ただいまと、君と
作 ： 揚巻
(♂１：♀１)
男（♂）：
女（♀）：
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＜声劇メモ＞
・使用前に一度更新（F5）お願いします。
・会話劇ですので、間は自由にとってください。
・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。
・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。
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〇どこにでもある2LDKの部屋
ダイニングにはテーブルと椅子
女がキッチンで料理をしている
玄関から扉が開く音が聞こえ、
男が部屋に入ってくる
男：ただいま
女：おかえりー…あ、ご飯もうちょっとかかるから先にお風呂入って…
男、テーブルの前で突っ立ったままぼんやりしている
女：…どしたの？
男：こういうの、いいな…
女：こういうの？
男：よし、もう一回
女：え？
男、廊下にでる
女、怪訝な顔でそれを見守る
男：ただいま
男、女の返答を待つそぶり
女：お、おかえり
男：違う違う、さっきみたいにさ、自然にお願い
女：はい？
男：やりなおし
女：え、なに
男：ただいま！
女：おかえり！
男、納得しない表情で唸る
女：…あのさ、今のはあなたも自然じゃなかったよ
男：そうか？
女：いつもはもっとこう、かったるそうに言うじゃん
くたびれたーって感じでさ
男：そりゃ仕事帰りだからくたびれもするだろ
女：あんなイキイキと、ただいま！なんて言うわけないじゃん
…少なくとも、最初のとは違ってたからね
男：わかった、今度はうまくやる
女：まだやるの？
男、再び
男：ただいま
女：おかえり
男、腕を組む
男：んー
女：今のは自然だったんじゃない？
男：いや、違うな
女：っていうかさ、ホントなんなの？
男：自然に、っていうのは難しいものなんだな
女：そりゃそうでしょ。最初のは自然な挨拶だけど、
２回目からは演技なんだから
男：難しいな
女：へんなの
男：で、さっき何か言った？
女：さっき？…ああ、先にお風呂入って、って言った
男：そっか、じゃあお風呂いってきまーす
女：いってらっしゃーい
男、また止まる
女：ん？
男：…いいな、今の
女：は？
男：お風呂、いってきます！
男、女の返答を待つそぶり
女：いってらしゃーい…
男：違う！
女：もう！なに！
男：自然に！
女：あのね、何度も言うけど、もう一度ってなった時点で自然じゃ…
男、視線を落とす
女、心配そうに男に近づく
女：ねえ、今日変だよ？
男、視線を落としたままでいる
女：…ちょっと座ろ、ね？ほら、こっち…
女、男をテーブルにつかせて、自分も座る
女：どしたの？…仕事しんどかった？
男：いや…
女：じゃあ、どっか調子悪い？
間
男：なんかさ…何気ない挨拶っていいなって思って…
おかえり、とか、いってらっしゃい、とかさ
毎日聞いてんのにな…
なんか懐かしいような、悲しいような…
…俺、疲れてんのかな
間
女：わかった！とことん付き合う！…ほら、立って！
男：え？
女：もう１回やるよ！ほら！廊下出て！
女、男を部屋の外へ連れ出し、自分だけ戻ってくる
女：いいよ！
男、部屋に入ってくる
男：ただいま
女：おかえり！
間
女：今のはね、
あなたが帰ってきて嬉しいって気持ちを表現してみたんだけど、
…伝わった？
男：おう
女：じゃあここからはクイズね！
私がどんな気持ちで言ってるか当てるのよ！いい？
男：お、おう…
男、一旦出て、また入ってくる
男：ただいま
女：ほかえり…！
女、口になにかを頬張っている
女：これはどういう気持ちで言ったでしょうか
男：気持ちっていうか、
つまみぐいした瞬間、俺が帰ってきただけじゃ…
女：はい！正解！
男：それでいいんだ…
女：はい、廊下出て
男：まだやるの
女：あなたがはじめたんでしょ
男：そうだけど…
女：はいはい、出て！
男、一旦廊下に出て、また入ってくる
男：ただいま
女：おかえり…
女、包丁をキラつかせて男を睨む
男：ちょ！包丁！おろして！！
女：さて…私は今、どういう気持ちでしょうか…
男：え、待って…なんか、見覚えあるんだよな、今の…
女：おもいだして…
男：怖いから！
女：忘れたとは言わせないわよ…！
男、必死に考える
男：…あ！思い出した！あれだ…経理の永井さん
女：そう！
男：俺が経理の永井さんと外回りで偶然一緒になって、歩いているのを
女：私に目撃された日の「おかえり」よ！
男：すぐヤキモチやくんだからなあ…
女：なによ！悪い！？…なにさ、楽しそうに話しちゃって
男：上司の悪口で盛り上がってたんだよ
女：聞いた！
男：なんでまたキレてんの！？
女：あの時の気持ちを思い出して…！
男：忘れて！
女：ムリ！…出てけ
男：追い出すの！？
女：廊下に！続きやんの！
男：まだやるんだ…
女：やるよ
男：さっきあれだけブツブツ言ってたくせに…
女：なんか楽しくなってきちゃった
男：なにそれ…
男、一旦廊下に出て、また入ってくる
男：ただいま
女：お、おかえり…！
男、腕を組んで考える
女：さて、これはどういうシーンでしょうか！
男：どれだ…？
女：え、どれって
男：あ！韓流だ！観はじめたら止まんなくなって、メシ忘れた時か…
いや、待てよ…体重計乗ってるタイミングで俺が帰ってきた時…？
…あー！わかった！高級チーズだ！
ラッキー！値下げしてる！ってレジに並んだら、
100g800円で、戻すわけにもいかず買っちゃって、気まずくなった時の…
女：もう！
男：どれが正解？
女：もういい！次！ほら！出て！
男：なんだよもう…
男、一旦廊下に出て、また入ってくる
男：ただいま！
さっきまで台所に立っていた女がいない
何度も繰り返しただいま、と呼びかけるが返事がない
男に悪寒が走る。呼吸が荒くなってくる。
男：おい…
男、息苦しさの中、言葉を絞り出す
男：返事…してくれよ…なあ…頼むよ…
※できれば同時に
男：おいてかないでくれ！
女：おかえりー！！
台所のカウンターから出てきた女と男が見つめ合う
女：あ、えっと…
今のは、お誕生日のサプライズしようとしたときの…
男、まだ呼吸が荒いまま女を見つめる
女、カウンターから出てきて、男に寄り添う
女：ここにいるよ？
男：ああ…
女：ずっと、いるよ？
間
男：なんだろうな、俺…
女：なにが？
男：…ごめんな
もとはと言えば、俺が変なこと言ったから
自然な挨拶が懐かしい、とかさ…
女：そんなときもあるって、だから、気にしないで
男：ここにいると…なんだろうな…
間
男：…俺、ちょっとコンビニ、行ってくる
女：え？
男：気分転換だよ、すぐ戻るから
女：帰ってきたばっかりなのに
男：頭冷やせば、いつも通りに戻んだろ
女：いいから、ここにいて
男：なんか欲しいもんある？ついでに買ってくるよ
女：あ…
男：何がいい？
女：私…
男：チョコモナカジャンボ！
女：…
男：だろ？
女：…あはは、バレてる
男：何年一緒にいると思ってるんですかね
女：だよね
男：じゃあいってくる
女：…いってらっしゃい、気を付けてね
男、部屋から出ようとするが、また足を止める
女：どしたの？
男：（小さな声で）おまえだろ…
女：なに？
男：お前だろ！気をつけなきゃいけなかったのはさ！
女：…！
男：お前だろ…！俺にばっかり、気をつけろ気をつけろって…
なんでお前が…事故に遭うんだよ…！なんで気を付けなかったんだよ！
男、女に詰め寄る
男：…お前だろ！お前なんだよ！急にいなくなりやがって…
俺…何度言ったと思うんだよ？
誰もいなくなった部屋にただいまって何度言ったと思ってんだよ！
おかえりって…お前…いなくて、俺が…どんな気持ちで…
女：…ごめん
男：わかってんだよ！お前は悪くないって！でも…俺は…ずっと…
間
女：そっか…そうだったね、私、死んでるんだよね
男、顔をあげる
男：…覚えてないのか？
女：覚えてた…気もするけど、
今、あなたに言われるまで忘れてた
なんか色々わかんなくて…
男：うん
女：もっと、色んなことを覚えてたはずなのにな…
何を覚えてたのか…わからない
何を忘れたのかも…わからない
ただ…あなたに会いたい、っていうのと、
まだここにいたい、っていうのと、
あと…（軽く笑う）
男：どうした？
女：あなたと一緒
何気ない挨拶したり、ふざけ合ったり、
ご飯とかお風呂とか、そういう普通の生活に戻れたら、って…
あなたとの思い出は、ちゃんと覚えてる
…だから、あなたをここに呼んじゃったのかな
男：…だとしたら嬉しいよ、俺は
女：ごめんね、…死んじゃって
気を付けなくて、ごめんなさい
男：…いや、俺も悪かった…怒鳴ったりして
間
男：あのさ、いっこ、聞いていい？
…やっぱ死んだのかな、俺
女：…
男：でなきゃお前に会えないだろ？
女：それは…
男：教えて
女：…現場で仕事中に、資材が落ちてきて…
男：そっか…
うん、わかったよ、教えてくれてありがとう
男、また悪寒を感じる
男：…ちょっと冷えるな
女：あったかいお茶淹れようか？あっちに座って待ってて
男：そんなこともできんの
女：ここ、結構なんでもできるみたい
男：すごいな
女：まだ寒い？大丈夫？
男：（小さく笑う）
女：どうしたの？
男：そういうの変わらないな、体の心配してくれてさ
…俺もう死んでるのに
女：それでも心配なの…お茶淹れるね
男、再びテーブルにつく
女、台所に戻り、お茶を淹れる
女：はい、どうぞ
男：ありがと
男、お茶を飲む
女、向かい合って座る
男：すごいな、ホントに飲めるんだ
女：食べたり、お風呂入ったりもできるよ
男：へえ、何でもいけるんだな
あ、ちなみにさ、今日の夕飯何？
女：シチュー
男：白いの？黒いの？
女：もち、白いの
男：わかってるじゃん
女：わかってるさ
男：食いたいな、なんか寒いし
女：いつでも食べられるよ
男：じゃあさ、100g800円のチーズもつけてよ
女：あれは高いからダメ
男：なんだよ、なんでもいけるんだろ？
女：確かに…試してみようかな
男：なんなら、分厚い肉も、回らない寿司だっていけちゃったり？
女：それはどうだろ
一緒に食べた記憶があればいけそうだけど…
分厚いお肉とか回らないお寿司、食べたっけ？
男：…食べなかったっけ？
女：もしかして、別の人
男：ちがいます
女：永井さん
男：違うから、永井さん結婚してるからね
女：そうなんだー！
男：嬉しそうに…
女：まあ、分厚いお肉も回らないお寿司も記憶にないから出ません
男：…そっか
女：どしたの？そんなに食べたかった？
男：いや、もっと色んな美味しいもの一緒に食えばよかったなって
コンビニのアイスじゃなくてさ
女：何言ってんだか
じゃあさ、分厚いお肉と、私のシチュー、どっちがいい？
男：シチュー
女：ならいいじゃん
男：だな
二人、笑い合う
男：…にしても、懐かしいな、この部屋
あ、俺さ、引っ越したんだよ
女：そうだったんだ
男：ここにひとりは辛くてさ…お前いないし
女：…私は、ここの記憶しかないから
だからこの部屋なんだと思う
男：あれからずっとここに？
女：…うん
男：俺に会えて嬉しい？
女：嬉しい、すっごく
男：俺も嬉しい…これからはずっと一緒だな
女：…そうだね
男：一緒にできなかったこともやれんのかな
女：何かしたいことあったの？
男：旅行行きたかったなって、シンガポール
女：シンガポール？
男：そうだ…！聞いてくれよ！
やりたかった仕事！ようやく任せてもらえたんだ！
下積みから始めて何年だ…？色々勉強して、修行して、
免許もとって、先輩の仕事みて、真似て、失敗もして…
女：…うん
男：でも、お前がいなくなって、一度は諦めたんだ。もういいやって。
なのにさ、みんな待っててくれて…それで俺、頑張れた…
俺の仕事が海外に進出したんだぜ！すごいだろ！？
女：うん、良かったね、ずっと夢だったもんね
男：ああ！ずっと叶えたかった夢だ…まあ、もう死んじまったけどな
でもこっちで旅行できるんならさ、
お前に「これ、俺が作ったんだぜ」って見せてやることくらいは…
女：…まだ間に合うよ
男：なにが？
女：まだね、生き返れるよ
男：は？
女：今ならまだ…
間
男：俺…生死の境を彷徨ってる…ってやつなのか？
女：…うん
間
女：戻り方はね…
男：やめろ
女：聞いて
男：やめてくれ
女：聞いて！
間
女：ここから、出て行けばいいんだよ
玄関からさ、いつもみたいに「いってきます」って出て行けば、戻れるよ
男：もうここに…お前のとこに帰れないってわかっててか？
そんなの…嫌に決まってんだろ！俺は、ここにいたい！
女：…私は、戻って欲しい
だって、あなたの夢がようやく叶ったんだよ！
男：それはもういいよ
女：よくない
男：いいんだよ！
女：さっきあんなに嬉しそうに言ってたじゃない！
戻って、夢の続きを叶えて欲しい！
男：お前いないじゃん！
俺はさ、お前に見せたかったんだよ！
俺の夢が形になるところをさ！そこまでが俺の夢なんだよ
だから…お前がいなきゃ意味ないんだよ…
間
女：でも、私がいなくても頑張ってたんでしょう？
きっと私が見てると思って、頑張ってたんでしょう？
私、見てるから！ね！
男：嘘つけ…！
俺は、お前がそばにいるって、きっと見てくれてるって…
そう言い聞かせて、頑張ったんだよ…
ホントはどんだけ会いたかったか…会いに行きたかったか…
女：だからこそ、あなたに生きてて欲しい…
男：俺といるのは嫌か？
女：嫌なわけない！でも…！
男：俺もここに帰りたいんだよ！
男に強い悪寒が走る。思わず体を抱く。
男：…寒い…なんだこれ…
女：…あなたはまだ、繋がってるの…あっちと…
だから、今ならまだ間に合う…お願い、ここで戻らなかったら、あなた本当に死んじゃう
やり遂げたかったことを目の前にして、終わっちゃうの…
男：だからそれは…！
女：生きて…夢の続きを叶えて
私、こうやってあなたに会えただけで満足…きっと、向うに行ける気がする…
ありがとう…また会えて嬉しかった…だからあなたは生きて…
そしたらあなたもまた、いい人に出会えるかもしれないし…
それまでは見守ってるから！ちゃんと見てるから！やきもち焼かないから！
だから…お願い、行って…！
ここに帰ってきちゃ…だめだよ…
間
男：俺は…
女：いってらっしゃい
男、女の言葉を聞いて、立ち上がる、そのまま廊下に向かい男の姿は消える
女、それを黙って見送り、視線を落とす
※ 男性は「ただいま」か「いってきます」のどちらかを言ってください
女性は「ただいま」だった場合「おかえり」と応えてください
劇終
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