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それはきっと愛だ

作 : 揚巻

 

(♂1:♀1)

高橋(♀):
市川(♂):

 

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<声劇メモ>
・使用前に一度更新(F5)お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

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〇社内・営業課

   営業課の電話が鳴り響いている。
   室内には誰もいない。
   ドアから中を伺っていた高橋が叫ぶ。

 

高橋:ねえ!誰もいないのー!?ちょっとー!?
   …もう、しょうがないなあ…
   (仕事用の声で)大変お待たせ致しました。企画…じゃなくて営業課です。
   (地声に戻る)あ、主任?お疲れ様です。…え、高橋ですよ。だから営業課ですって。
   異動してないですよ。なんか今、営業誰もいなくて。通りがかりです。
   あー、市川もいないですね、伝言あるならメモ残しておきますよ。
   …あ、ちょっと待って下さいね。えっと、メモメモ…あ、あった。
   どうぞー。…はい、え、それだけ?(笑う)はい、かしこまりました。じゃ、失礼しまーす…(切る)
   …あ!会議、遅れちゃう!

 

〇同・休憩スペース(夕方)

   社内自販機の前。椅子が二脚と、灰皿スタンドがある。
   高橋、椅子に座って天井を見上げている。

 

高橋:(溜息)つかれた…今日の忙しさホントなんなの…ああ…お腹空いた…

 

   高橋に近づく市川。

 

市川:よお

高橋:わ!びっくりした!…市川じゃん…なによ

市川:こんなとこで何してんだよ

高橋:私、今日、めっちゃ忙しかったの!会議続きでお昼も食べてないんです!
   帰る前にコーヒー飲むくらいいいでしょ

市川:そっか、悪い

高橋:別に謝らなくていいけど。っていうかアンタも休憩?あ、タバコか

市川:いや、まあ、そう言われたらまあそんなとこでいいけど

高橋:なにそのふわっとした答え

市川:…お前を探してたんだよ

高橋:私を?なに、なんか用?

市川:…用っていうか

高橋:ん?

 

   市川、高橋の隣に座る。

市川:…最近どうよ

高橋:はあ?

市川:…いや、別に、昼間…さ

高橋:昼間?

市川:だから、俺んとこに…

高橋:あ、そういえば昼間、会議前に営業課通りかかったら電話バンバン鳴っててさ、
   なんで出ないのー?と思って中見たら誰もいなくて

市川:事務の子もいなかった?

高橋:だーれも。トイレだったのかな。ってか、市川どこ行ってたのよ

市川:ああ…、頭下げに行ってた

高橋:え、なんかあった?

市川:新人がポカやってさ

高橋:あらー、取引先?

市川:なんとか社内で収めたよ

高橋:それならまだよかったね。でもまあ、しょげてるでしょ、その子

市川:それはしょうがねえな。明らかにあいつのミスだし

高橋:…大丈夫?仕事辞める!とか言ってない?
   最近の子はすぐ辞めるって言うから

市川:それはないけど、かなり落ち込んでるな

高橋:そりゃそうよね、うんうん。わかる。
   でも誰もが通る道よ!いい経験したって切り替えて、ね。
   いくらでも挽回のチャンスはあるんだからめげずにがんばれって
   企画課の綺麗で若いお姉さんが励ましてたって、言っといて

市川:経験値が高いオネエサンの励ましは貫禄がありますねえ

高橋:なにそれ

市川:若いお姉さんは「最近の子は」とか言わねえからな

高橋:うるさいわね、なんなのよ、久しぶりに来たかと思えば、喧嘩売りにきたの?

市川:ちげえよ

高橋:じゃなによ

市川:高橋

高橋:なに

市川:なんでそんなイライラしてんの

高橋:今日はすごい忙しかったって言ったでしょ

市川:それだけか?

高橋:はあ?

市川:いや、なんか別の理由あるんじゃねえかなって
   それ、言いたくて来たんじゃねえの?

高橋:…ん?来たのはそっちでしょ

市川:じゃなくて、昼間…まあそれはいいよ。でさ、なんかあったの

高橋:…

市川:言いたくないならいいけど

高橋:…言いたくないわけじゃないけど

市川:(小声で)仕事のことか?

高橋:ちょ!近い!

市川:…ごめん

高橋:アンタの声ってこう、なんかくるもんあるからそういうの控えて!

市川:…よくわからんが…わかった。で、仕事のことか?

高橋:…そう。だからあんまり愚痴りたくない

市川:俺、距離置かれてんの?

高橋:違うよ

市川:前はなんかあったらすぐ言ってたのさ

高橋:そりゃ…まあ、……そうだね…なんか気を張りすぎてたのかも…
   市川いないし、だから一人でなんとかしなきゃ…ってさ

市川:同じ課じゃなくなったから、言いづらいってか?…水臭いねえ…

高橋:…じゃあ、前みたいに聞いてくれる?

市川:…いいよ

高橋:…端的に言えば、後輩の企画と微妙に被っちゃったの。
   別にお互い不正があったわけじゃないし、
   同じ発想があるなら合同企画にしようか、ってことになったんだけど
   全体的に見て、後輩の企画の方がしっかりしてるっていうか
   合同企画だけど、むしろ私が乗っかったみたいな気分になっちゃって。
   いっそ、私がサブにまわるほうがまだすっきりするんだけど…
   一応私が先輩だからメインになって、後輩がサブでさ。
   それがなんとなくずっとモヤモヤしてて…

市川:なるほど、そりゃモヤつくな。誰が悪いわけでもないからな

高橋:そうなんだよね…まだ後輩が嫌がってたら、上にかけ合って、
   メインとサブ変えてください、って言えるけど、
   あの子、むしろまだ自信ないからこのままがいい、って言ってるし。
   まあ、先輩にあれこれ指示するの、後輩としてやりにくいだろうから
   円滑に進めていくには、これでいいんだってわかってるんだけどねえ…

市川:それでいいんじゃないのか。そんで、モヤモヤしたらこうやって愚痴ればいい

高橋:でも、根本的には何も変わってないし

市川:根本を変えれられる問題じゃないからな。
   組織的なことで不満があるなら話し合うべきだけど、
   これは会社側からすれば合理的でかつ、お前のことを汲み取った判断でもある。
   お前が納得できないのは感情論だってわかってるからモヤついてるんだろ。
   そういうのはさ、愚痴言って吐き出すしかねえんだよ

高橋:でもまたすぐ…

市川:またすぐ吐き出せ。俺が聞くから

高橋:…うん

市川:で、話してみてどうだ?ちょっとは気晴らしになったか?

高橋:…そうね、すっきりしたかな

市川:ならいい

高橋:…ありがと

市川:まあべつに、聞くだけだし

高橋:なんか懐かしい、昔はよくこんな風に聞いてもらってたよね

市川:そうだな。ここに入社して、総務で一緒に3年…

高橋:そのあと異動で、私は企画課、市川は営業課にいって、3年か…

市川:お互い色々あったよな。総務の頃、お前泣いてばっかでさ

高橋:最初の1年だけね!アンタだってもう辞めるとか言ったことあったじゃない

市川:あったな。俺、デスクワーク得意じゃないからさ。
   慣れない仕事でしんどかったな。今となってはいい経験だったって思えるけど

高橋:色々あったねえ、あれこれ相談したり、飲みながら朝まで愚痴ったりしてさあ。
   …課が変わってから、そういうの少しずつ減っちゃったけど…あれはあれでさ、楽しかったよね

市川:俺も。…だから嬉しかったよ。会いたいって言ってもらえて

高橋:え?

市川:さっきお前に、水臭い、なんて言ったけどさ、
   俺もなんとなく、課が変わってから声かけていいのかな…とか思ったりしてて。
   前は見えるとこにいたから、お互いの現状もわかってたけど、
   今はわかんないからさ。声かけられても困るかな、って…

高橋:え?ん?…あ、いや、市川に声かけられて困るなんてことはないよ、
   私もさ、どうしてるかなあ、とか思い出すことあるし。うん。

市川:そっか。ありがとう。俺も会いたかったよ

高橋:う、うん。…えっと、私が、市川に会いたいって、言った、のかな?

市川:言ったっていうか、会いたいってメモくれたろ

高橋:なにそれ

市川:は?いや、お前だろ、『あいたい、いつあいてる?』ってメモ書いたの…

高橋:知らない

市川:はあ?

高橋:え、なにそれ、あ、ふうん、誰かに会いたいってメモもらったんだ

市川:いや、お前だろ

高橋:違うし、知らないし。なにそれ、あっそ、あっそ!

市川:待て、待てって

高橋:それ、私じゃないですから、他の人ですから。誰だろうねえ!同じ営業課の子かな!
   総務課?業務課?もしかしてうちの企画課!?

市川:おい、高橋…

高橋:あー、別に私がとやかく言うことじゃないよね、失礼!とにかく人違いだから!

市川:高橋!

高橋:なによ

市川:お前だ、絶対

高橋:私じゃないって…

市川:これはお前の字だ!

 

   市川、メモを高橋の目の前に突き出す。

 

高橋:…それ

市川:この字、絶対お前だ。間違えるわけない

高橋:…あいた……い…

市川:名前も書いてねえけど、お前だってすぐわかったよ。
   だから会いにきたんだ…他の奴だったらそもそも行かねえよ…

 

   高橋、メモをじっと見つめる。
   きまり悪そうに、市川を見てつぶやく。

 

高橋:あいだ…さん…

市川:は?

高橋:それ、あいた『い』、じゃなくて、『い』が濁点で、あい『だ』…

市川:あいだ…

高橋:総務の…愛田主任…

市川:仏の愛田さん?

高橋:…昼間営業に電話あって…誰もいなかったから私が出たら、
   久しぶりに飲まないかって、市川宛の電話で…

市川:おい待て、じゃあこれは『愛田、いつ空いてる?』ってこと、か…?

高橋:うん…それだけ書けばわかるかな…って…

市川:…さん、つけろよ…

高橋:…急いでて…ごめん…

 

  市川、うなだれる
  高橋、バツが悪そうに市川をのぞき込んだりしてそわそわしている

 

高橋:…えっと

市川:…

高橋:もしかして市川!私の事好きだったりする!?

市川:はあ??

高橋:そうなんでしょ!好きなんでしょ!

市川:ちげえし!俺の事好きなのはお前だろ!

高橋:はあ!なんでよ!

市川:『このメモ書いたの別の子かも!』ってなったときの高橋やりまーす!
   『なにそれ!あ、ふぅん!そうなんだー!他の子にもらったんだ!へええ!ぷんぷん!』

高橋:ぷんぷんとか言ってませんけど?!

市川:似たようなもんだろうが、すっげえ剣幕!妬いた?妬いちゃった!?

高橋:なによ!妬いちゃいけないっての!好きだったら妬くでしょ普通!
   アンタだって私の事好きなんでしょ!

市川:ああそうだよ好きだよ、文句あんのか!?ああ!?

高橋:声うるさい!

市川:うるさいのはおまえだろ!『あいだ』くらい漢字で書け!紛らわしいんだよ!

高橋:ごめんねえ!『あいたい』だと思っちゃったんだもんねー!
   ざーんねん!『あいだ』でした!『あ・い・だ』!

市川:あいだあいだうるさいんだよ!

高橋:うるさいのはそっち…

 

  言い合う高橋と市川、二人の視線が同じ方角で止まる

 

高橋:あ…

市川:あ…

二人:(立ち上がり)すみません!!

 

〇同・(夜)

   高橋、市川、椅子にぐったりと座っている。

 

高橋:やっちゃった…

市川:まさか愛田さんがくるとはな…

高橋:タイミングよ…

市川:おまえ、すげえ呼び捨てで連呼してたよな

高橋:市川だって呼び捨てしてたでしょ

市川:でもやっぱり愛田さん怒らなかったな…

高橋:愛田さん、怒らないもんね…さすが通称、仏の愛田…

市川:すっごいニコニコしてたな

高橋:すっごいニコニコしてたね

市川:ついでに飲み会の約束もしたし

高橋:私も参加することになったし

市川:ま、お咎めなしでなにより

高橋:だいたい、元はと言えば愛田さんの名前のせいで…

市川:お前の字が汚いだけだろ、愛田さんのせいにすんな

高橋:アンタね…!

市川:しー、休憩スペースではお静かにー

高橋:…

市川:…

高橋:あのさ…ありがとう

市川:なにが?

高橋:その…私の字だってわかってくれて。それで、会いにきてくれて

市川:…おう

高橋:よくよく考えたら、なんかすごい、嬉しいことだなって。
   どこまでがホントでどこまでがウソかはわかんないけど…

市川:俺、嘘言ってねえから

高橋:全部ホント?

市川:全部ホントだよ

高橋:会いたいって言われて嬉しかった、とか?

市川:…おう

高橋:他の子だったらそもそも行かない、とか?

市川:…ああ

高橋:好きだよ文句あんのか、とか?

市川:…お前わざと言ってるだろ

高橋:(笑う)別にー

市川:はあ…なんか、何話してたか吹っ飛んだな。…帰るか

高橋:そだね

 

   高橋、市川、椅子から立ち上がる
   市川、先に歩きだす、その背中に声をかける高橋。

 

高橋:ねえ

市川:ん?

高橋:『会いたかった、いつ空いてる?』

市川:…

高橋:…

市川:飯、食ってねえんだろ、行こうぜ

高橋:うん!
 

 



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