゃん

一馬:もし食ってる途中で世界が滅びたらどうすんの

ラン:うん、世界が滅びる寸前にプッチンプリン食べるってどうなの?

一馬:で、どうすんの

ラン:え、…うーん

一馬:俺が秒で食ってやるよ

ラン:え…

 

    きょとんと一馬を見つめるラン。

 

一馬:…なに、その反応。食うな!とか言うんじゃないの

ラン:いや、その…いいの!じゃあカズはさ、プッチンして黒いとこから食べるの?

一馬:好きなもんは一番最初に食う

ラン:あとからのお楽しみにとっておいたりしないの?

一馬:横取りされたくないからな。…俺、独占欲強いの、知らなかった?

ラン:…

一馬:…なんで赤くなってんの

ラン:はっ!?べっつにー!

一馬:あっそ

 

    間。

 

ラン:…後悔するくせに

一馬:は?

ラン:独占してから後悔するくせに

一馬:俺は何も後悔してないよ

ラン:「姉さん」

一馬:…

ラン:呼んでよ。姉さんって

一馬:…なんだよそれ

ラン:自制なんでしょ、それって後悔してるのと同じじゃない

一馬:…あのなあ

ラン:なによ…!

 

    一馬、ランに詰め寄る。

 

ラン:…!

一馬:…俺の好きなようにしていいわけ?

 

    間。

 

ラン:…いいよ

一馬:…

ラン:こう言えば、困るくせに

一馬:俺は…

ラン:私が!食い意地張ったアンタを守ってあげる!

 

    間。

 

一馬:は?

ラン:世界が破滅寸前なのに、私が残しておいたカラメル、食べるんでしょ

一馬:お、おお

ラン:…つまり、世界が終わるまで一緒にいるんでしょ?

一馬:…

ラン:だから…カズが、一秒でも長く生きられるように私が守るよ

一馬:それ、男の台詞だと思うんだけど

ラン:姉の台詞、ともいえるけどね

一馬:(溜息)根にもつねえ…

 

    間。

 

一馬:…何考えてたんだよ、さっき

ラン:…

一馬:お互いいつかは結婚するから…とかだろ

ラン:そうだよ。そういうのが世間一般的な「幸せ」なんだろうなって考えたの

一馬:なりたいの?

ラン:どうだろう…カズはどう思うの

一馬:…俺は、人の数だけ幸せがあるように、幸せの形だっていくつもあると思ってる。

   だから、その時々で選んでいくしかないんじゃないか?

   それがもし、世間一般的な幸せなら…それはそれで…

ラン:そっか…

 

    間。

 

一馬:あのさ、ひとつお願いがあるんだけど

ラン:なに

一馬:幸せにならないで

 

    間。

 

一馬:俺も、ならないからさ

 

    間。

 

ラン:うん。私達はずっと…幸せにならない

 

    間。

 

一馬:ラン

ラン:なに、一馬

一馬:好きだよ

ラン:好きよ
 

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