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ワタナベを探して

作 : 揚巻

 

(♂2 : ♀2 )

男1:真面目で不愛想。
男2:お調子者でムードメーカ。
女1:クールだけど世話焼き。
女2:おっとりでちょっとドジ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<声劇メモ>

・この台本は役の名前が決まっておりません。
 是非、演者さん同士の名前で呼び合って使って下さると嬉しいです。
 それはちょっと…という場合は、名前つきのものがこちらにありますので
 それをお使い下さい。

・名前の置換をする場合はCtrl + Aでこの頁を全選択したあとCtrl + Cでコピー
 テキストエディタ等にペーストした後、

 メモ帳やwordの場合はその後、「編集」→「置換」で「検索する文字列」に男1、
 「置換後の文字列」を演者さんの名前にすると、簡単に書き換えられます。
 よろしければご利用下さい。

 ※テキストは一度使うごとに処分して下さいますようお願い致します。

・使用前に一度更新(F5)お願いします。

・会話劇ですので、間は自由にとってください。

・アドリブも大丈夫ですが、演者同士意思の疎通がとれる範囲でお願いします。

・言い回しや語尾は変えて頂いて大丈夫です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 

    季節は冬。19時頃。
    アパートの一室に男1がいる。
    玄関のチャイムが鳴る。

 

男1:はーい

女1:わたしー

 

    ドア越しに女1の声。
    男1、ドアを開ける。

 

男1:よう、早かったな

女1:まだ私だけ?

男1:さっき駅着いたって女2からメール来た。男2も一緒だってさ

女1:あっそう、じゃ、おじゃましまーす

 

    女1靴をぬいで入る。

 

男1:だいぶ寒いだろ

女1:ホント、急に寒くなったよね

男1:朝晩特にな。着るもんに困る

女1:風邪ひかないようにしなきゃ…今休めないのよね

男1:社畜は大変だな

女1:ふんっ、…あ、これお土産。冷蔵庫入れといて

男1:なにこれ?

女1:ロシアンミニシュー

男1:は?なにそれ

女1:知らないの?!最近話題急上昇中!スリルたっぷり!ロシアンミニシュー!

男1:ロシアのシュークリームか?

女1:違う。ロシアンルーレット。ミニシュー10個のうち、1つに罰シュー入ってんの!

男1:ばつしゅー?何入ってんだ?

女1:塩辛とか

男1:げぇっ

女1:大丈夫、案外イケるから

男1:食ったことあんのか?

女1:まさか、今のところ無敗!

男1:食ったこともねえのにイケるとか言うな。…っていうかこんなもん、どこに売ってんだよ

女1:駅前におっきなワゴン車あるの、見たことない?

男1:…ああ、あれか

女1:ガチで人気なのよ?みんなでわいわいするとき盛り上がんの

男1:よくわからん

女1:アンタ、シュークリーム好きだったじゃん

男1:は?

女1:中学の卒業文集に書いてたでしょー「好きな食べ物:シュークリーム」

男1:書いたか…?

女1:うん

男1:覚えてない。…っていうかよく覚えてるな

女1:いや…別に覚えてたわけじゃないし!名簿と一緒に出てきたから…偶然見ただけですー!

男1:なるほど

女1:ねえ、なんか飲むもんある?

男1:ない

女1:じゃあ座る前に買ってくる。何がいい?

男1:俺は何でもいい。…あ、酒は買うなよ

女1:わかってるってー、じゃ、いってきまーす

 

    女1、財布だけ持って出ていく。

 

男1:…ま、あいつなら大丈夫か…

 

    男1、ロシアンミニシューを冷蔵庫に入れていると、またチャイムが鳴る。
    ドアを開けながら言う。

 

男1:なんだ、忘れものか?

女2:やっほー!

男2:よう!

男1:お前らか

男2:忘れ物かって…、女か!女がいるのか!?

男1:(溜息)女1だよ。コンビニ行ったの

男2:付き合ってんのか?

男1:地球最後の男女になってもそれはない

女2:私は?

男1:お前な…

男2:俺は?

男1:流れで聞くな。っていうか寒い、さっさと入れ

男2:おじゃましまーす

女2:あ、これお土産

男1:お、ありがと。…ん?この袋…

女2:ロシアンミニシューだよ!最近話題急上昇中!スリルたっ…

男1:女1も同じの買ってきたんだけど…

女2:ああ、それなら大丈夫!

男1:なにが?

女2:女1とは違うコースだと思うから!

男1:…コースあるの?

女2:うん、えっとね、いコースと、ろコースと、はコースと…

男2:いろはとは渋いな

女2:にコースと、ほコースと…

男1:え、いくつあんの?!

女2:へコースと、とコース

男1:…

女2:私は、にコースと、とコースだけど、たぶん女1は違うと思う!

男1:なんかどうでも良くなってきた。おい、さっさとはじめるぞ

女2:せっかく買ってきたのに!並んだんだよ!

男1:並ぶのか?これに?

男2:俺も思った。でもホントに行列できてんの

男1:へえ、…お前も並んだの?

男2:だってこいつが一緒に並べって言うから

女2:男2だけ並ばないとかずるい

男2:え、ずるいの意味がわからない

男1:わざわざねえ…

女2:そうだよ!並んで買ったのに!

男1:あー、…わかった。アリガトウ

女2:ふふん!どういたしまして!

男1:まさか酒、持ってきてねえだろうな

女2:持ってきてないよー

男1:ならいいが。おい男2、お前も持ってきたり…

 

    男2、こたつに無理な姿勢でもぐりこみ、首だけ出している。

 

男2:はああ…仕事で疲れた体に、こたつの暖かさが染み渡る…

男1:…男2、こたつで寝るな

女2:あーいいなあ

男1:起きろ。俺は徹夜する気はないからな。さっさと済ませて、お前らは終電で帰れ

女2:私、お泊りセット持ってきたよ、ほら!歯ブラシ!

男1:は?

男2:俺も愛用の枕持ってきた、あと、歯ブラシー!

男1:おまえらな…

 

    再び玄関のチャイム。

 

男1:はいはいー!

 

    女1戻る。

 

女1:ただいまー

女2:あ、おかえりー

男2:よお!

女1:やっほー

男1:おい、こいつら泊まる気で来たらしいぞ

女1:だから?

男1:だから?いやいや、俺は泊まりなんて…

女1:(無視して)はいはーい、飲み物配るよ。女2はミルクティでしょ

女2:あー!ありがとう!

女1:で、男2はコーラ

男2:ビールじゃねえの?

女1:てめえの店から持ってこい。お中元解体セールの残り、倉庫にあるでしょ

男2:なんで知ってんのコワイ

女1:あ、そう、コーラいらないわけねー!

男2:いります!ください!

女1:で、男1は何でもいいって言ってたから…はい、おしるこ

男1:…

 

    男1、女1が歯ブラシセットを持っているのに気付く。

 

女1:なに?甘酒が良かった?

男1:いや、言いたいことは色々あるけどさ、まずお前が手に持ってるの、何?

女1:あ、これ!?じゃーん!マジカルサイダー!【飲むたびに味が変わる!】ってちょっと楽しくない??

男1:それもまず置いとこう、そうじゃなくて左手に何持ってんだ

女1:歯ブラシ

男1:まさかお前も泊まる気じゃないだろうな

女1:だって、どう考えても終電前に終わる作業じゃないわよ?

男1:資料を揃えてくれればいい。後は俺がやるから

女1:また水臭いこと言っちゃって

女2:そうそう、私たちが最後までお手伝いするよ~

男1:逆に時間がかかるような

女2:なによう!

男1:…わかったわかった。まずは男2を起こせ

女1:あ、寝てるし…ちょっと男2、起きなさいよ

男2:…(目を閉じている)

女1:起きないんだけど

女2:起きないね

男1:起きなきゃバーナーで焼くぞ

男2:どうぞー

男1:わかった、おい女1、流しの下のバーナー持ってこい

女1:バーナー持ってんの?

女2:流しの下にあったよ!

女1:へえ、見てこよ

 

    女1、台所へ行く。

 

男2:ふっふっふ…俺はそんな嘘に騙されないぜ…
   一般家庭の、しかも滅多に料理もやらない独身男の家に
   バーナーなんてあるはず…

 

    女1、バーナーを持って戻ってくる。

 

女1:ねえ、これ?

男1:ああ

男2:え、ちょ!待って!

男1:焼け

女2:やけー!

女1:男2、お覚悟

男2:あーあーあー!起きました!

男1:よし、始めるぞ

男2:こええ…

女2:えーやかないの?

男2:オマエが一番怖いわ

女1:っていうか、バーナーとかなんで買ったの?

男1:あぶり焼き用に買った

女1:カツオ?サーモン?

男1:クリームブリュレ

女2:一番なさそうなところきた

男2:使ったのか?

男1:まだ使ってない。だからオマエで試そうかと思って

男2:試さないで!あと真顔で言わないで!

女1:はいはいはいはい、はじめるわよー!座ってー

 

    男1と女1もこたつに入り、4人が顔を突き合わせる。各々バッグから色々出す。

 

女1:えーっと、…じゃあまずはー、今連絡取れる人をあげていってー、で、実際連絡して…

男2:なあ、もっと生徒会みたくしようぜ

女1:はあ?

男2:だってなんか懐かしいじゃん、こういう会議?みたいなの?中学以来!

男1:お前な…

男2:いいじゃんいいじゃん!やろうぜー!

女1:アンタね…

女2:私もききたーい!

女1:(溜息)…ではこれより、二中生徒会、臨時会議を開催いたします

男1:やるのか…

男2:いよっ!敏腕書記!

女1:元ね。えー…今回の議題は「同窓会出欠確認に伴う【連絡先一覧表】の作成について」です。

   皆様、各自持ち寄った資料の掲示をお願い致します。

   尚、作成に伴い、あらかじめ卒業アルバムの連絡先より一覧表(仮)を準備しております

女2:かっこいい!

 

    間。

 

女1:じゃ、男1、あとの説明よろしく

男1:はあ?俺もやんの?

男2:よっ!生徒会長!

男1:元な。…ったく。
   では連絡先一覧表(仮)をまわしていきます。年賀状やその他の付き合い等で連絡先を知っている場合は
   各自追加の記入をお願いします。記入が終わりましたら一覧表(仮)の確認作業を行います。
   全員、連絡先を知らない場合は、連絡が取れそうな人を経由して調べるか、実家に連絡します。
   ここまでで、何か質問や意見はありますか

女2:異議なーし!

女1:会長、ありがとうございます

男1:なんで俺まで…

女1:よし!誰から書く?私の分はもう書いてるから

男2:俺からやる!

女1:はい、どーぞ

 

    女1、男2に一覧表を渡す。

 

男2:えーっと、これと、これと…よし、終わり!

女1:え!?もう?!

男2:俺、あんま連絡取ってる奴いねーもん

女2:人気ないんだねー

男1:おい女2、本当のことを言うな

男2:おまえらな…

女2:じゃあ次!私ねー!

 

    女2、一覧表にかきはじめる。

 

男2:…にしてもさ、ハンちゃんも困ったもんだよなあ

男1:そうだな…俺、先生に会ったの中学卒業以来だったわ

女1:私も!それが…居酒屋で偶然ばったりとかねー

男2:今も4人で遊んでるのか?ってな

女1:あの頃はそこまでつるんでなかったよね?

男1:お前たちを見ていると懐かしくなるなあ…って話から

男2:同窓会しよう!!お前たち幹事な!!…とかさ

男1:高校の同窓会ならわかるが…中学はなあ…

女1:おとなしい顔して、昔から無茶ぶり多かったよね、ハンちゃん

男2:そういえば、前から気になってたんだけど、なんでハンちゃんなんだ?

男1:板坂(いたさか)先生か?

男2:ああ。なんかみんな呼んでたから俺もなんとなく呼ぶようになったけど

男1:女2だよ。あだ名付けるの好きだったからな

男2:おかしなやつ多かったよな

 

    3人、女2をみる、女2書くのに集中している。

 

男1:何も言ってこない…

男2:コイツ、なんかやってる時はいつもこうだぜ。悪口言っても聞こえてねえから

女1:ねえねえ、アイちゃんって覚えてる?

男2:あー覚えてる!…けど、名字なんだったっけ

女1:渡(わたり)

男1:渡(わたり)ってアイって名前だったか?

女1:ううん、祥子

男2:なんでアイなんだ?

女1:この子、渡(わたり)さんのこと渡(わたし)さんって呼んでたのよ

男1:ああ…だから、私=Iでアイちゃんか…

男2:あの頃は、なんの疑問もなくあだ名で呼んでたなあ…

女1:男1は、名字で呼んでたよね、私たち以外

男1:ごちゃごちゃしてくるからな。基本名字だ

女2:書けたー!次誰?!

男1:うん、俺しかいない

女2:はい、どーぞ!

男1:えっと、残ってるのは…

 

    男1、一覧表に書いていく。

 

男2:なあ、なんでハンちゃん?

女2:先生?

女1:うん

女2:イタタカ先生ってどっちの漢字にも、反対の「反」の字が入ってるでしょ。

   だからハンちゃん。(※イタタカは誤字ではありません)

男2:なんだって?

女2:だから、イササカ先生の字に反の字が入ってるからハンちゃん。

   わかった?(※イササカは誤字ではありません)

男2:…

女1:…

女2:まだわかんないの?にぶいなあ。じゃあ紙に書くー

男2:いや、わかった。すまん

女1:ごめん

女2:わかればよろしい!

 

    男2と女1ひそひそと。

 

男2:(あいかわらず発音甘いんだな、女2)

女1:(いまだにイタサカが言えないのね…)

男2:(サザエさんか!ってツッコミたいけど…いいか?)

女1:(余計なことすんな)

女2:ねぇ、男1、できた?

男1:まだだ…女1に遊んでもらえ

女2:はーい

女1:男2に遊んでもらいなさあい

男2:俺はお守り担当じゃねえぞ

女2:ねえ、ロシアンミニシュー食べようよ

男2:はああ?

女2:ローシーアーンーミーニーシュー!たーべーよーうーよー!

男2:あのなあ…

女1:ちょっと、しっかりお守りしてよ、アンタそのために来たんでしょ

男2:彼氏でもねえのに何で俺が…!

女1:手ぶらで来ておいて、なんか文句あんの!?

男2:わかりましたよ!持ってくりゃいいんだろ…

 

    男2、ブツブツ言いながら席を立って台所へ。

 

男1:理不尽だな…まあ、俺じゃないからいいが

男2:(台所から)聞こえてるぞ!

女2:ねえねえ、女1は何コース買ったの?

女1:私は、いコースと、ろコース…

女2:(男1に)ほらね!被ってないでしょ!

男1:ああ、そうだな

 

    男2、戻ってくる。手には4つの袋。

 

男2:ほらよ、好きなの食え

女2:やったね

男2:まったく…

 

    女2、袋を前に腕を組む。

 

女2:うむむむむ

女1:なに、どしたの

女2:ねえ、男1、大きなお皿なかったっけ?

男1:ない

女2:えー

男1:一人暮らしの男の家に大皿なんてあるわけないだろ

女2:あ!前に鍋パーティしたときの土鍋は?

男1:あーあったな、確か…

女1:台所のキャビネットよ。鍋パの後、私、しまったから

女2:よし!取ってくる!

 

    女2、席を立って台所へ。
    台所から「ここかなあ」といった何かを探す声。

    ほどなく、鍋や何やらが落ちる盛大な音。
    女2の何ともいえない情けない声が聞こえてくる。

 

女2:ふぁああぇぇぇああ~

 

男1:(溜息)

男2:(溜息)

 

    女1、男2を睨む。

 

男2:だからなんで俺なんだよ!

女1:とっとと行きなさいよ

 

    男2、ブツブツ言いながら台所へ。

 

男1:あいつら、何しに来たんだ…

女1:昔から気持ちだけはあるんだけどね。にしても…

男1:ん?

女1:そっちこそ、相変わらずね

男1:なにが

女1:仕事とかさ、大丈夫なの?しょいすぎてない?

男1:何だよ急に、オーバーだな

女1:『資料を揃えてくれればいい。俺やるから』とかさ

男1:オマエも似たようなもんだろ

女1:アンタほどじゃないわよ

男1:…ま、クセみたいなもんだな

女1:クセは性格になるわよ。たまには頼ったら?

男1:お前も変わんねえな

女1:アンタに言われたくないんですけど

 

    一覧表を書いていた男1の手が止まる。

 

男1:…なんか前にも同じことを言われたような…

女1:え?

男1:たまには頼ったら…って

女1:へえ、アンタにそんなこと言えるオンナいるんだ

男1:なんで女限定なんだよ

女1:べつに~。いいんじゃない?

 

    男2と女2戻ってくる。男2の手には土鍋。

 

男2:なんで流しの下から土鍋取るだけなのに、あんだけ散らかせるんだよ!

女2:なんか色々出てきた

男2:出したんだろ!

男1:おい、ちゃんと元通りにしたんだろうな

女2:ばっちり片付けたよ

男2:俺がな!

女1:で、その土鍋で何すんの?ミニシュー煮るの?

女2:煮ない!

男1:バーナー貸そうか?

女2:焼かない!こうするのだー!

 

    女2、土鍋にミニシューを次々入れていく。

 

女2:これで公平!

男1:土鍋にシュークリームの小山…

男2:シュールな光景だ

女2:じゃあ…いっただっき…

男1:あ、俺終わった

女2:えー!

女1:じゃ、始めるわよ。…男2、これ(土鍋を指さして)冷蔵庫にしまって

男2:また俺かよ!

女1:しまって

男2:なんだよもう…

 

    男2、土鍋を抱えて台所へ。

 

女2:ああああーわたしのみにしゅーーー

女1:よしよし、あとでね

男1:終わったら煮るなり焼くなり好きにしていいぞ

女2:煮ないし焼かない!

女1:じゃあ、まずは誰が誰に連絡するのか確認ね

女2:はあい

女1:まずは私が相川さん、高橋くん、手塚くんと平野くん。
   で、女2は、佐々木さん、鈴木さん、中川さん、林くん、森川さんね

女2:らじゃらじゃ

 

    男2、戻ってくる。

 

男2:うーさっぶ!

女1:あ、男2は井上くん、中野くん、横山さん

男2:らじゃらじゃ

女2:あーマネしたーそれにすくなーい!

女1:友達いないのよ、察してやりなさい

男2:女1!お前だって少ねえじゃねえか!

女1:私はこれを取りまとめてんのよ?アンタ他に何かしてんの?

男2:すみましぇん

女1:で、男1は上田さん、加藤くん、川上さん、田中さん、松本さんと…松本さん、森山くん、山田くん

男1:わかった

男2:女子ばっか!!モテ男め!

男1:うるさい

女1:…じゃあ、丸のない人挙げていくわね。連絡先知ってそうな人に心当たりあれば言って。
   いないなら、私が実家に連絡するから。えっと、まずは…坂本くん

 

    間。

 

女2:あ、ササモチが知ってるかも

男1:ササモチ…

男2:佐々木だな

女2:うん、同じ大学だから

女1:じゃあ女2お願いね

女2:らじゃらじゃ!

女1:次は、谷くん

 

    間。

 

男1:…松本なら知ってるかも

女1:どっちの?

男1:涼子

女2:付き合いあるの?

男1:中学の頃こいつら付き合ってた

男2:へー

男1:へーじゃねえだろ。お前が険悪にしたくせに

男2:俺が?なんで?!

男1:お前らケッコンしたら谷涼子だなー!背負い投げとかしそう!って

女1:うわー

男2:…俺、そんなこと言ったっけ??

男1:お前のその発言で別れ話に発展した

女2:え!で、どうなったの!?

男1:谷が『俺が婿になるよ!』でおさまった

女1:男2ひどーい

男2:もう時効だ!!

女2:ひどーい!

男1:おい、話がそれてるぞ

女1:あ、そうだった。じゃあ男1、松本涼子経由でよろしく

男1:ああ

女1:で、次は姫野さん

男2:ぐはあっ!!!

女1:え

男1:え、なに

男2:ひめの…さん…

女2:なになにー?

女1:連絡先知ってんの?

男2:しら、ない…

男1:なんだそれ

女1:紛らわしいわね

女2:姫野さん、初恋だったりして!!

男2:ぐはあぶぁあっ!

女2:姫野さんかわいかったもんね!

女1:ぶりっことも言うけど

男2:お前!姫野さんを悪く言うと承知しねえぞ!

女1:はいはいゴメンナサイ。で、連絡先は知らないわけね?

男2:残念だが…

女1:めんどくせえ…

男1:加藤が知ってんじゃないのか?付き合ってたし

男2:はいい!?!

女1:へー、そうなんだ

男2:いつ?!中学の時?!!

男1:ああ

男2:知らなかった…

女2:失恋だねえ、男2かわいそう

男2:うるせえよ!

女1:じゃあ男1、加藤くんに聞いてもらえる?

男1:わかった

男2:(溜息)

女1:次は村上くん

 

    間。

 

女2:もしかしたらマリリンがわかるかも

男1:マリリン…

女1:森川さんね、接点あるの?

女2:同じ町内!

女1:じゃあ聞くだけきいてみて?

女2:らじゃらじゃ!

男2:おまえ、それ言いたいだけだろ

女1:で、ラストが渡(わたり)さん

女2:アイちゃんなら、二中にかけたらいんじゃない?

女1:は?わたしらの?

女2:そう、アイちゃん、先生してるから

男2:へー!すげえな

女2:だから学校にかけたら確実にいると思うよ

女1:私用電話いけるのかな

男1:俺かけるよ

女1:いいの?

男1:ああ、…ま、この時間じゃいないだろうし、明日かな

女1:私しようか?

男1:別に電話くらい、いいよ

男2:にしても、男1は女子の連絡先いっぱい知ってんな!

男1:ほとんど合コン

女1:なるほど

男2:えーーー!俺は!?

男1:うるせえ

女2:私は?!

男1:ノリで言うな

男2:なんで合コンする流れになったんだよ、男1ばっかり!

男1:俺というより、俺の会社と合コンしたかったんじゃないの?

女2:おほー辛辣ー

男2:さりげないモテ発言…!

男1:めんどくさいだけだろ

女2:ねえねえ、お店どうするの?

女1:まだそこまで考えてない

男2:横山に聞いてみようか?

女1:横山さん?なんで

男2:レストランやってんだよ。結構美味いの

男1:へえ

女2:私たちの歳で店とかすごいね!

男2:だから、同窓会用に貸し切りとかできねえかなって思って

女1:じゃあ聞いて貰っていい?最大で30人いけるかどうか、…まあそんな集まんないだろうけど

男2:オッケー!

女2:ねえねえ、なんのレストラン?

男2:イタリア…スペイン??でもそんなに高くねえんだって

女2:わー!おっしゃれー!

女1:じゃあこれで全員ね。確か全部で30人だったから私たちをいれて合ってれば問題なし!

男1:意外とスムーズだったな

女2:ねー

男2:店も横山のとこで決まればサックサクなんだけどな

女1:…あれ

男2:お、どした?

女1:25人しかいない。私達抜いて

男1:誰か飛ばしてるのか?

女1:卒アル丸写しだからそんなことは…29人だったっけ?

男2:いや、30人だった

女1:そうよね…春の運動会でハチマキ30作ったもん

男2:え、あれお前の手作りだったの?

女1:うん

男2:え、一人で?30?

女1:やるのやらないのメンドクサかったから、はいはいやります、ってなっただけ

男1:はい、お互いさま

女1:うるさい。1人抜けてるのかなー確認したつもりだけど…

女2:あ!ナベちゃんじゃない?

女1:え?

女2:だから、ナベちゃんが入ってないからじゃない?

男1:ナベ…

女2:ほら!いたじゃん!3年の1学期にきた転校生!

 

    しばらくみんな考え込む。

 

女1:…あ

男2:あああ!

男1:いたな…

女2:そう!ナベちゃん!

女1:じゃあ、ワタナベ…?

男1:まあ、そうだよな

男2:それ以外ないよな

女2:1学期だけで転校しちゃったもんねーだからちょっとしかいなかったけど

男1:ああ…

女1:そうだったわねー、思い出した

男2:俺も!はっきり!

女2:ねえ、ナベちゃんも呼ぼうよ

男1:いや、無理だろ

女2:なんでー

女1:あのね、普通に考えて、誰一人連絡先わかんないんだからさ、転校してるわけだし

女2:あーそっかー!いい奴だったのになあ、ナベちゃん

女1:はいはい!とりあえず、ナベちゃんはおいといて。まずは連絡が先。
   今からかけていきましょ。私たちもそうそう集まれないし、できることはさっさとね

男2:ういー

男1:できれば日程の候補も決めたいけどな…まずは連絡がとれるかどうか確認してからだな

女2:私、隣の部屋借りるねー!

男2:じゃあ俺ここー!

女1:ここは私

男1:男2は台所行け

男2:さみーだろ!!

女1:貴様は女を寒いところへ行かせて、てめえ一人だけぬくぬく過ごすゲス野郎だったのか…?

男2:ひどい言い方!

男1:俺は寝室行く。あんまり長電話するなよ、用件のみでさっさ頼む。

   ここに一覧表置いとくから終わったら書き込め。以上

 

    各々返事をしてから散開していく。
    しばらくの間、誰かと話している声があちこちから聞こえている。

 

    間。

 

    女1、こたつで丸まっているところへ、男2が戻ってくる。

男2:だーーー寒っー!!

女1:おつ

男2:ぬくぬくしやがって…そっち終わったのかよ

女1:終わってた

男2:はあ?

女1:ここ来る前に終わってたー!

男2:はあ?はあ??だったら俺がここで連絡して良かったんじゃねえの!?

女1:あーぬくい

男2:てめえ…!

女1:で、そっちは?

男2:(小声で)覚えてろよ…

女1:そっちは!?

男2:はい!井上、中野おっけーであります!横山は連絡ついてないけど、留守電入れてます!

女1:うむ、ごくろう。こたつに入るがよい

男2:このやろう…(こたつに入る)あーーーあったけええーー

女1:あー…一服したい

男2:ここで吸ったら殺されんぞ。ベランダ行けば?

女1:外寒いから我慢する

男2:ま、確かに

女1:男2、煙草やめたの?

男2:たまーに吸ってるかな。ストレス発散に

女1:あー、そういうとき欲しくなるもんねー

男2:お前、酒は?控えてんの?

女1:んー、まあね、…なんで?

男2:親父がさ、女1ちゃん来ないけど引っ越しでもしたのかって

女1:あはは。おじさん元気?

男2:悠々自適だよ。ま、この仕事しんどいからな、早めに引っ込んで良かったんじゃねえの

女1:おじさんいるほうが良かったなあー酒代まけてくれたし。…男2はぜんぜんまけてくんない

男2:その腹いせに柿ピー持っていくだろうがよ。あれ、万引きだからな

女1:社長が見てる前だからセーフ

男2:セーフじゃねえよ、こんなときばっか社長とかいうな。店つぶす気か?

女1:つぶさないわよー売上に貢献してるでしょ?

男2:柿ピー持ってかれたら意味ないんですけど

女1:つけといて

男2:おっさんかよ

女1:じゃあ今度、ビール配達してもらおうかなー、浴びるように飲みたい

男2:…なんか、あったのか

女1:え、なんもないけど

男2:そうか、いや、お前が飲む時って、悩んだり、落ち込んだりしたときだから、さ…

女1:…

 

    間。

 

男2:まあ、何もないならいいんだ

女1:親子で心配してくれるんだ

男2:べつに

女1:だったら…お歳暮ちょうだい!ビール3種詰めあわせ!

男2:うるせえ

女1:解体セールの残りでいいからあ。…燻製おつまみセットもあったよね?

男2:だからなんで倉庫の中身知ってんの?

女1:ふふー内緒

男2:それ女2じゃん

女1:うん、女2の口癖、マネしてみた

男2:お前が言うと怖いわ

女1:ふふふ

 

    間。

 

女1:…でさ、横山さんの料理、いつ食べたの

男2:あ?なんだ突然

女1:さっき、結構美味いって。レストラン行って食べたの?

男2:ああ、配達だよ。ワイン。そんとき「おおー久しぶりー」ってなって、休憩時間だったからちょっと喋った

女1:へー

男2:で、新メニューの試作?とかなんとかで時々食わせてもらってるんだけど、それがまた美味いんだよ

女1:ふーん、そう

男2:…なんだよ

女1:べつに、…携帯、鳴ってるんじゃないの?ブーンって聞こえるけど

男2:お!横山だ!んじゃな

 

    男2、台所へ行く。

 

女1:…ここで喋ればいいのに

 

    隣の部屋から女2がくる。

 

女2:終わったー

女1:あ、おつかれ、どうだった?

女2:バッチリ!あとはぬくぬくミニシューたーいむ!

女1:心ゆくまでどーぞ

女2:女1はどうだった?

女1:ん、こっちも終わった。男2ももうすぐ終わるんじゃない?

女2:そっかー。ふふ。なんかさー、みんなに会えるとか、懐かしいよね

女1:卒業以来だもんね

女2:ナベちゃんもいたらいいのになー

女1:ナベちゃんね…

 

    間。

 

女1:…女2、そのことなんだけどさ…

 

    男2、台所から戻ってくる。

 

男2:横山参加おっけーだって!

女2:おーやったね

男2:店は立食だったら30いけるかもってさ。
   仕入れとかあるらしいから、スケジュール確認してもらってる

女1:そ、ありがと

男2:女2、もう終わったのか?

女2:おわったー!

男2:ぼーっとしてるくせにこういうのは早いんだよな…

女1:女2は結構しっかりしてるわよ。言動はちょっとアレだけど

女2:ほめられたー!

男2:前半は褒めてるけど、後半は違うからな…(携帯がなる)っと、きたきた
   もしもし?何度もごめんなー、え?そうなの?…(楽しそうに笑いながら台所へ)

 

    間。

 

女1:…

女2:どしたの?

女1:ねえ、いいの?

女2:ん?

女1:男2、横山さんと結構仲良さそうよ

女2:へえ

女1:さっき、姫野さんがどうとか言ってたし、いいの?

女2:なにが?

女1:なにがって…別に、いいのかなあって思ったから…

女2:女1さ、私が男2のこと好きって、思ってる?

女1:え

女2:だって、何かっていうと男2を呼ぶから

女1:…

女2:女1?

女1:…前に、…男2とずっと一緒にいられたらな…って言ってたから…

女2:えー!そんなこと言った!?

女1:言ったよ!夏に4人でドライブ行った時!

女2:んー…あ!言ったね!言った!

女1:うん。だから、女2がそう思うなら…何かできないかなと思って…

女2:だからかあ!なんでだろーって思ってたの!…でも違うよ?

女1:…違う?

女2:あれね、男2とは言ってないよ?

女1:え、いや、だって車の中で…

女2:違うんだなー

女1:じゃあ、誰の事…

女2:あのとき私がそう言ったのはねえ…

 

    間。

 

女2:ふふー内緒!

 

    間。

 

女1:…そう

女2:…女1は人の心配ばっかり。男1みたい。しょい込みすぎてないか心配だよ?

女1:私はアイツ程じゃないわよ。…そりゃ昔は似たようなとこあったけど、今は違う

女2:そうかなー

女1:そうよ。似てません

女2:なんでもバリバリできて、二人ともかっこいいけどなあ

女1:…私は、男1みたいに何でもパパっとできない、…悔しいけど

女2:くやしい?

女1:あー、いい。忘れて。こんなこと言ったって仕方ないし

女2:本音言わないとこも似てる

女1:そんなに私と男1を似せたいの?

女2:似せたいんじゃなくて、似てるなあって。思い込みが激しいとこも

女1:私は別に思い込んでなんて

女2:私ね、彼氏いるよ?

女1:え

 

    間。

 

女1:…いつから

女2:三ヶ月くらい前かな。今日、女1に言おうと思ってたの

女1:そう…

女2:お祝いしてくれる?

女1:…もちろんよ、良かったね

女2:うん、ありがと!…だから、いいんだよ?

女1:…なにが…?

女2:無理しなくても

 

    間。

 

女1:女2…私は…(携帯が鳴る)…え?知らない番号…

 

    男2、戻ってくる。

 

男2:あ、それ横山。お前の番号教えた

女1:ああ、そう…

男2:俺、詳しいことわかんねーからさ、直で話してよ

女1:…わかった、隣行く

 

    女1、隣の部屋へ行く。

 

男2:…ここで喋りゃいいのに

女2:ん?なに?

男2:別に。…あー終わった終わったー!

女2:おつかれちゃん!

男2:…なんかあったのか?

女2:なにがー?

男2:暗い感じだったから

女2:なにもないよ?

男2:そっか

女2:彼氏できたって言っただけ!

男2:へーおめっとさん

女2:ありがと!

男2:…なるほどね

女2:なに?

男2:…いや、いいの?

女2:これでいいのだ

男2:そっか、ならなんも言わね

女2:ねえねえ、お祝いに、土鍋とってきてよ!

男2:てめえで行け

女2:むー!女1ー!男2がいじめるー…!

男2:わー!わー!わー!わかったって!!

女2:ホント、男2は女1に弱いねえー

男2:はいはい、取ってくりゃいいんだろ

 

    男2台所へ再び戻る、女2ペットボトルのミルクティーを飲む。

 

女2:くはーうまい。やはり冬は激甘ミルクティーに限りますな!

 

    女2、女1が買ってきたマジカルサイダーをジロジロとみる。

 

女2:マジカルサイダー…飲むたび味がかわる…!これは、飲んでみるべきよね…!

 

    女2、マジカルサイダーを一口飲む。

 

女2:おほ…!これは(お好きな味)味…!美味しい!もう一口!!

 

    女2、マジカルサイダーをさらに一口飲む。

 

女2:げへっ…(嫌いな味)味になったあ…うえええええええ、ミ、ミルクティィィを…!

 

    男2台所から土鍋を持って戻ってくる。

 

男2:ほらよ…って、何やってんの

女2:ミルクティがぶ飲みしてた

男2:腰に手あててか?風呂上がりじゃねえんだから

女2:あーミニシュー!!ありがと!

男2:なあ、これはずれ入ってるんだろ?塩辛とかなんとか

女2:うん、罰シューね!

男2:ばつしゅーあたれ!あたれ!

女2:いっただきまーす

 

    女2、一つを頬張る。

 

女2:んふー、チョコおいしい

男2:ちっ

女2:次は男2ね

男2:いらね

女2:ひとりで食べてもつまんないじゃん!

男2:みんな戻ってからでいいだろ

女2:ねえ!食べなよお!!

男2:あーわかった!食えばいいんだろ食えば!

 

    男、適当にひとつ口に放る。

 

男2:…お、うまい、カスタードか

女2:でしょー

男2:へー、うまいもんだな。ロシアンとかやらないで普通に売りゃいいのに

女2:それじゃあ、スリルとサスペンスが足りないじゃないの

男2:シュークリームにスリルいらねえだろ。…ちなみに【ばつしゅー】って何が入ってんの

女2:女1が買ってきたのには、イカの塩辛と、カラシ

男2:うげ

女2:で、私が買ってきたのには、おろしにんにくと豆板醤

男2:げええええええ!

女2:オーバーだなあ

男2:俺…豆板醤苦手…

女2:そうだっけ?

男2:食えないわけじゃないけどさ…子供の頃はぜんっぜんダメ。
   …豆板醤にカスタードとか…うぇ、絶対吐く

女2:ふうーん

 

    女2、シュークリームを食べる。

 

女2:むふふーストロベリー

男2:あ

女2:どしたの

男2:ナベちゃん。…ワタナベ

女2:ん?

男2:豆板醤の話で思い出した。

   …ほら、家庭科の調理実習で麻婆豆腐、作ったろ?本格四川流なんちゃら~ってさ

女2:うんうん、作ったね!あれ美味しかったなあ!

男2:ワタナベさ、すげえ料理上手で。俺らの班が一番人気よ

女2:いいなあ。美味しかった?

男2:…いや、俺食ってねえの。豆板醤嫌いだったからさ

女2:そっか

 

    女2、シュークリームを食べる。

 

女2:ああ~バナァナァ~

男2:俺の分もアイツ食べてくれてさ。…せっかく作ってくれたのに、悪かったなって思ったの思い出した

女2:ナベちゃん、何か言ったの?

男2:なんも。中野とか森山が、食え食えってからかってきたけど
   ナベはそんなことなかったなあ…『誰にだって苦手はあるよ』って言ってさ…
   優しい奴だったよ…あんな早くに転校するんならさ、頑張って食っておけばよかったな

女2:いつもニコニコしてたよねえ、ナベちゃん

男2:そうそう。料理好きならいつかここで店出せよ!って言ったらすっげえニッコリしてさ。
   コイツ、こんな風に笑うんだな、って思ったなあ。…お前は、なんか覚えてねえの?ワタナベのこと

女2:んー…あ、あだ名つけたの喜んでくれてた!

男2:ナベちゃんって呼んだの、やっぱお前か

女2:うん!なんかね、そんな風に呼ばれたことないから新鮮で嬉しい!みたいなこと言ってた!

男2:ワタナベだからナベちゃん、か…お前にしてはこう、素直なネーミングだよな

女2:なに、素直って

男2:なんとなく

女2:へーんなの!

 

    女2、シュークリームを食べる。

 

女2:んん~かすたあどお~

男2:…そんな食ってて罰シュー当たんないの?

女2:あたらないよ?

男2:あっそ

女2:男2も食べなよー

男2:罰の割合が高くなってるからいやだ

女2:あはは!ちいさい!

男2:うるせえ!

女2:大丈夫だよーほら!

 

    女2、シュークリームを突如男2の口に入れ込む。

 

男2:ぐふっ!!

女2:ねー!美味しいでしょ!

 

    男2、むせて派手にせき込む。

 

女2:あれ?あたった?

男2:(むせる)てめえこの!!

女2:なになに?なにがきた?!

男2:嬉しそうに(むせる)言ってんじゃねえよ!

女2:だからあ、なにが入ってたの~??

男2:(むせながら)わさびだよ!わさび!!

女2:わさび?

男2:てめええ!わかってて食わせたんだろ!?ああ!?

女2:わさび?

男2:そうだよ!わざとだろ?!

女2:わさび…?

男2:…う…なんだよ…

女2:なんでわさび…?

 

    女1となりの部屋からやってくる。

 

女1:…なにやってんの

男2:女1…!助けてくれ…!

女1:え、いやだ

男2:てめえ…

女2:女1…

 

    女1、女2の異様な気配に気が付く。

 

女1:…どしたの?

女2:女1が買ってきたのって、いコースと、ろコースだよね?

女1:う、うん

女2:私は…にコースと、とコース…なんで、わさびがはいってるの?

女1:わさび…え、女2、わさび当たったの?

男2:当たったのは俺!!

女1:ならいいけど

男2:良くねえよ!!

女2:なんでわさび…

女1:確かわさびって…はコースか…にとはを間違えたんじゃないの?

女2:そんなことない…チョコもカスタードも食べたもん…

女1:罰シューだけ間違えたのかな

女2:そんなの…職務怠慢じゃない?!!!?

男2:…え?

女2:職務怠慢!職務怠慢よ!!!

女1:女2…、…落ち着いて、ね…?

女2:よりによって商品の一番の盛り上がりどころ!
   クライマックスを間違えるなんて!怠慢よ!!

男2:(罰シューってクライマックスなのか?)

女1:(しっ!!)

女2:なに?!

男2:な、なんでもありません!!

女2:私!抗議してくる!!!

女1:抗議って…今からお店に行くの?

女2:そう!

女1:女2、…もういいじゃん?ね?全部罰シューだった!ならわかるけど…

女2:ううん!行ってくる!こういうのはね!しっかり言っておかなきゃだめなの!!!

 

    女2、こたつから出るとコートを着込み、のしのしと玄関へ歩いていく。

 

女1:ちょっと!ホントに行くの?!女2!

女2:いっ!てき!ます!!

 

    女2、出ていく。

 

男2:ガチで行った…

女1:スイッチ入っちゃったか…

男2:あんなだったか?アイツ

女1:たまーにね、料理に虫が入ってても、美味しいから仕方ないよねえとか言って許すくせに、
   髪の毛入ってると職務怠慢!ってキレるのよ…

男2:俺、ああいう性格知らなかったわ…

女1:まあ、ぷんすか怒るだけだし、大丈夫…と思うけどね…

 

    男1、寝室から出てくる。

 

男1:ん?誰かきたのか?

男2:逆。女2がキレて出てった

男1:は?

女1:いやまあ…散歩みたいな、もんよ?すぐ戻るでしょ

男1:ふーん、お前ら終わったの?

男2:3人とも終わった

男1:そうか…あ、店のこと横山に聞いたか?

男2:そっちも大丈夫!立食だったら30いけるんじゃね?って。
   こいつの番号教えたから、あとは女1にお・ま・か・せ

女1:はいはいはい

男1:俺の方も全員連絡ついた。…がひとつだけ

女1:なに?

男1:加藤。姫野の連絡先知らなかった

男2:姫野…さんっ!!!

女1:うるさい。…じゃあ誰もわかんないのかな

男1:いや、加藤の話では高校の頃中野と付き合ってたらしいから、そっちに聞いてみればってさ

男2:中野?!!え!中野とも付き合ってたの!?!

男1:らしいけど

男2:マジかよ…

女1:やるう

男1:というわけだから、中野に連絡頼む

男2:うわあああああいやだああああ!!!

男1:うるさい

女1:いいじゃないの、姫野さんの連絡先わかったら進展あるかもよ~

男2:そういうんじゃないの!甘酸っぱい初恋の思いでなの!

男1:あーわかったわかった、とにかく中野に確認しろ

女1:なんならここでかけてもいいけどお?

男2:外行く!聞かれてたまるか!

男1:廊下で騒ぐなよ。苦情受けるの俺なんだからな

男2:くっそう…加藤め…

 

    男2、コートを着込んでブツブツ言いながら外へ。

女1:初恋ねえ

男1:なに、お前も浸ってんの?

女1:別に。ほら、まとめましょ

男1:ああ

女1:連絡先調べんの、さくっと済んでよかった。これ、パソコンで作り直しとく

男1:ああ、頼む

女1:日程どうする?金曜や土曜の夜…で決めちゃっていいと思うんだけど

男1:確かに。全員集まるってことはないだろうしな

女1:電話だとイチイチ面倒だから、案内状作って、来れる奴にメールしてもらう、って感じでどう?
   あ、文面作るのよろしく

男1:形式的なのでいいんだろ?

女1:うん。あと、酒とかジュースは男2に頼めばいいし、女2は当日びしばし働いてもらうってことで、よし。
   あとは…えーと…

 

    間。

 

男1:お前、前からそうだったよな

女1:…何よ突然

男1:人にアレコレやらせるように見せて、うまいこと分割してる。
   俺はさ、頼むのが苦手というか、一人でやったほうが効率いいからさ。だからそれが当たり前っていうか

女1:一人でやった方が効率いい、っていうのは同感。やる気のない奴に作業頼んだって
   結局最後、やらされるのこっちだし。でも、やってくれるんなら分担した方が早いでしょ

男1:合理主義だな

女1:男1はなーんでも一人でやるしさ。手伝うっていっても、いいよの一点張り

男1:だからお前が先に動くようになったんだろ

女1:別にアンタの為じゃないわよ。…あー全く、男2ったらこれなんて書いてんのよ…

 

    間。

 

男1:…あ

女1:なに

男1:頼らない癖がつくと、誰にも頼れない性格になる…

女1:え?

男1:ワタナベだ

女1:ナベちゃん?

男1:作業の時、手伝ってくれたんだ。卒業文集の取りまとめ、とかさ。
   そん時、言われたんだよ。『たまには誰かに頼りなよ、
   頼らない癖がつくと習慣になって、誰にも頼れない性格になるよ』ってさ

女1:ふぅん、ナベちゃんだったんだ。…で、男1はなんて答えたの?

男1:憶えてない。でも、それからよく手伝ってくれてさ、…断れなくなっちまった

女1:男1っていっつも「いいよ」だったよね。
  …なんていうか、あなたの『いいよ』って拒絶というか、逆に触らないでくれって感じがした

男1:それはあったよ。内申欲しさに声かけてくる奴多かったからな

女1:あ、ナベちゃんも、それでからかわれてたな

男1:ナベが?

女1:そっくりそのまんま。加藤とかあのあたりの連中よ。
   男1を手伝ってんの、内申欲しいからだろ、ってさ

男1:そうか…

女1:蹴散らしたけどね、そいつら

男1:へえ

女1:なによ

男1:お前が首つっこんでいったの?

女1:…そうだけど

男1:珍しいな

女1:別にいいでしょ。…ってそれが言いたかったんじゃなくて、その時ナベちゃんがさ…

男1:なに?

女1:卒業までここにいないと思うから、内申は関係ないんだ…って、言ったの

男1:…

女1:普通に言うからさ、あいつらそれ以上何にも言えなくて、あははは。
  …ナベちゃんって、同級生だけどなんか年上にみえたなあ。落ち着いててさ

男1:そうだな

女1:…でもどことなくいつも淋しそうだった

男1:あっという間にまた転校だからな…

女1:あの頃はピンとこなかったけど、大人になって考えてみたらさあ、あれだけの頻度で転校とか
   行く先々の学校で色々あっただろうなって思うよ。からかわれたり、いじめられたり…
   ひねくれて嫌な奴になってもおかしくなかったのにね

男1:オトナにならざるを得なかったんだろうな

女1:男1みたいに?

男1:…そうだな

女1:あーあ、なんか不思議な転校生だったよねえー

男1:…なあ、ワタナベは確かにいたよな

女1:何よその言い方

男1:俺たちだけが覚えてる…なんてことないよな?

女1:どしたの、急に

男1:さっき、連絡ついでに、ワタナベのこと…みんなにそれとなく聞いてみたんだ。
   そしたら…、覚えてなかったんだよ

女1:そっか…

男1:驚かないのか?

女1:…実は私も聞いてみたんだよね。こっちもほぼ同じ返事

男1:…転校生いたね…ってくらいで、ワタナベって名前は誰も覚えてないんだ。
   ナベちゃんって奴がいたのはなんとなく覚えてるけど、別のクラスの子じゃないの?ってさ

女1:それも同じ

男1:お前、ワタナベが転校していった日のこと、覚えてる?

女1:うん。みんな驚いてたなー。
   私は前に、卒業まではいない、って聞いてたからそんなに驚かなかったけど、
   さすがにたった1学期とは思わなかったなあ…男1、覚えてないの?

男1:俺その日、夏風邪こじらせて休んでたんだ

女1:そうだったっけ?

男1:最後の日にいなかったから…言い方あれだけど、ワタナベ自体が白昼夢みたいな、そんな印象でさ

女1:いたけど、誰も覚えていない転校生…か

 

    間。

 

男1:…調べてみるか

女1:どうやって?

男1:渡だよ。実はさっき、中学にかけてみたら、いたんだよ

女1:こんな時間に?!

男1:俺も驚いた。とりあえず同窓会のこと伝えたんだけど、
   もうちょっとで休憩するからその時改めて、って。渡なら、生徒の情報調べられるだろうし、
   ついでに聞いてみようと思ってさ…。…あ…っていうかそろそろだな、かけてくる

 

    男1立ち上がろうとするが、女1が先に立ち上がる。

 

女1:あ、いいよ、私、外に出るからここで話して

男1:またコンビニか?

女1:女2がちょっと心配

男1:ああ…、こんな時間に散歩って、ホント物好きな奴…

女1:いやあ、実はクレームしに行ったんだよね…

男1:クレーム?

女1:ミニシューの中身が違ってたーって…

男1:マジか…

女1:大丈夫とは思うけど、あの子のことだから…

女2:『ちょっとお!罰シューの中身違ってたんですけどおお!
   罰シューはロシアンミニシューにおけるいわばクライマックス!
   塩辛くるかも!カラシくるかも!にんにくだったら明日仕事困っちゃう!
   豆板醤だったら中華食べたくなっちゃうかも!というサスペンスを想像しながら
   ひとつひとつ口に運んでいくところがウリでしょうが!』

女1:…とかなんとか持論が展開された挙句、

女2:『聞いてますゥ?私!ファンなんですよ!ここの!だからあえて言ってるんですよ!
   …弁償?そういうんじゃないんです!これからは間違えないでねっていうエールなんです!
   フレッ!フレッ!っていう!エール!クレームじゃないんですからあ!』

男1:そこまで言うか?

女1:でも脳内再生余裕じゃない?

男1:あー

 

    女1、コートを羽織って玄関へ向かう。

 

女1:というわけだから、回収してくる

男1:俺、行こうか?

女1:男1はアイちゃんに連絡しなきゃでしょ。私慣れてるから、大丈夫

男1:わかった、頼む

女1:じゃね

 

    女1、外に出る。

 

女1:はーさっむ

 

    扉の近くで、男2は煙草をくわえてぼんやりしている。

 

女1:わ、びっくりした

男2:…おお

女1:なに?たそがれてんの?

男2:べつにー

女1:なんかあった?

男2:なんも

女1:じゃあなんで吸ってんの

男2:…

女1:…

男2:女2、迎えに行くんじゃねえの?

女1:…一服してから行く

男2:あ、そ

 

    女1、煙草に火をつける。

 

女1:ふう

男2:さみいな

女1:で、どうだったの?初恋の君は

男2:中野が連絡先しってた

女1:へー、じゃあ電話したんだ?

男2:した

女1:よかったじゃん、話せて

男2:ん、まあな…

 

    間。

 

女1:なんか言われたのね?

男2:いや、別に

女1:正直に言いなさいよ、私が抗議してやるから

男2:ホントないって。ないの

女1:じゃあなんでそんな元気ないのよ

男2:たそがれてんじゃない?
   ま、初恋なんてもんはさ、遠い日の思い出にキャーキャー言ってるうちがいいんじゃねえの

女1:ふーん

男2:誰かさんみたいにこじらせてる奴もいるんだろうけど

女1:誰よ

男2:しらねー

女1:なにそれ

男2:お前の気のまわし方ってたまーにずれてるていうかさ、そんなんじゃ…伝わんねえよ?

女1:大きなお世話

男2:へいへい

女1:アンタこそ、いつまでもはっきりしないから…

男2:はあ?

女1:なんでもない

男2:誰にだよ

女1:しらねー

男2:なんだよ

女1:何でもないったら

 

    間。

 

男2:女2、彼氏できたんだってな

女1:…ええ、よかったわよね

男2:ちっともそんな顔してねえけど?

女1:…

男2:なんだよ、うるさいわね!って言わねえの

女1:嬉しくないわけじゃない

男2:おう

女1:でも前に、女2が「ずっと一緒にいられたらな」って言ったから、私…

男2:ずっと一緒に、ね…

女1:…

 

    間。

 

男2:…俺も同じこと思うよ

女1:誰と?

男2:…

女1:いいわね、みんな大切な人がいて

男2:は?

女1:…私、女2迎えに行く。じゃあね

男2:おい

女1:なに?

男2:いや…気ぃつけろよ。なんかあったら連絡しろ

女1:…ありがと

 

    女1、煙草を消して階段を下りていく。

 

男2:ホント、ズレてんだよなあ…わかんねえかなあ…

 

    間。

 

男2:いつまでもはっきりしないから、か…。…あーさぶ…、中戻ろ…

 

    男2、煙草を消し、部屋の中に戻る。
    男1、難しい顔でスマホを見つめている。

 

男1:…

男2:お、どったの?

男1:あ、いや、どうしたものかと…

男2:痴情のもつれ?

男1:殴るぞ

男2:じゃあなんだよ

男1:渡と話したんだ、ワタナベのこと調べてくれないかって

男2:渡?ワタナベ?…はあ?

男1:さっき女1と話してたんだが、誰もワタナベのこと覚えてなかったんだよ。
   だから渡に詳しく調べてもらおうと思ってな

男2:こんな時間まで学校にいるのか?

男1:残業らしい

男2:先生も大変なんだな…。…で、渡はなんて?

男1:渡もワタナベのこと覚えてないんだよ

男2:はあ?

男1:だから卒業生のデータ調べて貰ったんだ。まあ、最近は個人情報の管理が厳しいから
   名前だけしか調べられなかったけど…そしたら、…いなかったんだ。
   ワタナベという生徒は、当時の名簿にいなかった

男2:いなかったって…転校生がいたのはみんな覚えてんだろ?

男1:いたような気もする、って感じだったな。他の奴も同じような反応だったし

男2:いただろ!ワタナベは確かにいた!

男1:いた。少なくとも俺たちの中にはいた

男2:青春の幻影みたいな言い方すんなよ。もうちょっと詳しく調べてもらえねえの?渡に頼んでさ

男1:…今の渡、かなりキレ気味な感じだけど、お前かける?

 

    自分のスマホを差し出す男1。

 

男2:…いや、いい…。…そうだよな、残業中にこんなおかしなこと頼まれたらキレるよな…

男1:なんか…渡が担当してるクラスでいじめがあったらしい。それで苛々してるみたいだ。
   さっきちらっと愚痴ってた

男2:それで残業?

男1:そこまでは聞いてないけど…まあ色々あるんだろう…

男2:俺らのクラス、そういうのなかったからぴんとこねえよな?

 

    間。

 

男1:…お前は、そうだろうな。そういうのとは無縁だから

男2:…は?

男1:内申だの進学だのさ

男2:なに、俺が大学行かなかったからそういうのとは縁がないって言いたいわけ?

 

    間。

 

男1:そうだ、って言ったら?

 

    間。

 

男2:…進学してサラリーマンになるのがそんなに偉いわけ?
   俺みたいにさ、夜間卒業して、酒屋つぐのは悪いのか?なあ?

男1:悪いなんて言ってないだろ

男2:俺は縁がないんだろ?    なんなんだよ…俺は俺だ。なにも変わってねえよ

男1:じゃあなんで、みんなと距離とってんだ

男2:とってねえ

男1:お前から離れていっただろ

男2:仕方ねえだろ!気ぃ使われたくなかったんだよ!
   俺は何にも間違ってねえし、後悔もしてねえ。
   進学できなくて残念だったね、とか言われる筋合いねえんだよ!
   俺は!自分で選んだんだよ!親父の店をつぐって!
   進学するのが普通で、俺は普通じゃないみたいな扱いされる覚えはねえんだよ!
   それが嫌だったんだよ、悪いか!!

男1:…男2

 

    間。

 

男2:…ごめん

男1:いや…

男2:「縁がなかった」って言葉がさ…
   男1はそういう意味で言ったんじゃないってわかってんのに
   なんかちょっと…ムシャクシャしててさ。…悪かった

男1:今日、誰かに言われたのか

男2:…

男1:…わかった。聞かない

男2:…すまん

 

    間。

 

男1:…煽るつもりで言ったんじゃないけど、
   お前がみんなと距離をとってるのは、わかってたからさ。
   誤解ついでに聞いてみたくなった。…俺も悪かったよ、ごめんな

男2:いいって、男1はそんなこと考える奴じゃねえって、わかってるからさ

 

    間。

 

男1:…さっき渡が、言ってたんだ。「何がいじめかわかんない、私はいじめだと思えない」って

男2:なんだそれ

男1:いじめってどんなのをいうんだ?

男2:どんなって…そりゃ、無視したり、悪口言ったり、…殴ったりとかじゃねえの

男1:お前が女1に殴られるのは、イジメに入るか?

男2:アイツの理不尽は、大いに主張したいところではあるけどよ!
   …ま、イジメじゃねえ。スキンシップみたいなもんだって思ってる。
   だけど、さして仲良くねえ奴にされたらムカつくし、度を越してりゃ傷つきもするだろうな

男1:つまり、イジメっていうのはされた側の捉え方次第、だな。
   渡がそうだと断言するつもりはないけど、「先生」の目には見えない「いじめ」もあるってことだ

 

    間。

 

男2:男1、何が言いたいんだ?

男1:俺はいじめられてた

男2:はああ?…何言ってんだよ、成績優秀、天才、天下無敵の生徒会長様だろ?

男1:それだよ。俺はそうやってずっとからかわれてた

男2:…からかうって

男1:俺が生徒会長になったのは、俺がやりたくて立候補したからじゃない。
   悪ふざけで推薦した奴らの吊るし上げだ。
   成績が良かったのは、天才だからじゃない、努力したからだ。
   頑張ってないことも、頑張ったことも、全部からかわれる。
   冷やかされたかと思えば、ひがまれて、…苦痛だった

男2:…

男1:お前に無縁だ、って言ったのは、男2の周りにはそんな奴いなかったからだよ。
   お前はいつも人気者で、みんなの中心にいて、笑いがあって…羨ましかった

男2:だけど俺もさ、お前のことからかってる奴らの一人…って思ったこともあっただろ?

男1:お前のからかいに悪気がないのはわかってる。でも、それを「きっかけ」にする奴等は確かにいた。
   男2がそんなこと言わなきゃ、って思ったことは、正直あるよ

男2:だろうな。ごめん

男1:昔のことだ

男2:なあ、あの頃お前、自分から人に関わらないようにしてたよな?それも、その、それが原因なのか?

男1:…顔には出さないけど、嫌なことを言われれば傷つくし悲しいよ。
   でもそれを悟られたくなかったんだ。違うと言っても伝わらないなら、距離をとった方が楽だろ

男2:今の俺みたいに、な

男1:…そうかもしれないな

男2:俺はさ、言い訳に聞こえるかもしんねえけど、からかいとかじゃなくて本気で、
   男1のことすげえなって思ってたからさ。中学の時だけじゃなくて、それからもずっとさ

男1:…中学の時は生徒会長、高校は進学校で、大学は一流、会社は上場企業…
  …俺の名前より先にくるのは、いつもそっちだ。…ずっとな

男2:…

 

    間。

 

男1:まあいい、作業を続けるか

男2:いや、よくねえだろ

男1:なにが

男2:お前もアイツも、ホント似てんのな。肝心なところになると誤魔化すっていうか

男1:別に俺は

男2:男1もさ、向き合えよ。今更昔のこと掘り返しても意味ねえとか思ってるんだろうけど、
   思うこと言えよ。今みたいに、吐き出せばいいだろ

男1:…

男2:たまには、女2みたいに突っ走ってもいいんじゃねえの?つまんねえことでさ

 

    間。

 

男1:っていうかあいつら…どうしてるんだ?

男2:あ、そういえば…

 

    間。

 

    場面変わって、駅前で女2を探す女1。
    かなり不安げに、焦った様子でいる。

 

女1:女2…、どこにいんのよ…

 

    移動販売のワゴン車はもうない。あった場所で女2を探す女1。

 

女1:車いないし…まさか…あの子がいちゃもんつけたから店主がキレてそのままどっかに…

 

    立ちすくむ女1。どんどん青ざめていく。

 

女1:…ちょっとどうしよう……警察…?…あ…男2に連絡…!

 

    スマホを見ると、ちょうど女2からの着信。

 

女1:え!…もしもし!女2?アンタいまどこにいるの!?大丈夫なの!?

女2:えっとね、今はー、…ねえ、ここどこ?駅の裏?駐車場?ここどこだーあははは!

 

    女2の能天気な声に女1は苛立つ。

 

女1:…誰に聞いてんの?

女2:えー?…ふふー内緒!

女1:…あっそう

女2:女1、いまどこにいるの?

女1:ミニシュー屋があったとこ…

女2:じゃあそっち行くー!

女1:…

女2:もうすぐ着くから待っててねえ!
   あ、紹介したい人もいるんだ!お楽しみに!!

女1:誰

女2:まだ内緒!

女1:内緒内緒…ホント、内緒が好きね…

女2:えー?なにー?

女1:誰といるのよ

女2:だからまだ内緒…

女1:人に散々心配かけといて!誰といるのよって聞いてんの!

 

    間。

 

女2:…女1?

女1:車なくなってるし、女2はいないし…連れていかれたのかと思って、心配したでしょ!!
   それを何よ、内緒!?ふざけないでよ!誰よ。…彼氏?彼氏と会ってこっちのことは忘れてた?
   なんなのよ!勝手に突っ走って!連絡もしないで!私は心配ばっかり!ホントなんなの!!

女2:…怒ってる、の…?

女1:当たり前でしょ!私ねいつも怒ってばっかりなの。アンタと違ってね。
   いつもニコニコして、それだけで人が集まってくる女2とは違うのよ!
   笑ってるだけで上手にやれていいわよね…女2、かわいいもんね、
   知ってた?アンタ結構モテてたよ?女2は好きな人いるのかな、って、私何度も聞かれたし…
   かわいいって、本当に得だよね。羨ましいよ、ずっと…今だって…

女2:女1…

女1:私とは正反対…生徒会だってさ、女2なら人気票でなれたでしょ?
   でも私はね!努力してなったの!男1みたいにぶっきらぼうでも人望があるわけじゃないし、
   男2みたいに面白いことが言えるわけでもない、女2みたいにかわいいわけでもない…
   努力しなくても人気だけで何でもできるアンタたちとは違う!
   みんなが嫌がること率先してやったのは、そうでもしないと、自分の居場所がなかったから!
   私に人が集まってくるのはね、人気があるからじゃない、都合がいいからなのよ!

 

    間。

 

    女1の前にスマホを持った女2が現れる。
    二人とも持っていたスマホを下して、お互い見つめあう。

 

女2:…言いたいことはそれだけ?

女1:…だったらなによ

女2:じゃあ私の番。

   女1はいっつも人の顔色ばっかり見て、思い込んで、決めつけて、先回りして、でも全然的外れ!

女1:はあ…?

女2:かっこつけてさ、徹夜で頑張ったりするくせに、それを隠してさ、わかるわけないじゃん!
   そりゃみんなズルいよ!?ラクしたいもん!だから女1に押し付けるんじゃん!

   嫌なら嫌って言えばいいじゃん!

女1:やらなきゃ誰も私のことなんて必要としないのよ!!

女2:ばか!!!ばかばかばかばか!ばか!!!

女1:女2…

女2:…じゃあ私達なんなの?女1のこと好きで、都合いいとかそんなの関係なくて…
   一緒にいたかったからいたのに…私たちもみんなと同じなの!?
   私見てたよ?女1が頑張ってたの。自分のこと二の次で、みんなの為に頑張ってたの。
   …そりゃ、やりたくもないことやって、それで居場所を作ってたって…今初めてわかったけど…
   それでも!頑張ってるの見てたもん!だからそばにいて、何かしたかったんだもん!
   私…勉強も運動も中途半端で…ドジで…手伝っても仕事増やしちゃったりするから、
   それ以外のことで、手伝いだくて…せめて笑っていてほしくて…

女1:女2…私…

女2:…ごめんね。私が突っ走って、女1に迷惑かけちゃうのは、本当だもんね。
   私、あの頃からずっと、何かあっても、女1が助けてくれるって、甘えてたんだと思う。
   今日だって、連絡もしないで…心配かけて…怒って当然だよ。だから…嬉しかった

女1:嬉し…かった?

女2:うん。嬉しい。だって女1、いつも怒らないんだもん。本当のことも言わないし…
   だから不安だったの。私は女1の友達でいられてるのかな、って…
   私、ドジばっかりで小さい頃から人に迷惑かけて、嫌な顔されたり、こっちくんな、って言われたりした
   …だから、ニコニコするしか能がないんだ…ごめんなさい…

女1:女2!…違う!

 

    間。

 

女1:…こっちこそごめん。嫌なこといっぱい言ってごめん。
   心配かけるな、じゃないんだ、…もう、心配できないのかなって、淋しくて…
   女2に彼氏できたらさ、もう私の役目…っていうか…居場所がなくなったような気持ちになって…
   ホント駄目ね。女2の言うとおり、人の顔色ばっかりみて、相手の気持ちを見れてないんだね、私…

女2:見てるよ。女1は私達のこと、ちゃんと見てくれてる。だから男1だって心配してるし、
   男2だって…いつもふざけてるけど女1のことちゃんと見てるよ?
   …私もね、彼氏できたけど、本当に大丈夫かな、って…ずっと悩んでたんだ…
   ちょっとダメだったら、すぐ女1に泣きついちゃいそうで、
   …心配かけないようにって、自信もてるまで頑張って、それで今日やっと言えたの

女1:女2は、私に心配かけないように、って心配してくれてたんだよね。

   なのに私、女2が男2のこと好きだって決めつけて…

女2:それだって、私のためにしてくれたんでしょ?…色んな事我慢して。…女1は本当に優しい

女1:私は、優しくない…臆病なだけ

女2:優しいよ。だって、ナベちゃんがからかわれてた時も、女1が助けたじゃん。

   ナベちゃん、ずっと憶えてるよ、嬉しかったって

女1:…あれは私が行く前に女2がつっこんでいったからよ…

女2:うん、私もナベちゃんも、女1が助けてくれた。
   今日だって迎えに来てくれた。…怒ってくれた。ありがとう、女1

女1:無事ならいいの…うん、良かった、無事で…

 

    間。

 

女1:…ん?

女2:なに?

女1:ナベちゃんがずっと憶えてるって…ん?どういうこと??

女2:ああ!言い忘れてた!…ってあれ?どこにいっちゃったんだろ、おーい!ナベちゃーーん!!

女1:は?ナベちゃん?

 

    女2の声に、構内の柱に身を潜めていた人影が動く。
    ゆっくりこちらに近づいてくる。

 

女1:…ど、どちらさま…?あ、彼氏?

女2:ううん!ナベちゃん!

 

    間。

 

女1:ん?

女2:うん!

女1:んん??

女2:うん!!

 

    間。

 

女1:はあああ?

女2:じゃじゃーーん!オトナになった、ナベちゃんです!!

女1:いやいやいや、男2みたいな冗談言わないでよ…

女2:ホントだって!ね!ナベちゃん!

 

    女2に聞かれ、ゆっくりうなづく。
    その面影に、それがナベちゃんであることを悟る女1。

 

女1:あ…その顔…ホントにナベちゃん…あ、いや、その…お久しぶりです…ワタナベ…さん?

女2:それが違うのー!ワタナベじゃないのー!

女1:はあ?なに、やっぱり冗談なわけ?

女2:そうじゃなくてー、ナベちゃんだけど、ワタのナベちゃんじゃないの!

女1:…日本語で言って?

女2:んんんー!…あ!ねえねえナベちゃん、女1にも名刺あげて!

 

    女2に促され、ナベちゃん、女1に名刺を渡す

 

女1:あ、どうも…ご丁寧に…今ちょっと名刺持ってなくて…

女2:いいから!名刺!見て!

女1:なによ…

 

    女1、名刺を見る

 

女1:…え?…ええ!?

女2:ね!すっかり忘れてたよねえ!

女1:この名前…

女2:そう!へんだよねえ!

女1:…!…思い出した!あなた…!

 

    間。

 

    男1の部屋、男2と二人、押し黙っている。

 

男2:あのさー、いっこ聞いていい?

男1:なんだ

男2:なんで同窓会の幹事引き受けたんだ

男1:なんでもなにも、先生から頼まれたからだろ

男2:…そう言うと思ったよ

男1:じゃあお前はなんで引き受けたんだよ

男2:みんなに会いたかったからだよ

男1:…

男2:俺たち4人はたまーに会ってるけどさ、
   他のみんなにも会いたいなーって思ったから、引き受けた

男1:そうか

男2:…ま、俺の場合、自分から離れたけど、もうオトナじゃん?
   みんな働いてるわけだし、俺だって小さな酒屋だけど社長だし、
   胸張っていこうかな、ってさ

男1:上田や川上、男2はどうしてる?って聞いてたよ、お前に会いたいってさ

男2:やべえ、モテ期到来?…で、お前は?みんなに会いたい?

男1:…

男2:腹割って言えよ

男1:別に、会いたくもないな

男2:いいね、本音いいじゃん

男1:あいつらにとっては、一晩寝れば忘れるような悪ふざけだったとしても、だ
   …された側は何年経っても憶えてるんだよ、俺がそうだからな

男2:ま、そうだな。俺もそうだし。…なあ、俺にもムカついたことあっただろ?

男1:たまにな…

男2:やっぱ、天才!とか、天下無敵!とか、そのあたり?

男1:いや、お前はすぐ、モテるモテると冷やかすだろ?
   モテたところで、好きでもない女に告られて、見知らぬ男に逆恨みされるのはたまったもんじゃないぞ

男2:…俺!それ一度言ってみてぇ…!

男1:(笑う)

 

    間。

 

男1:俺、あの頃は相当ギスギスしてたよ。
   生徒会長も、正直、誰がなっても関係ないって思ってたし。
   でも、なったからには義務が生じるだろ?だから、なんとなくこなしていただけでさ

男2:“真面目な優等生”

男1:…ってツラしてないと、やってられなかったからな。
   悪態つかれて殴り返したところで、分が悪いのはこっちだ。だったら聞き流したほうが楽だろ。
   近寄りがたいなって思われるくらいが、ちょうどいい

男2:…

 

    間。

 

男1:でも、…アイツは違ったな

男2:ワタナベか?

男1:ああ。居心地がよかった。だから素直に手伝ってもらえたのかもしれない

男2:…お前にちょっと似てるところあった気がする、どこって言われるとあれだけど

男1:何かを諦めてた…ってとこだろうな。さっき、女1が言ってたよ。
   あれだけ転校してたら、色々あっただろうねってさ。からかわれたり、いじめられたり…
   …あいつも俺と一緒で、慣れる方をとったんだろうな

 

    間。

 

男2:なあ、あいつ…転校初日に、クラスでからかわれなかったか?

男1:え?

男2:自己紹介の時だよ、俺もふざけて、何か言ったような気がするんだよな…
   なんだろう、なんか思い出しそうなんだよなあ。アイツの何をからかったんだ…

男1:確かに、ちょっとした騒ぎになったような…

男2:そうなんだよ!あいつが困った顔…っていうか、
   なんともいえない顔っていうのかな、記憶にあるんだよな…そしたら女2が何か言って…

 

    間。

 

男1:あ…!

男2:どした?

男1:アイツは…ワタナベじゃない…

男2:はあ?

男1:そうだ…あーなんで忘れてたんだ…ナベナベ言われてたから普通にワタナベだと思ってたけど、
   女2がそのまんまなアダナ付けるわけないんだよ…

男2:おい、俺にもわかるように説明しろよ

男1:アイツは「ヘンダ」って名乗ったんだよ

男2:変だ?

男1:違う。辺田だ。二等辺の“辺”に、田んぼの“田”!

 

    間。

 

男2:ああー!

男1:だからワタナベで探したって見つかるわけないんだよ…

男2:じゃあ俺、アイツの名前をからかったのか…へんだだってよーへんだよなあ!って?

男1:お前じゃない。他の連中だ。そしたら、女2が言ったんだ。
   辺田くんの辺(へん)は渡辺の(ナベ)と同じだから、きみはナベちゃんだ!って

 

    間。

 

男2:(思い出して笑う)そうだったそうだった!

男1:そしたらお前もすぐ言ったんだ。よう!よろしくな!ナベ!って

男2:…え

男1:お前が言ったから、みんなナベって呼ぶようになった。あいつをからかう奴はいなくなったんだよ。
   そうか…そうだったな…

男2:いや、俺は…

男1:(自嘲気味に笑う)

男2:ん?…男1、どした?

男1:いや…つくづく俺は薄情だな

男2:なんだよ

男1:「成績優秀で真面目な優等生」だとさ…
   クラスメートの名前も忘れる薄情な奴がか?笑えるな…

 

    間。

 

男2:だから、…そうじゃねえだろ

男1:ん?

男2:オマエさ、単なるクラスメートの名前忘れてたから半ギレしてんの?
   違うだろ?忘れたくないと思ってた奴を忘れたからじゃねえの?
   お前が優等生とか生徒会長とか関係ねえだろ、すり替えんなよ

男1:…

男2:男1、ナベのことどう思ってたんだよ

男1:どう…って

男2:お前がナベに対してどう思ってたか、だよ、好きとか嫌いとか、いい奴、とか…さ…

 

    間。

 

男1:…俺は、アイツと友達になりたかった

男2:…おう

男1:友達になりたい…って、そこまで思っておいて、アイツのことすっかり忘れてて…

男2:ああ

男1:ナベとはさ、会話らしい会話は何もしてない。
   でも、黙って一緒にいても全然苦じゃなかったんだ。
   あんな奴、初めてだったな。なのに…何もできなかった、…薄情な最低野郎だ

男2:あのなあ…

男1:…ああ、すまん。自虐なんてガキのすることだな

男2:言えよ。ダチなんだからいいんだよ、…言いたいこと言え

男1:言いたいこと…

男2:ああ。ナベにさ、何て言いたかったんだ、おまえ

 

    間。

 

男1:…さよならくらい、言いたかったよ、ちゃんと目を見て

男2:さよならだけか

男1:あとは、またいつか、会おう…かな…

男2:そっか、うん

男1:ずっと後悔するんだろうな…俺は…

女2:まだ間に合うんじゃないのーー?!!!

男2:だあぁーー!

 

    玄関に立つ女1と女2。

 

男2:お、おま、心臓が…

男1:驚かせるな!なんだ急に!

女1:だから、まだ間に合うんじゃないのって言ってんの

男1:主語を省くな、意味がわからん!っていうか、いつからそこにいた

女2:こっそり開けて、二人が話してるの聞いてた!

男2:え、どっから

女1:ナベのことどう思ってたんだよ、あたりから

男1:おまえら…

男2:ああまだ心臓バクバクいってる…

女2:もっと驚いちゃうよーー!!ほらほらこっち…!

 

    女2、外にいるナベを引っ張って玄関から2人に見せる。

 

女2:じゃーーん!!

 

    間。

 

男2:え、誰?

女2:ナベちゃんだよー

男1:は?

男2:はああああああーーーー?!!!

女1:いやまあ、正確にはワタナベじゃなくて…

男1:辺田、だろ?

 

    間。

 

女1:…思い出してるし

女2:そうだよ!ロシアンミニシュー屋!「HENDAYO(ヘンダヨ)」のナベちゃん!

男2:え?…あのミニシュー屋?!ってかそういう名前なの?!

女2:そうなの!だからわさびは仕方ない!

男2:仕方ないな!うん!

男1:すまん、俺にはわからん

女1:あー、つまりね、女2がミニシュー屋に文句言いに行ったらね

女2:文句じゃない!エール!

女1:あーうんうん、エールしに行ったらね、ナベちゃんから、女2に声かけてくれて。
   それで、ナベちゃんだってわかったみたいなの

男2:で。ワサビが仕方ないのはなんで?

女1:そこ!それがまたナベちゃんらしいっていうかさ!ナベちゃん、女2のことだけじゃなくて、
   男2のことも覚えててね

男2:え!そうなの!?

女1:さっき二人で並んだんでしょ?そんとき、男2が豆板醤苦手なのも思い出したから…

男2:…まさか!

女2:そう!男2のために、豆板醤いれなかったんだってー!だからわさびは仕方ないの!

男2:覚えてて…くれたの…?…俺のために…!?うううううう!なべええええ!!

女2:うんうん、ナベちゃん優しいよねえ

男1:ブチ切れてクレームしに行った奴が言うな

女2:クレームじゃない!エール!

女1:まあ、そのおかげで会えたわけだし、結果オーライってことで…

男1:…で、なんで…ここにいんの?

 

    間。

 

女1:まあそのー、ノリで連れてきちゃった、感じ…?

男1:お前がノリでね。珍しいことだ

女1:う、うるさいわね、いいでしょ!
   アンタに会わせたかっただけよ!それだけ!

女2:女1、優しいー!

女1:ちょ…!そもそも女2が連れて行こうって言いだして聞かなかったんでしょ!

女2:私のわがままに付き合ってくれる女1はやっぱり優しいー!

女1:あのね!!

男2:まあまあまあ…で…どうすんだ?

 

    間。

 

男1:どうするって、なんだよ

男2:ここお前の部屋だしさ、…男1が帰れって言ったらナベ帰ると思うけど?

女2:なんで!せっかく会えたのに!

男1:別に帰れとは…

男2:だよなー!帰れとは言わないよなー!
   なんてったって、お前が友達になりたいって思ってた奴だしなー

男1:…おい!

女2:へえ!キグウだね!ナベちゃんも、ずーっと男1にまた会いたいって思ってたんだって!

男1:え…

女1:ナベちゃんね、あれからもあちこち点々としたけど、ここだけはずっと憶えててくれたの。
   いつか大人になったら、この街に帰ってきてお店やって、ずっと住もうって…
   男1にも会いに行こうと思ってたみたいよ?

女2:ひゅーーー

男2:ひゅひゅーー

男1:…なんで

 

    間。

 

男1:なんで俺を…

 

    間。

 

男1:俺は…別にお前に…何もしてない。
   からかわれてたお前を助けたわけでもない、あだ名を付けてやったわけでもない…俺は何も…

 

    間。

 

女2:確かに、ナベちゃん、って付けたのは私だけど

男2:よろしくな、ナベって言ったの、俺じゃねえよ?お前が言ったんだよ?

男1:…え

女1:だからみんなナベって呼ぶようになったのよ?

 

    間。

 

男1:…

男2:…お前さ、みんなから、からかわれてたって思ってるかもしんねえけど、
   そんなのほんの一部だよ。

女1:不愛想なのに、なぜか求心力、あったわよねえ

男1:…

女2:みんなのこと、名字でしか呼ばない男1が、ナベちゃんのことだけはナベって呼ぶから、
   それもナベちゃん、嬉しかったみたいよー?ねえ?

 

    間。

 

女1:…というわけで、これからやることは??

女2:ひとつだよねえ??

男2:よっしゃーー!!飲み会だーー!同窓会の前夜祭しようぜ!!

女2:やったーーー!酒だ酒ぇーーー!!酒もってこーーい!

男2:おいナベ!お前こっちにいるんだろ?だったら同窓会にも来いよな!みんな驚かせてやろうぜ!

女2:ねえねえナベちゃん!!四川風なんちゃらの麻婆豆腐作って!!!

男2:俺、豆板醤キライって言ったよね?

女1:克服したんでしょ?

女2:さっき、食っておけばよかったって言った!

男2:つまんねえことしっかり覚えてんじゃねえよ!!いっそシュークリーム煮ろよ!

女2:煮ない!

女1:じゃあ焼く?

女2:焼かない!んもう!ふたりともー!!

 

    3人がはしゃぐ中、男1、無表情のままいる。
    それをナベが不安そうに見つめている、その視線に気づく3人。

 

男1:…

男2:男1-!

女2:男1~~!!

女1:…男1

 

    全員に見つめられる中、男1、笑って小さくため息をつく。

 

男1:生徒会長命令だ。よく聞け!

3人:はい!!

男1:てめえで飲む分はてめえらで買ってこい、
   俺は部屋を貸すんだから、俺の分はお前らが出せよ?いいな!

3人:らじゃらじゃ!!

男1:…それから、ナベ…!

 

    間。

 

男1:…歯ブラシも忘れんなよ

 

    間。

 

    くすくす笑い出す3人。

 

男1:返事は!

3人:らじゃらじゃーーー!!

 

    全員、笑いあう。
    さあいくぞー、何買う?じゃんじゃん飲むぞー!お前らうるさいんだよ、というような4人のやりとりを
    ナベがうれしそうに見て、笑っている。

 

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