黒だって白だって（男性サシ版）
作 ： 揚巻
(♂２：♀０)
男１（大野）♂：
男２（山本）♂：
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＜声劇メモ＞
・使用前に一度更新（F5）お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。
・上演時のタイトル表記に関しましては（男性サシ版）を省いて大丈夫です。
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デパートの屋上遊園地。ベンチに男２。
サングラスをかけた男２が前のめりに座っている。
男１が近づいて声をかける。
男１：久しぶり！
男２：…あ？
男１：こんなとこで何してんだ？サボりか？
男２：…人違いじゃないですかね
男１：山本だろ？
男２：…誰だお前
男１：俺だよ！大野！松中でオセロ部！
男２：大野か…
男１：元気してたか？何年ぶりかな！お前さ、同窓会来なかっただろ？
何してんだろうなーって心配してたんだよ？
男２：心配？お前がか？
男１：俺もだし、みんなも
男２：…あっそ
男１：隣いいか？
男２：は？
男１：ちょっと譲れよ、ほら
男２：なんなんだよ…
男１：俺？サボりー
男２：聞いてない
男１：いいじゃねえか、久しぶりに会えたんだしさ、思い出話のひとつやふたつあるだろ？
男２：ない
男１：うわ、ショック。毎日オセロで青春を謳歌してたのに
男２：（溜息）
男１：せっかくだし、オセロやるか
男２：はあ？
男１：ちょっと待ってろ…。じゃじゃーん、携帯オセロ～！
男２：なんだよそれ…
男１：これ、マグネット式だから逆さにしても大丈夫なんだぜ！
男２：聞いてない。ってか、何で持ってんだよ
男１：オセロ部の部長なんだから当たり前だろ
男２：中学の話だろ…あと、オセロ同好会な。部じゃねえ
男１：じゃあ俺、会長じゃん。部長よりいいかも
男２：（溜息）
男１：いいからやろうぜ、ヒマなんだろ？
男２：ヒマじゃ…
男１：ほら
男２：…どうせ負けんのに
男１：それはわからんぞ。さあ！勝負！…あ、白黒どっちがいい？
男２：どっちでもいい
男１：じゃああの頃みたいに、俺後攻な！白！
男２：はいはい
男１：じゃあ…どうぞ
男２：…
男１：ほら山本、始めるぞ
男２：…わかったよ
男１：お、そうきたか、えい！
男２：…
男１：やっぱりねー！じゃあ…ほい！
男２：…
男１：む…ちょい待ち、うーん
男２：…何やってんだろ、俺
男１：何って、オセロだろ？
男２：真昼間のデパートの屋上で、いきなり話しかけてきた男とオセロね…想像もしねえよ
男１：人生とはそういうものだよ
男２：うるせえよ
男１：ちょっと、いつからそんな口悪くなったんだよ、昔はかわいかったのに
男２：だまれ
男１：グラサンなんかかけちゃって。そんなんじゃ山本だってわかんないだろ
男２：わかるだろ。ツラにこんだけでかいアザがあるんだ。
グラサンして隠しても、すぐバレんだろ
男１：隠してたのか？
男２：…
男１：眩しいからかけてるのかと思ってたよ、グラサン
男２：…べつに
男１：はい、山本の番
男２：…
男１：アザがあったからわかったってのもあるけど、
俺が最初に山本だって気づいたのはそれじゃない
男２：じゃあなんだよ
男１：あん時もここに座ってたからさ
男２：は？
男１：ほら、学校の課外授業でさ、ウォークラリーしたじゃん？
商店街の成り立ちを調べる…みたいなさ
そんときここで会ったの、憶えてない？
男２：さあな
男１：俺めんどくさくて、さぼろーと思ってここ来たんだ。
デパートの屋上なら学校の連中もいないだろ、ってさ。
そしたら山本が座っててさ
男２：…ふーん
男１：で、サボりついでに我々は、ネギなしうどんを食べたわけだ
男２：ちげえよ
男１：なにが？
男２：ネギなしうどん食ったのはお前。俺は肉なし焼きそば
男１：あーそうだったな
男２：あれ、まずかった
男１：まずかったけど、うまかったなー
男２：なんだよそれ
男１：誰かとまずいねーって言いながら食うと、うまいんだよ
男２：あっそ
男１：さっきここにきて、それ思い出したんだよ。
あー昔そこに山本座ってたなあってさ。そしたら山本座ってんだもん。
タイムワープしたかと思った。だから声かけたんだ
男２：お前、サボるときいつもここくんの？
男１：うん
男２：それ知ってたらここ来なかったんだけどな
男１：ちょっとさびしいこと言うなよ。俺は山本に会えて嬉しかったんだからさー
男２：…そうか
男１：おお
男２：…
男１：…
男２：おい
男１：なに？
男２：お前の番
男１：あ、うーん
男２：悩んだところで同じだろ
男１：どういう意味だよ
男２：お前がどこ置くかわかるからさ
男１：なんだそれ。じゃあいっせーのーせで指差せよ
男２：いいけど
男１：いっせーのーせっ！
男２：…
男１：…ちきしょう
男２：さっさと置けよ
男１：はいはい！どーぞ！
男２：どうも
男１：だから早いって、ちょっとタンマ。ほら、空見てよ
男２：はあ？
男１：下ばっか見てないでさ、上もみようよ。あーいい天気だなー
男２：お前の番
男１：もう！えーっと…うーん…
【男、周囲を気にするように見回している】
男１：…ホント、誰もいないよな
男２：ん…ああ…
男１：昔は賑やかだったよな、土日なんて家族連れで満杯でさー
屋上遊園地って響きだけでわくわくしてたなー
男２：ふーん
男１：乗り物もだいぶ減ってるし
男２：そりゃ、20年は経ってるからな
男１：なあなあ、あのロボットさ、あの頃もあったよな。乗ってみるか
男２：大人はご遠慮ください、って書いてるぞ
男１：えーなんで
男２：重いからだろ
男１：なんだよ、あれに乗ってさ、山本に手を振りたかったな
男２：勘弁してくれ
男１：そっかあ、もう乗れないのかあ
男２：…
男１：…俺たち、大人になっちゃったんだな
男２：…
男１：あ、今もまだヒーローショーやってんのかな
男２：さあな
男１：サボった時もやってたよな。確か土曜だったからちっちゃいガキんちょいっぱいいてさ
男２：やってたな
男１：なんのヒーローだったっけ
男２：忘れた
男１：うどんと焼きそば食べながら見たよな。山本、つまんなさそうにしててさ
男２：ヒーローは嫌いだからな
男１：正義の味方、嫌いか？
男２：ああ。嫌いだ
男１：…
男２：しっかし、儲けも無さそうなのに、よくつぶれないな、ここ
男１：商売でやってるんじゃないのかもな
男２：じゃあなんだよ
男１：さあ
男２：金にならないことやったって意味ねえだろ
男１：俺はそのあたりのことよくわかんねえけど、
こういう場所も必要なんだと思うよ。逃げ場、みたいでさ
男２：…
男１：あくまでも俺にとってはな。だからついふらっと来ちゃうんだ。
ま、そのおかげで山本に会えたから、俺は嬉しかったけど
男２：…
男１：ちょっと口悪くなったけど、変わってなくて良かった
男２：変わったよ
男１：そうか？
男２：もう俺は、お前が知ってる俺じゃねえよ
男１：そうかなあ。山本は変わってないと思うけど
男２：何にも知らない奴は気楽なことが言えるからいいねえ
男１：じゃあ教えろよ。何があったか
男２：言いたくねえ
男１：それじゃ、どう変わったのか理解することなんてできないぜ
男２：理解？頼んでねえけど？
男１：俺は知りたい。理解したい。山本がなんで…あ…いや
男２：んだよ
男１：いや、やっぱり知らなくていい。そうだな。知ろうと知るまいと、山本は山本だもんな
男２：めんどくさくなっただけだろ
男１：なにが
男２：懐かしいーとか言って声かけておきながら、
いざ喋ればまともな会話にならねえから面倒になったんだろ。
どこいったって同じなんだよ。
俺のツラ見て、アザ見て、カワイソウって善人ぶって近づいて、
こいつメンドクセエってなったら離れていく。
だったら最初から近づいてくんなよ。
俺は俺だ？どいつもこいつも何も知らねえくせに…
男１：俺は…
男２：同情すんな、むかつくんだよ
男１：…
男２：…こんなとこうんざりだ。遠くに行けるもんなら行きてえよ
男１：なんで行かないんだ
男２：だから言っただろ！
こいつのせいで…このアザのせいでなにやっても上手くいかねえんだよ！
ガキの頃からなんにも変わりゃしねえ！
どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって！
どこに行ったって、どこにいたって、すぐ俺だってバレるんだよ！
男１：アザはファンデーションでも隠せる。整形だってできる、
国内でも国外でも逃げられたのに、なんで逃げないでここにいる？
すぐに見つかるってわかってて、なんでまだここにいるんだよ
男２：…おまえ
男１：…なんでだ？なんでこんなとこにいるんだよ…
【間】
男１：山本の番だよ
男２：…
【間】
男１：うちの学校さ、
男２：…
男１：絶対部活に入らなきゃならなかっただろ？俺、かったるくてさあ。運動部とかやだし、
手先器用じゃないから文化部もなんかな…で、オセロだったら、白と黒ひっくり返すだけだから
まあいいかなあって入ったけど、やっぱり同じこと考えてる奴ばっかで、みんなサボっててさ
男２：…
男１：俺も一緒にサボれば良かったけど、入ったからにはさ、ちょっとやってみたいじゃん？
でもオセロする奴なんて誰もいねえし。その時、まだ部活決めてなかった山本に声かけて
無理矢理オセロ部に入ってもらってさ。…憶えてる？
男２：…ああ
男１：山本、入ってはくれたけどさ、一緒にオセロしてくれるのかちょっと不安だったんだよな。
みんなみたいにサボって来ないんじゃないかなって。でも、毎日来てくれてさ。
すっげえ楽しそう…じゃなかったけど、それでも付き合ってくれたじゃん
男２：…
男１：あれから全然会ってないから、山本がどんな風に生きてたのかわかんないけどさ、
それでも、山本は変わってないと思う。今日、ここで山本に会えてそう思ったんだ。
やってられない、ってオセロひっくり返してどっか行ってもいいのに、
「お前の番だよ」って言ってくれて。あの頃もそうだったな、ってさ
男２：…
男１：山本は正義の味方嫌いだって言ったけど、俺にしてみれば山本は正義の味方だったなあ。
ぼっちの俺と一緒に遊んでくれた正義の味方！オセロマン！なんちゃって…
男２：…
【間】
男１：っていうか、山本ホントオセロ強いよな、昔からやってたのか？
男２：…子供の頃、ずっとひとりでやってた
男１：へえ。オセロって一人でもできんのか
男２：自分の中でわけるんだよ。白は自分、黒は敵、みたいに
男１：山本、白が好きだったのか？
男２：ああ
男１：…じゃあなんで、俺とするときはいつも黒選んでたんだ？
男２：…
男１：白好きならやって良かったのに
男２：…お前にハンデやってたんだよ。
後攻の白が有利だからな。…お前弱すぎなんだよ、ヘタクソ
男１：ぐっ！
男２：俺に勝ったことねえだろ、部長のくせにさ
男１：そこは忘れていて欲しかったなあ！
男２：全戦全敗男のことなんて忘れたくても忘れられるわけねえだろ
男１：…そっか
男２：大野の番
男１：だから早いんだよなもう、…うーん…
【間】
男２：…ここ、いつまであんのかな
男１：屋上遊園地か？
男２：ああ
男１：老舗デパートだし、きっとまだまだ続くだろ。
俺たちがジジイになってもあるかもな！
男２：…
男１：そん時はオセロ老人会作ろうぜ、な。…よし！ほら山本の番！
男２：…
男１：山本？
【間】
男２：俺、お前のことが嫌いだったんだ
男１：…そっか
男２：さっき、白は自分、黒は敵、って言ったけど、黒は俺にとってこのアザだったんだ。
盤面が白くなっていくと、まるで自分のアザが消えていくみたいに思えてさ
男１：うん
男２：でも、全部真っ白になることはなかったな。何度やっても、点々と黒いとこが残るんだ。
どう頑張ってもこのアザは消えない、って言われてるような気分になって、オセロやらなくなった。
なのにお前がオセロやろうって声かけてきてさ。
へらへら笑って話しかけてくるお前を見てたら…なんか無性に真っ黒にしてやりたくなったんだ
男１：…
男２：お前が悔しがるところが見たかった。
お前の偽善を黒く塗りつぶしてやりたかった。
ああ、こんな奴誘わなきゃ良かったって言わせたかった。
なのにお前さ、負けても負けても、笑っててさ…
今は笑ってるけど、いつか絶対大野は俺を嫌うようになる。
周りの奴と同じように思うようになる。
それみろ、お前もあいつらと一緒だ、って
そう思いたいためだけに、俺は大野とオセロしてたんだ
男１：そっかあ。…俺、ダメだな
男２：…
男１：俺は、山本が毎日付き合ってくれてるの、
ほんの少しは楽しい気持ちがあったからかなって勝手に思い込んでたよ。
押しつけがましいな
男２：…
男１：山本は俺が嫌な気持ちになるのをずっと待ってたんだよな？
…じゃあさ、今こうしてるのも、そういう思いがまだあるからか？
男２：だったらくやしいか？
男１：ああ、くやしい。山本にそう思わせてた自分が、くやしいな
男２：違う
男１：なにが？
男２：楽しかったんだ、俺も
男１：…
男２：偽善で声かけてきたんだって思ってても、一緒に遊べるのが楽しかった。
だけどそう思いたくなかったんだ。負けるような気がして。
…俺はきっと、自分の中にある黒いものをお前にぶつけてたんだな…
この顔のアザよりもっと黒い…きっと俺、心にもアザがあるんだ……
男１：心のアザ、か…
男２：お前がくやしがるところを見たい、なんて言い訳だ。
俺はさ、白い盤面にどうしても残る、黒なんだよ
男１：山本…
【間】
男２：大野
男１：なに？
男２：何の仕事してんの？
男１：…
男２：…
男１：…正義の味方
【間】
男２：…そっか
男１：うん
男２：悪者、やっつけねえのかよ
男１：…今はサボりだから
男２：悪者をやっつけて、世界を平和にすんのが正義の味方なんだぞ
男１：やっつけるばかりが正義の味方じゃねえ
男２：…
男１：生まれながらの悪人なんていない。俺はさ、黒も白になるってこと信じたいんだ。
さっき山本は、いくら白くしても黒が残るって言ってたけど、
逆に、いくら黒くしても白だって残ってるんだよ。
人の人生は64マスじゃない。もし64マスがほとんど黒になったとしても、
わずかに残った白から逆転できるかもしんないじゃん。
俺は、それを信じたいから、この仕事してるんだ
男２：…だからお前は弱いんだよ
男１：そうだな、正義の味方失格だ
【間】
男２：お前の番
男１：あ、うん…えーと…
男２：ここまでだ
男１：え？
男２：…預かっててくれ、それ
男１：…
男２：携帯用なら、そのまんまにできるだろ。
…続き、何年後になるかわかんねえけど
男１：…山本
男２：ここで、この続きから。…頼むからその時は勝てよ？
正義の味方ならさ、盤面、真っ白にしてくれ
【間】
男１：…絶対勝ってやるからな、待ってろよ
男２：ああ、待ってる
男１：ここで、このベンチでやるからな
男２：ああ
男１：そん時はネギなしうどん食おうぜ
男２：まずいのにまた食うのかよ
男１：まずいって言いながら食おう
男２：俺は肉なし焼きそばだな
男１：あと、ぬるいクリームソーダ飲もう
男２：なに、そんなのあるの？
男１：あるある、まずいんだ
男２：じゃあ、ヒーローショー見ながら食うか
男１：正義の味方、嫌いだろ？
男２：嫌いだな、おせっかいだし、オセロ弱えし
男１：なにそれ
【間】
男２：…俺行くわ
男１：おお
男２：…お前は？
男１：…ここにいる
男２：…一緒に来なくていいのか
男１：俺はサボり中だから仕事しないんだ
男２：…大野
男１：ん？
男２：俺、お前がオセロに誘ってくれたの、嬉しかったよ
男１：ああ、俺も楽しかった
男２：全戦全敗でもか？
男１：俺は、負けても負けても山本と遊べるのが嬉しかったんだ、やっぱり山本はオセロマンだな
男２：…んだよそれ、むしろお前が…
【間】
男２：いや、いい。…じゃあな
男１：おお、またな
著作権は揚巻にあります。
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